第3話 転入生って目立つよね
眩しい朝日。カーテン越しに射し込む光に、眠い目を擦る。
「んー…」
寝返りを打とうとして、はた、と止まる。まだ夢を見ているのか…いや、違う。
てゆーか、夢でもダメだ!
「…ココで一体、何してん…じゃい!!」
「んにゃー?!」
思いっきりどつかれてベッドから転げ落ちる猫耳男。お約束よろしく、いつの間にか入り込んだらしい。猫なら許せるが、猫耳男はダメだ。人型が故に…イケメンだけど!ちょっとドキドキしたけど!
「…はぁ、鉤月さん?」
「おはようございますマスター!もー、いきなりどつき倒すなんて。乱暴ですねぇ」
「いや、君のせいだよ?」
両頬をつねり上げてやる。ちょっとムカつく。ロマンティック返して。
「いだだ…っ何するんですかー!俺はせっかく…」
「同衾を許した覚えはない!よって、有罪!…いい?今度やったら二度と口きかないから。」
「!」
沙汰を言い渡された鉤月さんは、しゅんとしてしまった。耳も尻尾もしんなりしている。
「…で、どうしたの?」
「あ、そうでした。」
そう言うと、鉤月さんは作り付けのクローゼットを躊躇なく開け放った。そこには、新品の黒月学園女子制服(その他一式)がズラリ。
「今日から学校ですよ!登校したら、学園長室に来てほしいそうです。」
うわぁ、そうだった…
今日から新しい学園生活が始まる。
「由依ちゃ~ん」
寮を出て歩いていると、やたら陽気な声に呼び止められた。
「糸くん、と…朗?」
振り返ると、二人がお~いと追いかけてきた。当たり前だが黒月学園の制服を着ている。(だいぶ着崩しているけど)
元気いっぱいな糸くんの後からヨボヨボと朗。…ん?あれ、何か違和感。
「カーノジョ!後ろ、乗ってかなーい?」
ママチャリの後部座席(?)を右手の親指でビッと指差し、ウインクを投げてくる。何か、イケメンなんだけど仕草が絶妙にふr…
いや、そうじゃなくて。
「あれ、糸くん…大丈夫なの?朝日…」
自称吸血鬼の糸くんは、太陽に当たったら大変なのではないかと思うのだけど。
当の本人は灰になるどころか、朝日を浴びながら、軽快にチャリ登校しているし…え…もしやこの人…
「ちょっと今俺のこと『自分の事、吸血鬼だと思ってるやべぇ奴』って思ってない?」
ギクゥ
急に思っていたことを言い当てられて、心臓が跳ねた。糸くんは、にんまり目を細めていたずらっぽく笑う。
「心配してくれてありがと。でも大丈夫。だいたい、今の時代、吸血鬼だって太陽くらい克服してないと生きていけないからね~」
「やべぇ奴なのは間違ってないだろ」
すかさず真顔で斬り込んでくる朗の一言に、糸くんがガックリと肩を落として泣き真似をする。
「朗くんヒドいわぁーシクシク」
何か…二人のやり取りを見ていると、気が緩んじゃう。
風を切る自転車。と、併走する朗。
糸くんの自転車の後ろに乗せてもらったせいで、校舎まで走ることになってしまった。が、朗は大した事ないみたいに黙々と走っている。すごい。
「由依ちゃん」
「え?」
「そんなに朗ばっかり見つめてると、ヤキモチ妬いちゃうぞ☆」
「は?!」
急に糸くんが振り返ってウインクする。話が唐突過ぎて対応に困るんですけど。つか、前見て、前!
