第2話 彼と彼女の日々
マルギルはそっと間延びすると、まだ横で寝ているシュウザーを見た。
子供特有の小さな寝息が聞こえ、マルギルはシュウザーの為に洗面器を用意する。
木製の若干重たい洗面器を頭の上にのせて、ふらふらと飛びながら毎日運ぶ。
空のそれをベッドの横にある小さな机にのせると、魔法でお湯を作り出す。
家族達がその様子をみると、洗面器が勝手に空を飛んでいる様に見える訳だが。
「シュウザー、お湯の用意できたわよ」
その小さな手で、シュウザーのほっぺたをぺちぺちと叩く。
寝ぼけ眼で、シュウザーが苦笑しながらありがとうと言った。
「毎朝、ありがとう。マルギル」
そういって、洗面器で顔を洗ってタオルで顔を拭いた。
「貴方は、研究者の子なのでしょう。清潔なのは、大事だと思うわよ」
「僕は、君が居なかったらずっと独りぼっちじゃないか」
そういって、少しすねた様に笑った。
「そっか…、でもやっぱり清潔な方が私は嬉しいわ。私は、貴方の肩に良く座ってるでしょう?」
私は、匂う様な所に座るの嫌よ。とマルギルが笑って言えばシュウザーも頭の後ろをかきながら笑った。
「僕は君に嫌われたくないから、清潔にする努力をするよ」
「ふふっ、是非そうして頂戴」
そういって、お互い笑いあう。
はた目から見れば、シュウザーは何も無い所に向かって話しかけている変人に見えたろう。
でも、シュウザーの両親はそれはきっと寂しさからくるものだと思って特に何も言わなかった。
(そして、それは半分は正解だったから)
シュウザーは、表情の無い子だった。
シュウザーは、笑わない子だった。
だが、ある日を境に独り言を言う様になってから良く笑う様になったのだ。
誰かに話しかけている様な、独り言を言う様になってから明るくなった。
だから、誰も何も言わなかった。
彼と彼女の日々は、ずっと続いていく。
ずっと、ずっと続く。
そう、思っていた…。
マルギルはある時、魂が見える様になった。
それを両手で押し込んだら、息を吹き返したのだ。
それを、シュウザーは見ていた。
息を吹き返したのが、シュウザーの母親だったから。
過労で研究室で倒れていた、母親に駆け寄った時マルギルが白い何かを脂汗びっしょりで力一杯母親の中に押し込んでいた。
その後で、シュウザーは母親を引きずるようにベッドに運ぶと寝かせ父親が帰ってくるのを待った。
だが、その横でマルギルも倒れてしまっていた。
シュウザーはマルギルを、そっと両手で持つといつも彼女が使っている網籠に寝かせ。
「何が、どうなってる?」
口に手を当てて、必死に考える。
「彼女が起きたら、尋ねよう。今はただ、寝かせた二人が心配だ」
そう言って、考えるのを止め母親の額に濡らして絞ったタオルをのせた。
そこで、ふと気がつく…。
「マルギルには、どうしたら良いんだ?」
そう、マルギルは今まで倒れたり弱ったりしたことが無い。
「困ったな…」
そういって、とりあえずおかゆでもと思って作る事にした。
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