第11話 ツクリモノ

「シュウザー、起きて!」


マルギルが珍しく、朝から大慌てでシュウザーをひっぱって起こそうとしていた。



「どうしたんだよ、マルギル」



寝ぼけ眼で窓から外を見て、眼を限界まで見開く。



邪龍の毒と病が、街を覆いつくして建物が溶けかかっているのが見えたから。



「魔術防御がある建物は、何とか耐えてるけどこれもうだめ何じゃないか…」



至る所で、せき込んでは吐血している通行人達。


いつも、マルギルと歩いた屋台通りさえ商品が黒く染まって溶けていた。




「朝起きたら、こうなっていたのよ…」



シュウザーの額に、汗がぽたりと落ち拳を握りしめた。




「シュウザー…」


心配そうな顔で、その様子をマルギルが見つめた。



「マルギル、起こしてくれてありがとう。でも参ったな、これじゃ逃げ場がないよ」


そういうと、シュウザーはマルギルには無理矢理笑ったような悲壮な顔をして言った。




「私の干渉する力で…」



マルギルがそれを言いかけると、シュウザーはダメだ!と叫ぶ。



「それをやったら、もう君を隠しておけない。絶対にバレる、そんな事になれば君は絶対使いつぶされるぞ」



シュウザーが血相を変えて怒鳴り、マルギルが頭を冷やす。


「じゃ、もう一つの提案。この引換券を使うっていうのは?」



シュウザーが、その引換券を見て驚愕した。




「これ……は?」


「その名の通り、引換券。但し、これは使い捨て。込められた力で理も理不尽も吹き飛ばす道具、これを使った事にすればいい」



「デメリットは、私が貴方の前から消えなくちゃいけない事だけど」



その言葉に、シュウザーが頭を抱えた。



「ボクが使っちゃダメなのか?そうすれば君は消えずに済むとか…」


「残念だけど、人の貴方がこれを使ったら魂ごと吹っ飛ぶでしょうね」



だから、私が使えば元々貴方以外に見えていなかったのだから万事解決でしょうと笑った。


その言葉に、奥歯を噛みしめる。



「解決なんかじゃない!」


「他に方法はないわよ、私が力を使って私の存在を隠しておけないか。私が使い捨ての引換券を使って居なくなるか」



これだけの規模の魔素由来の病や腐敗を押しとどめるなら、奇跡が居るけど奇跡って神の加護じゃない。



「私が、邪神ならまだ何とかなったかもしれないけれど。負の感情を吸わずに、貴方の妖精で居続けたいと贅沢言った結果だもの」



その言葉に、遂にただ無言でシュウザーが床に膝をついて床を叩く。



「くそっ!僕にもっと力があれば」



その時全てがモノクロになって、マルギル以外の時間が止まった。



「よっこいしょ…」


いきなり空中に開いた、黒い穴から出て来たのはいつぞやの幼女だ。


「時間は止めておいたぞ、マルギル」



「貴女は、屑ちゃん?」


「いや、君は運が無いな。邪龍の病が街を覆うとは…、同じ人を愛したバカのよしみで三つ目の選択肢をあげようと思うのだがどうだろうか?」



その言葉に、マルギルが眼を細めてどんなよ?と尋ねた。


「引換券でこの街の邪龍の理不尽を全て吹き飛ばし、足りない部分は私に後払いで君の容姿を妖精のまま邪神として力を振るえる様にしよう。つまり、奇跡の前借というやつだな。その、支払いが終わったならシュウザーと共に今止めた時間軸に戻してやることもサービスしようじゃないか」



「改めて、名乗るよ。私は、神をもなぎ倒す位階神の一柱エノという」


その言葉に、マルギルが肩を揺らして笑いだす。


「貴女が位階神?確かに、全ての時間を止めるなんて馬鹿げたことが出来て。引換券なんて恐ろしいものを、くれるだけの事はあるわね…。それなら、貴女の力を貸して頂戴」


そういって、エノとマルギルががっちりと握手を交わした。


「交渉成立だな、マルギル」


「シュウザーと一緒にいられて、全ても救えて最高の選択肢じゃない。神ならそんな提案しないし、邪神ならそもそもそんな後払いなんて気前のいい選択肢は出さないわよ」


「バレバレか」


そういって、幼女とマルギルが止まった時間の中で笑った。

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