第5話 吊るされるメイド
「さあテキパキと仕事をするのですよ」
「はいメイド長」
メイド長である私の仕事は屋敷で働くメイドたちの仕事の統括だ。自分が表立って何か実務をするということは普通のメイドよりは少ないが、その分メイドたちの仕事の分配や管理といった事務的な仕事が多い。
そのためミスをする機会それ自体が減り、主人からのお仕置きは少なくなった。
「今の状況を天国と見るか地獄と見るか分かりませんね」
不意に呟いてしまった。お仕置きが少ないからと言って、ないというわけでもないし、何より仕事の負担が減るわけでもない。むしろ、ミスをした時の責任は重くなるのだ。部下の責任は上司の責任というわけだ。だがらそれがないように、適切な人員配置をするのだ。
「も、申し訳ありませんメイド長!」
「いきなりなんですか。状況がわかりません。説明をしてください」
若いメイドが私の元へ駆け込んできた。真っ青だしきっとやらかしたたのだろう。これは今日一日、このメイドは大変だろう。
「実は、旦那様お気に入りの甘味を落としてダメにしてしまいました。旦那様は今日その甘味が屋敷に届くことをご存知で楽しみにされていました。私、どうしたらいいんでしょうか」
若く少女といっても差し支えないメイドは涙を流し膝から崩れ落ちてしまった。しかし、泣こうが喚こうがやってしまった事実が変わることはない。このメイドはかなり主人の怒りを買うことをしてしまった。これは間違いない。
「旦那様の甘味を、ですか。それはどのような状況でそうなったのですか。状況によっては寛大な処置をいただけるかもしれませんから話してはくれませんか」
実際にはそういうことはなくても、そう言って心の安寧を保ち、話しやすくするのも仕事のうちだ。
「届いた甘味を厨房にある冷蔵庫まで運ぼうとしていました。その際にアクシデントが、その……」
「はっきり言いなさい」
どうもこのメイド歯切れが悪い。
「はい。私は普段から陰口を言われたり、嫌がらせをされているのですが、その先輩メイドの方たちに水をかけられまして、そして転ばされました。そのせいで旦那様の甘味がダメになってしまったんです」
何ということだ。これは最悪の状況だ。
「……早く旦那様の元にいきましょう。お互いに生きて帰れるといいですね。それとあなたに嫌がらせをしたメイドが誰だか分かりますか?」
「はい、わかりますけど……」
そのメイドたちの名前は後で聞くとしても、彼女らは大変な目に遭うことだろう。どうしてこの屋敷でそのような真似ができるのか理解できない。これについては私の監督責任も問われるだろう。足が重くなる。
「あなたをいじめていたメイドたちはしばらく陽の光を見ることは出来ないでしょうね……。全く、愚かなことをしたものです。私も、あなたもですが」
報告するのは早い方がいいので、主人の元に向かうが、胃が痛くなりそうだ。どう転んでもいい方向に行く気配はない。
「旦那様、申し訳ありません。旦那様が楽しみにしておられた甘味ですが、様々な不手際が重なった結果、召し上がりになることができない状態になってしまいました」
頭を下げるが、その部屋の温度が下がるのが肌でわかる。
「なぜそのようなことになったのか説明してくれるかな」
主人は説明を求めた。当然のことだろう。隠しても何もいいことがないということはよく理解しているので包み隠さず説明した。
「なるほど。つまりそこのメイドを嫌がらせしていた者がいて、そのせいで甘味がダメになってしまったということか。正直に話したことは褒めよう。しかし、甘味をダメにした責任は君にある」
主人は若いメイドを指さした。
「旦那様、それは一体……」
「つまり君には相応の罰が必要だと言っているんだよ。何がいいかな。見せしめ的な要素もほしいな。そうだ、玄関にしばらく吊るしておこう。一昼夜吊るしておけば反省もするだろう。メイド長、彼女を吊るしてきたらもう一度この部屋に来るんだ」
やはり主人は私にも罰を与える気だ。久しぶりの罰だ。どうなるかわからない。
「さあ、そんな青い顔をしていないで早くいきますよ。たちなさい」
「吊るすって私、どうなるんですか」
「あなたがそれから逃れることは出来ません。大人しくしなさい」
若いメイドが今にも走り出しそうだったので、枷で逃げられないようにして無理やり引きずって玄関に連れて行く。
「さあ脱ぎなさい」
若いメイドは観念しているのか服を大人しく脱ぎ全裸になる。それを確認して枷を外し、縄とベルトをその体にかけていき、綺麗な縄化粧が完成したら、天井にある梁から伸びている鎖をおろして、フックにひっかけ、鎖を引き上げてメイドを吊るして行く。
「うぅ……」
痛みで悶絶しているが、丸一日はこのままだ。これでも罰としては比較的楽な方だろう。身体は痛くなるが犯されることはないし、一応人間が暮らせる空間に入るのだから。
「さて、私も行かないといけませんね」
私も罰を受けに行かなければならない。明日に普通に仕事ができることを祈るしかない。
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