学園に近づくと次第に生徒達が増えてきて、比例して私への視線も痛いほどに。
道案内も兼ねて、二人と一緒に登校してるのが悪いのかな…
女子生徒から黄色い歓声交じりの挨拶が飛び交う中に、チラホラ突如現れた知らんやつへの不審の声も聴こえる。居た堪れない。
(う…早速悪目立ちしてるような…)
これは転校早々、波乱の幕開けなのでは…
「はぁ…」
私は学園長室に入るなり、ため息を吐いた。
「どうかしたかい?」
クロ先生は書類にペンを走らせながら尋ねた。所作も優雅だ。想像通り。
「いえ、なんでも…」
微妙にやつれた笑顔を返す私に、クロ先生は苦笑してこっちへ来いと手招きする。
「よしよし、彼らは我が校でも指折りの人気者だからね。皆、単純に羨ましいだけさ。」
私の頭を撫でていた手がするりと滑って髪の房をすくう。
「大丈夫、君は選ばれた。」
「クロ先生…」
そして、私の背を押す。
「いってらっしゃい。」
「宵月さ〜ん」
女子に囲まれる。なんだこれ、固有結界か。
「なんで、糸くん達と一緒に登校してきたの?」
なんで、と言われましても…
ホームルーム直後に早速転校生への洗礼が始まってしまった。なんという暇さ…いや、好奇心溢れるクラスメイト達。
「お、同じ寮だから…?」
「え?」
私の一言にやたらざわつく人垣。
「同じって、あの『月の寮』?!」
「入寮条件不明の特別寮だよ?」
値踏みするようにジロジロと見られる。
「特別って…」
いや、確かに特別か。否定できない。
私の脳裏に個性派な住人達が浮かぶ。特別というか、特殊というか…
その時、人垣を物ともせず私の前に誰かが歩み出た。
「いいじゃない!お兄様が決めたんだから」
「お、お兄様?」
「はじめまして。私、
声の主はふんわりした髪をツインテールにした可愛い女子生徒だった。『お嬢様』とか『お姫様』な成分を半分以上配合して出来てる様な可愛い見た目と、意志の強そうな瞳が印象的だ。お姫様は私の手をぎゅっと握って、「よろしくね」と笑う。
そして、その傍らには姫の騎士とおぼしき凛々しいお方が。切れ長の目になっがい睫毛、黒髪ショートの美女…というかイケメンなのでは?イケメンかもしれない。
「私は
そう言って彼女は微笑んだ。
えぇ…ちょっと、心臓が保たないんだが?
夜灯九重と月滋祈雨という新しい友達のおかげで、その後の授業も滞りなくこなせていた。どうやら、第一印象はあながち間違いではなく、九重は学園長の姪で実際『お姫様』だった。祈雨も、大っぴらにはしてないが、夜灯の家の関係者らしく『月の寮』の事も知っている様だった。し、その見た目の美しさから学園内にファンクラブが存在しているらしい。わかる。
「由依、こっちが食堂よ。」
九重が先頭を切って進む。その後に続くお供の助さん格さん…ではなくて、私と祈雨。現在、ランチタイムついでに校舎を案内してもらっている。
「へぇ、学食っていうかおしゃれな…」
「由依はお弁当派?」
「ん~、前の学校は学食無かったからお弁当だったんだけど、実は憧れなんだよね。」
「そうか。」
祈雨がふっと微笑む。あまりの格好良さに、背景でバラが咲く。キラキラキラ。
(まっ、眩しい…!)
「ここのは美味しいから、一緒に食べよう。」
「…!」
姫と王子と一緒にですかー!?いいのか、私のような庶民が!恐れ多くて緊張してきた…
先に席を確保した九重が、手を振って呼んでいる。
本日の日替わりは、ふわふわオムライスに付け合わせの温野菜、サラダにスープ。手作りパン(食べ放題)にデザートの焼きプリン!
「お、おぉぉ!」
こ、コレで300円なのか…完璧じゃん…
「えぇ、…このふわふわ具合い、ヤバぁ…あぁー美味しいーー」
スプーンを握りしめて震える私を見て、二人は笑った。それに気付いて自重する。私、浮かれすぎか…
「由依、美味しい?」
「気に入ってくれたみたいで良かった。」
いい人達だ。感動を噛み締めながら、二口目を口に運ぶ。
「由〜依ちゃん」
「んぐっ」
突然、後から肩を抱かれて、思わず吹き出しそうになった。根性で耐えたけど。…何なの?!ヒロイン降格の策略なの?!
「…っ、糸くん…」
「や、美味しそうだね!」
やっぱりこの人か。ついでに、何事もなかったかのように同じテーブルに座る朗。姫と王子も、最早どこから突っ込むべきかわからず、何故か私に照準を合わせた。
「由依、ほっぺに付いてるよ。」
「え?私?え、どこ?」
「ここ!いや、もう少し左…」
その時、まだ私の背後にいた糸くんがさりげなーく…
「ここ」
ペロッと私の口元を舐めた。
一瞬、理解できずに凍りつく。それを見ていた朗が、ぶはっと水を吐き出す。
「うん、うまっ」
「キャァァァァー!」
遠巻きに見ていたらしい女子生徒から悲鳴が上がり、学食内がカオスと化す。
「ばっ、バカか!お前…」
朗が言い終わる前に閃く銀色。糸くんの眼の前にフォークを突き付けた。
「……!」
急に静まり返る食堂内。私の殺気立った迫力だけやたらに目立つ。
でも、そんな事には目もくれず、低く呟く。
「ぶっ刺す。」
その後、ブチ切れた私を九重と祈雨が慌てて押さえ付けて、糸くんは朗にガミガミ怒られたそうな。
転校初日から「ナメてんじゃないわよ」アピールをしてしまい、1日にして学園での異名のランクアップを果たした私なのでした。(転校生→魔女)
ついでに、糸くんファンからは極寒の視線もゲット。
…大丈夫か、私?!
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