第6話 鴉の夢は
怖くない…、怖くない…。
そう、自分に言い聞かせる。
「マルギル!」
シュウザーとの思い出が、シュウザーと過ごした日々が。
シュウザーがマルギルを両手にのせて、必死に問いかけた。
「大丈夫よ、シュウザー」
そういって、優しく笑う。
貴方は優しいから、誰にでも優しいから。
邪神の自分には、きついだけ。
「少し疲れたから、貴方の肩で休ませて」
そういって、ふらふらと。シュウザーの右肩に座ると、まるで樹にもたれかかる様に両手でシュウザーの首にしがみついた。
あれからも、シュウザーの悲しい顔をみたくなくて。
削って、削って。
こっそり、虫から命を吸って。
でも、虫や鳥では全然力は戻らない。
「マルギル…、本当に大丈夫かい?」
「えぇ、平気だから」
貴方にだけは、貴方が死ぬまでは。
私は、貴方の妖精でいなくちゃね。
その薄い羽が、煤けて。
力が喰う命は、相手が欲深ければ欲深い程に。
相手の愛が深ければ深い程、凶悪にその力を満たす。
大きな力を、奇跡を望む程。
喰わねばならない、その命の数が増えていく。
「だから、私は可能な限り食べずにきた」
(愛する人と同じ、人を喰わずにきた)
刹那の力を求めて、自分の想いを否定したくない。
だから、マルギルはずっと美しいまま。
だから、シュウザーは彼女を妖精と思い続けられた。
邪神や悪魔は、特別な事がなければ力があればあるほど醜い姿をしている。
こんなに美しい、マルギルが悪魔や邪神な訳はないと。
彼女はただ、シュウザーと共に居たかったから。
ずっと、ずっと。
それだけで、良かったから。
命をギリギリつなげる分しか、命を吸っていなかっただけ。
シュウザーは、人らしく大きく成長していく。
小さな少年だった彼は、青年に変わっていく。
魔国の小さな街で、小さな幸せを紡ぐ。
哀しくも、美しい彼女の黒い夢は。
青年も又、肩に乗る黒い妖精と共に過ごす日々が楽しくて仕方ない。
「マルギル、今日は何処にいこうか」
「貴方と一緒なら、何処へでも」
星が煌めいても、夕焼けを見ても。
街の喧噪の中に居ても、貴方と一緒なら。
「私は、貴方の妖精で良かったわシュウザー」
「僕も、召喚されたのが君で良かったよマルギル」
周りには、シュウザーが独り言を喋ってる様にしか聞こえない。
契約した、シュウザーにしかマルギルは見えていないのだ。
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