第9話 陰翳の果てに


「旦那様、三名の処置が完了いたしました。そして当該者三名の内二人は相応に反省の態度を示しておりました。一人は態度も悪く、手荒にしなくてはなりませんでしたが……」


 私にはあのメイドたちの処遇について嘆願をする権利などなく、ただ事実をそのまま伝えることしかできない。。そこに色を少し付けることで、自分の願いを織り交ぜる。主人がそれに気が付いているかはわからない。気が付いていて見逃しているのかもしれないし、あるいは本当に気が付いていないのかもしれない。


 しかし、私にできることはこれだけだし、主人の気を損ねないように細心の注意を払わねばならないが、織り混ぜ続ける。


「そうか。一人は反省の色も示していなかったか。では出すことはないな。私の気が収まるまではいてもらおうか。二人については、しばらくしたら出せば良い」

「しばらくというのはどの程度でしょうか」


 腕を組みふむと少し考える様子の主人だ。一人に関しては絶望的だが、二人については情けが欲しいところだ。


「半年も入れておけば十分か。いや待てそもそもいじめをしていたのだったな。ではそちらの分も追加となると……一年は入れておこう。あそこには入れておけば入れておくほどに殊勝になるからな」


「はい。あの地獄を経れば歯向かう意思など時間ごとに消え去りますので」

「まさしく効果はある設備ということだな。私としてもなかなかに面白く、たまには入れておきたいと考えたりもするのだよ」


 そのような面白いという理由であのような苦行を味わうことになるメイドには同情を禁じ得ない。それにしても一年か。読み通りではあるが、それでもあの二人に長い時間となるだろう。今も泣き叫ぶことはできないで絶望していることだろう。もう一人については終わりだろう。出られることはできない。主人の気が向いた時ということはそれはもう出さないと同義だ。


「あまり運用をされますと、メイドの業務に支障が出てしまいますので、メイド長の立場としてはそこまで使ってほしくはない設備です」


 あまりやりすぎると人員不足に陥るのは必至だからそれだけは避けたい。


「その点については留意しよう。それにしてもお前は久しぶりに入ってみるか?」

「いえ、遠慮したく思います」

 

 あんな所、二度と入りたくない。入ってたまるものか。


「そうか残念だな。だが顔はそうでもないように思えるが?」

「そ、そんなはずありません」


 マズい、この流れは非常にマズい。


「お前も実は入りたいと思っているのだろう。よかろう、メイド長の反省を受け入れることにしよう。期間は三日だ。それを過ぎたら出てきて、私の元に来ると良い。久しぶりにあの牢獄を堪能してくると良い。良い景色が見られるであろうな。私も見に行くから楽しみにしておくのだ」


 最悪だ。三日で出られるのだからまだ良いとも言えるかもしれない。


「……承知しました。しっかりと堪能してまいります」


 そういうしかないではないか。逃れることなどできない。逃れようとすれば、一生だられなくなるだろう。それだけは嫌だし、もうあの牢獄に囚われ続けるのは嫌だ。


「どうした。声が震えているようだが」

「あのような場所を好むものは少数でありすから……」

「そうか。メイド長が堪能した上で改善点などを報告してもらいたいのだが、頼めるか?」


 改善点など、考えるまでもない。改善すべきところは全てだからだ。ああ、あの空間に再び囚われるのか。恐怖というよりも、憂鬱で、しかし主人の言ったように興奮もあるのだから私も、救いようのない人間なのかもしれない。

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貴族の屋敷に務めるメイドには自由がない。 藤原 @mathematic

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