第6話

ルビーより、柘榴より、禍々しくて紅い月

立ち尽くす私と、血染めの暗闇…


あの後、夢を見た。

何度も浮かんでくる映像を、少し大袈裟に頭を振ってかき消す。あまり思い出したくない。こんなの、悪夢だ。

目を覚ますと外は既に暗くて、私は飛び起きて寮に急いだ。

何故か、九重と祈雨もクロ先生も居ない。あんな夢を見たせいだ。見慣れた校舎なのに心細くて怖い。

「…なんでこんなにビビってるの私…」

昇降口まで、この先の階段を降りたらすぐだ。なんだって学園長室に寝かせたまま、皆居なくなるのかなぁ!

起こしてくれればいいのに!

「うわー!もう、どチクショー!」

行き場のない憤りと恐怖を、誤魔化す様にわざと大声で喚いた。

その瞬間、何かに勢いよくぶつかった。助走をつけていた分、反動も大きく体が後ろへ跳ね飛ばされる。

「ひゃ?!」

「痛っ?!」

私は、勢い余って尻もちをついた。

「う〜…腰…」

ぶつかったのは男子生徒らしく、彼は座り込んで腰をさする私にそっと手を差し出した。

「大丈夫か?」

「す、すいませんでした!前、見てなく…て…」

その時、雲が晴れる。階段の踊り場の天窓から月光が差し込んで私達を照らし出す。

それは、血に染まったブラッディ・ムーン。運命の月。

微かに触れた手はそのままに、お互いに動けなくなる。見つめ合って数十秒。

突然、あの悪夢がフラッシュバックする。目眩に似た不快感に思わず視線を逸らしてしまった。

「…フン。」

すると、彼はさっと手を引っ込めて、私の横を通り過ぎて行く。静かに階段を登る足音が響く。

いつの間にか、月はまた雲に隠れていた。私は、微かに彼に触れた指先を見つめている。

「あの人…」

一瞬だったけど、見惚れるほどキレイな紅い瞳だった…気がする。

紅い月の差し込む暗闇で、私はただ呆然と座り込んでいた。

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