第13話 おわりとはじまり

 翌日、黒月学園の保健室。時刻は昼休み…

「由依〜」

ガラリと扉を開けて九重と祈雨が保健室に入ってきた。手にはパンやら飲み物やら大量に抱えている。2人はそのままベッドを仕切っているカーテンへと近づき、勢い良く開けた。

カーテンで仕切られたその奥のベッドに眠っている人物に声を掛ける。

「おぉ〜い、昼休みだぞー?」

持ってきた大量のパンを、顔を取り囲むように置くと、九重は布団の上からバシバシと叩いた。

祈雨はというと、パンの袋をガサガサと鳴らしてアピールしている。

「由依、食べ物あるよ」

2人のアピールが効いたのか、布団の中の人物が「うーん…」と身動ぎした。


 「…眠い…お腹すいた…」

ムクリと起き上がると同時にぐぅ~とお腹が鳴った。その音は豪快に保健室に響き渡り、九重と祈雨が安心した様に笑う。


ベッドから起き上がると保健室のテーブルに各種パンを広げて昼食の準備がされていた。ぼんやりとした足取りでパイプ椅子に座り、ペットボトルのお茶を飲む。

「…由依、大丈夫?」

「あんまり顔色良くないわね。」

九重と祈雨が心配そうに顔を覗き込む。私はサンドイッチの包みを開けながらヘラヘラと笑った。

「なんか凄く眠いだけなんだけど…」

「熱はないの?」

サンドイッチを食べながら頷く。そう、眠いのだ。とんでもなく。お腹がすくのは…まぁいつも通りと言えばいつも通りだし。

「でも、これじゃ早退した方が良さそうだね」

「授業は難しそう…」

2人が心配そうに喋っているのを、ぼんやりと何処か遠くの音の様に聞きながら、次々にパンを平らげていった。それを見て2人も自分のお昼を食べ始めたようだった。

昨日、鉤月さんと無事に再契約を成し遂げた。その時は別に何とも無かった…少し、いや割と結構?疲れた感じはあったけど…

けど、ここまでじゃなかった。なのに、泥のように眠って、朝も起きれず遅刻ギリギリに登校した挙げ句、授業中に椅子から倒れる様に眠ってたせいでここに担ぎ込まれてしまったのだ。

