第3話 干渉する力

うっすらと、瞳をあけるとそこはベッドだった。


「私は…、実験室で倒れた筈」


そういって、額の上に置いてあったタオルがはらりと落ちた。



「あっ、母さん眼が覚めたんだね」



ぱっと花が咲く様な顔で、自分の息子が振り向いた。



「これは、貴方が?」



落ちたタオルを拾い上げると、シュウザーに見せる様に尋ねた。



「うん…、母さん倒れてたから」


「そう、ありがとう」


そういって、母がうつ向いてしまったのを見てシュウザーがあわあわした。



久しぶりに聴いた、母の声はかなり弱っていた。



「ごめんなさい、シュウザー。寂しい想いをさせて」


そういって、布団を握りしめた。



「ううん、母さんも父さんも頑張ってるから」



そういって、台所へ向かっていくシュウザーの背中を見ていた。



「いつのまに、大きくなって…」



そう呟くと、再び横になった。



しばらくすると、おかゆを持ったシュウザーが戻ってきた。

それを、頭の所にある小さな机に置いた。



「ねぇ、母さん。少し、聞きたい事があるんだけどいいかな」


シュウザーが真剣な顔で、母に尋ね母親が微笑む。



「何かしら、私に判る事?」



「母さん、妖精が倒れた時はどうしたらいいの?」


(妖精が倒れた?この子は寂しさの余り独り言を言ってた訳じゃない?)


「母さん、答えて」


「あぁ…、ごめんなさい。妖精といっても、様々なものをエネルギーにしてるわ。無理をすればエネルギーが無くなってしまうの、精神生命体は皆そうなのよ。だから、もしその妖精から何をエネルギーにしてるか聞けたらそれを与えれば直に元気になるわ」



(相当の無茶をしなければ、精神生命体がエネルギーを枯渇させるなんてありえない)



「ねぇ、シュウザー。その妖精から、何をエネルギーにしているか聞いていない?」



今度は、母親がシュウザーに尋ねた。



「ごめんなさい…」


シュウザーが母に謝ると、母親は疲れた様に笑った。



「そう…、じゃぁ意識が戻ったらちゃんと聞かなきゃダメよ。大切な友達なのでしょう?」


そういって、シュウザーの頬に手をそっと当てて撫でた。



様子を見てくると言って、ドアから出ていった息子の背中を見ながら思った。



「もし、本当に妖精がついているのなら。あの子にはそれを黙っておくように言わないと…、じゃないと取り返しがつかない事になる」



そう、精神生命体はエネルギーさえあったら殆ど不可能なんかない。

意志があって、それをコントロールできるなんて事も殆どない。



「息子についてるのが、妖精ならまだいい」



妖精は、自然からエネルギーを得ている。


風の精霊なら、空気の綺麗な所で過ごせばすぐに良くなる。



問題なのは息子についてるのが、妖精じゃなかった場合だ。


例えば悪魔は人の命や不幸、怨嗟の声なんかをエネルギーにしている。

恨みつらみを言う度に、悪魔はエネルギーが潤うからこそ人を不幸にし続ける。


「どんな奇跡も起こせる原動力が、人の命ならそれが他人の命であれば遠慮なく使うのがおぞましい人の業なのよね…」



自身が今助かっているのは、間違いなくその妖精がやった事だもの。



「確かめる必要があるわね…」



ただ、今は…。


息子がつくったらしきおかゆに一匙手を付けて、思わず口角が吊り上がる。



「本当、息子ほったらかして。何やってるのかしらね、私は」

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