第1話 妖精の様な悪魔

シュウザーは、書斎に忍び込んでいた。


この時のシュウザーは五歳、好奇心があふれすぎて色々なものを探してはひっくり返していた。



そこには、開いた本の上に魔法陣。


小さな、鴉の羽をミノムシにしたようなドレスを着た妖精が居た。



キョロキョロと魔法陣の上で見渡し、そして目の前の少年と眼があった。



「君は誰?」



少年は、妖精に話しかけるが妖精は首を横に傾けた。


「ボクは、シュウザー」


ようやく、下ったらずが抜けて言える様になった自分の名を口にした。

妖精は頷く、そして…。



「私に、名前はない。名をくれないか」



そこで、シュウザーはうんうん唸りながら考えて。

散らばった本の中に、毒草の図鑑があり。その図鑑のページが開いていたのを見つけた。


そのページには、黒い花をつける美しい毒草の絵が描かれて。

その毒草の名が、マルギルだった。



でも、子供のシュウザーにはその花はただ美しいだけだった。

だから、そのページを指さして言った。



「君の名は、マルギル。あの花のように黒くて綺麗だから」




(契約は成った)



マルギルは、シュウザーの左肩に座る様に乗るとにっこりと笑った。



「私の姿は、シュウザーにしか見えないわ。声も貴方にしか聞こえない覚えておいて」



それが、シュウザーとマルギルの始まり…。




シュウザーの家は、代々病と闘う薬の研究者の家系。

シュウザーの父も、母も仕事ばかりしていてシュウザーはずっと本ばかり読んでいた。


だが、この日からシュウザーは一人じゃなくなった。



マルギルは見た目だけは真っ黒な妖精、ただ羽は鴉でドレスもカラスの羽を集めた様な。髪の毛も眼も、真っ黒でただ無言で微笑んでいるだけだ。



白いのは肌だけだった、透き通るような手がシュウザーの頬に触れた。



それでも、シュウザーには初めての話し相手。


いつも、自分の左肩に座っていて。ベッドで寝るときなどは、左肩の上の近くで座っていた。



そこを見れば、彼女は必ず居て。



シュウザーは、彼女を妖精だと思っていた。

だが、彼女は悪魔だ。



マルギルも、最初は自分が何者か判ってなかった。

彼女に判っていたのは、シュウザーという少年と契約した事だけだ。



生まれたての悪魔は、非常に弱く美しい。

マルギルも、その例に漏れず妖精の様だった。



命を喰わない、また欲望を力にしない悪魔は下手な妖精よりも余程美しい。


だが、悪魔や邪神がその力を十全に使うには命を喰う必要がある。



この時の彼女もシュウザーも、その事実を知らない。

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