第5話 かすかな光
マルギルは、あれからシュウザーの肩にのっていた。
エメラルドグリーンの、粉雪が舞い。
ばら撒かれた弾丸の薬莢のごとく、力の粒子がこぼれていく。
「私の力の名は、Barrett Crow。啄む様に命を咥え、それを糧に飛翔する」
その力は、魂すら掴んで。運命すらも押し戻す…、しかし代償が問題だった。
自分があれから、自身の内側を見つめて判った事。
燃やす命は、自分の命でも他者の命でも構わない。但し、結果が伴わなくとも。その力を使った時点で命を燃やしてしまう。
「自分は、妖精じゃなかった。そして、自分が気を失ったのはシュウザーの母親を助ける時に燃やしたのは自分の命だったから」
途端に顔を覆い、そして涙など無くともその両手に力が入る。
「今回は、助かった。あの後、私もシュウザーの母親もしばらく最低限以外はベッドで倒れていたけれど…」
(叶う筈のない、願いを叶える邪悪な力か…)
この時よ、消えないでと思いながら。
「私は、貴方の妖精よ」
シュウザーの為に、自分は妖精で居続けなきゃいけないんだ。
「私は、貴方と契約したのだもの」
やつれた自身の両手に、揺れる瞳。
ただ、まっすぐにシュウザーを見て。
(私は悪魔、見た目が妖精の邪悪な…)
その紫煙の様な瞳を、決意に固め。
黒き妖精は、そっと少年の方を見ていた。
「ありがとう、マルギル。でも、もう二度とこんな無茶はしないで」
僕の友達…、僕の大切な友達だから。
「えぇ…、そうするわ」
(ごめんね…、シュウザー)
私は、嘘をついた。
人をかどわかす為の嘘、人を不幸に陥れる為の嘘。
自分を大きく見せる嘘、自分を飾る嘘。
嘘と言った所で、その種類は山程あるけれど。
(私がつく嘘は、貴方の為にだけ)
その言葉は言わず、ただそっとシュウザーの頬に小さな手を当てた。
「ムリはしないわ、貴方の悲しい顔をみたくないから」
そういって、マルギルが優しく笑った。
「早く、お母さんが良くなると良いわね」
そういって、その瞳を閉じた。
マルギルが、寝息を立てているのを見てそっとシュウザーが布をかけた。
「ありがとう、マルギル」
そういって、シュウザーが部屋から出ていく。
しばらくして、静かになった部屋でシュウザーがかけてくれた布をぺらりと片手で持ちあげて。
「妖精は、眠らない。けれど…、ありがとう」
そういって、マルギルが優しく微笑む。
「空の星は掴めなくても、貴方の両手は掴めるわ」
シュウザーの手を手放さない為に、私は貴方の価値感を崩さない。
だから…、ずっと優しい貴方で居てね。
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