ゴクゴクとお茶でパンを流し込む。

「…はぁ~」

「落ち着いた?」

「うん、ありがとう二人とも…もう少し、休んだら…早退…す…」

話している途中なのに、徐々に眠気が襲ってきて意識が遠のいていく。数秒後には寝息をたてて眠り始めてしまった。

「…また寝ちゃった。」

「ねぇ、やっぱり少し変だよ。普通ならこんなに長時間眠ったりしない…」

九重と祈雨は顔を見合わせて心配そうに呟く。

その時、保健室の扉が開いた。

「…おや、お揃いだね」

「お兄様!」

学園長の登場に九重がパァッと明るくなる。彼は穏やかに微笑みながら三人に近づく。

「…座ったまま眠ってしまったのか。」

困った様に笑いながら由依を抱き上げ、ベッドに向かった。そっと布団に寝かせると掛ふとんを丁寧に掛けてやる。

「学園長、由依はどうしてこんなに眠り続けているんですか?」

祈雨が学園長に尋ねると、彼は由依の顔にかかった髪を直しながらふむ…と考えた。

「恐らく、契約をして魔力の使用量が増えたせいで自力で賄えず、体が追い付かないのだろう。…やはり、こうなっていたか…」

「学園長?」

「あぁ、大丈夫。外部から魔力を供給できれば解決するだろう。由依この子が静かだと調子が狂ってしまうね」

と、静かに微笑んだ。それを見て祈雨もホッと胸を撫でおろす。

その時、再び保健室の扉が開いた。保健医の先生かと振り返るとそこには眼鏡の男子生徒が立っていた。

祈雨はふと違和感を感じて彼を凝視した。九重も同じように立ち上がり彼を見た。しかし、確かに違和感を感じたのに、見れば見るほど気の所為だったかのような感覚に陥る。

「…?」

二人ともが、どちらかともなく何か言おうとした瞬間、昼休み終了を告げる鐘がなった。

「さぁ、あとは大丈夫だから、授業に行きなさい。九重、由依の荷物を頼んだよ。」

「はい、お兄様!」

と、そっと肩を押されて退室を促され二人は保健室を後にする。それと入れ違うように男子生徒が室内に入り扉を閉めた。

閉められた扉の向こうでは教室に向かう生徒たちの足音が聞こえている。



本鈴が鳴り終わる頃には廊下も静かになり、保健室には黙ったままの学園長と男子生徒、そしてお構い無しに爆睡中の由依だけが残されていた。

しばらく続いていた沈黙を破ったのは学園長だった。彼はため息と一緒に話を始めた。

「…君の助力を求めたくはないが、このままこの子が目覚めないのは困るのでね…」

すると眼鏡の男子生徒は、チッと小さく舌打ちしてわざとらしくため息をついた。

「…君にとってもそう悪い話じゃないだろう?その身に収まらない程の魔力を、こちらに分けるというのは。そうすれば少しは魔力制御が出来て、君の仕事もやりやすくなるのではないのかな?」

「……」

「というか、その魔力は元々この子に与えられたものだったと記憶しているが?」

学園長は、皮肉っぽく嗤った。一方の男子生徒は学園長と目を合わさず、ベッドで眠る由依を見つめていたが、やがて静かに口を開いた。

「…貸し、1だから」

(可愛くない…!)

学園長は軽くイラッとしたが、大人として何とか平静を装って頷く。

「…あぁ、わかった。覚えておこう。」

すると、男子生徒は無造作にベッドを仕切るカーテンを引いた。さも当たり前の様な彼の行動に、学園長は思わずその手を掴んだ。

「…カーテンを閉める必要が?」

「プライバシーの保護。…魔力の移し方、知ってますよね、センセ?」

「ッ…」

魔力を移す方法は『口移し』。

受ける側の肌に、与える側の唇が触れること。そうすることで直接魔力を注ぎ込むのだ。

「だが…っ」

そう言いかけた時、学園長のスマホが着信を告げた。低く唸るようなバイブ音が響く。

「どうぞ」

と、男子生徒は廊下の方を目で示しながら通話を促した。今度は学園長が舌打ちをする番だった。

彼を睨み付け、冷たい声で言う。

学園長としてでは無く、夜灯黒月やとう くろつきとして。

「…直斗なおと、あまり調子に乗るな」

「俺は俺のやり方でやる。…遠縁だからって命令しないでくれる?俺は、やめたっていいんだけど」

「くっ…」

すると、直斗は勝ち誇ったように微笑んでカーテンの向こうへ消えた。学園長はそれを見送ると舌打ちをして保健室を後にした。


カーテンの向こうの事になどつゆ知らず、由依は規則正しい寝息を立てている。そんな彼女を見下ろす。

開けられた窓からは、心地よい風がカーテンと彼女の前髪を揺らし、遠くでは午後の授業にはしゃぐ生徒たちの声が聞こえる。が、直斗の表情は曇り、複雑な感じだった。

「…顔色わる」

眠っている由依の顔色は人形の様に白く、とても健康そうには見えない。

直斗は彼女の頬に触れた。冷たくはないが、温かくもない。

「俺が…」

その先に続く言葉をぐっと飲み込んだ。

違う。あれは必然だった。だから、これもきっとだ。


ゆっくりと眼鏡を外す。それは、魔力を制御するための特別なアイテム。レンズを取り去った彼の瞳は真紅。いつかの月と同じ紅色。

ベッドに手をついて、そっと彼女に覆い被さる。顔と顔が近付く。

「…これは、宣戦布告だ」

呟きは誰に向けたものなのか。

その時、風が吹き向けた。


舞い上がるカーテンの中で、重なる唇。

それは、はじまりのキス。



      第1章 覚醒クレセントナイト 終

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魔女、はじめました。-境界の承継者は月と踊る- 火稀こはる @foolmoonhomare

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