第22話 媚を売りにきたんじゃあありません!(水菜の追憶 ⑤)
ROFTSへ向かう電車から眺める景色は、ところどころに戦争の後を残したままの荒れた景観と復興時期に建てられた新規の建物が点在し、それはまるで焼け野原に青々とした雑草が生え始めているような逞しさを思わせた。
そろそろ到着という頃には、水菜は泣き止んでいた。思い切り背中を押してくれたモチモチに応えるのは、しょんぼりして新天地に向かうことじゃない。
いつかまた会えるその時に胸を張っていられるように、ただただ頑張るだけだ。
時間のかかる電車に乗ったのは、安いし道中を楽しみたいという気持ちもあったのかもしれないが、尻尾を振りにそっちに行くわけじゃないよ、という水菜の主張だったのかもしれない。
ロイドア連邦技術科学省 第2ビル前駅改札を出た水菜を迎えたのはヒューズだった。
「ようこそ、ロイドア連邦へ!!!」
水菜を見かけたら、大袈裟に両手を広げて大声で迎えたヒューズに、水菜は沈黙で応じる。ヒューズの眉間がピクピクと動く。
初対面では校長もいて、少し真面目で厳格な感じだったから、場を和ませようとフレンドリーに接しようと考えていたのに…
「…無理してキャラ作りしなくてもいいですよ。疲れたから早く宿舎に案内してください。」
そっけない素振りで水菜は足早に駅の出口へと向かう。
ヒューズは小っ恥ずかしくなりおでこを撫でながら水菜の後を小走りで追う。
「宿舎はすぐ側だよ。ここからなら、歩いて5分ってところだよ。荷物を持とうか。」
「大丈夫です。」
キッパリと水菜は断る。ヒューズは苦笑いをする。
「…おじさん。」
「あ、ええ、っと何?」
宿舎前で突然話しかけられて、ヒューズは少し動揺する。
「…父の処刑に反対してたって本当だったんですね。しかも、結構長く投獄されていましたよね。」
「え、ええ?あ、ああ?って、あれ、そこまで言ったっけ?」
水菜は手元で持っていたタブレット端末をヒューズに手渡す。
「?」
画面には、ヒューズの経歴を語る資料が写し出されていた。
「え、えええ!?こ、これって、政府側の資料じゃないの!?」
ヒューズは目をキョトンとさせる。さらに、添付ファイルの一つを開けてみると、ヒューズが公の場で戦犯処刑反対のスピーチをしている様子が映っていた。
「あ、あれれ!?え、あ、ちょい、ええ!?ちょ、あ、あれ?これは極秘資料よ!?どうやってアクセスし…」
ヒューズは目を見開いてきながらタブレットを漁っていたが、水菜がそれを取り上げた。
「というわけで、おじさんは信用してあげるね。」
水菜はそういうと、スタスタと宿舎へ向かった。
ヒューズは口をあんぐり開けたまま水菜の後ろ姿を見つめていた。
−も、もしかしたら、とんでもない子を引き入れちゃったかな…
ヒューズは気づくと脂汗を掻いていた。
第22話『ROFTSでの日々(水菜の追憶⑥)』へと続く
オムニ・ジェネシス外伝 SF+人間ドラマストーリー集(①光年のノマド ②鎮魂歌は魂を運ぶ ③ブギーマンと囚われの貴婦人 海藻ネオ @NoriWakame
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