第6話 メイド長への罰

「失礼します」

「来たか」


 主人の冷たい声がする。これはかなり怒っている。私はもしかすると生きて帰ることはできないかもしれない。


「覚悟はしています」

「メイドたちの監督責任だ。あのメイドに嫌がらせをしたメイドたちについては無期限であそこに入れておこうと思う。本人たちには知らせるつもりはない。君の罰が終わってから君自身の手でいれてもらうつもりでいるから、愚かなメイドたちにきちんと分からせてやってくれ」


 つまり、私への罰は有期ということだ。それだけでも救いかもしれない。


「承知しました」

「よろしい。それでメイド長には鞭打ちだ。鞭打ち五十発。鞭は私が打とう。これははっきりいうと見せしめだ。メイド長にそこまで非がなくとも、下の者の責任はきちんと取る姿がなくてはならない」


 鞭打ち……。正直耐えられるような代物でもないかもしれないが、私に拒否する権利はない。体が震えてきたが、拒否できない以上、どうすることもできないのだ。


「……喜んでお受けいたします」

「では行こうか」

「はい……」


 こういった刑罰は屋敷の中庭で行われることになっている。


「さあ全裸でなくてもいい。上半身の服を脱ぐんだ」

「はい」


 服を脱ぐと、地面に刺さっている鉄の棒についている。枷に足を固定された。そしてその鉄の棒には手枷もあり、それに手を固定され動けなくなり、背中が剥き出しになってしまう。


 これで準備が整ってしまった。


「それではいくぞ」

「お、お願いします!」


 歯を食いしばり目を閉じる。周囲にパァン! という音が響き渡る。同時に、背中が熱くなり、直後に鋭い痛みが襲ってくる。声は一発でも出てこない。メイドたちも仕事の手を止めて窓からこの光景を見ているのだろう。


「っく、うっ……」

「あと四十九発だ。せいぜい己の責任を痛感することだ」


 声は出ない。あまりの痛みに体を動かそうとするが、拘束されているため首以外は動かせず鎖がじゃらじゃらとなっている。腕は動かせないのに本能的に無理やり動かそうとしているため、手首に擦り傷ができてしまっている。しかしそれを気にすることなど、到底できない。


 鞭が一発、また一発と飛んでくる。もう背中が熱くなるのを超えて、逆に冷たくなってきた。気張らないと意識も飛んでいきそうだ。どうなっているのかよくわからない。今、何発目なのかもわからない。


「これで終わりだ。今日は、動けそうにないな。枷は外しておく。誰かに介抱してもらうといい」


 主人は動けない私の枷を外してそのまま放置して去って行く。私はというと枷を外されても痙攣しかできず体を動かすことはままならない。声も出せない。何人かのメイドが私の元にやってきて医務室に運び、手当てをしてくれた。


「メイド長、大丈夫ですか?」

「こ、これが大丈夫に見えますか……」


 この姿が無事に見えるというのなら教えて欲しい。しかし、この世界万能なもので医療技術も発達しているし、何なら魔法だってある。この程度の傷ならばすぐに治せるのだ。主人が私たちに後遺症が残りかねない罰であっても、何の躊躇もなく行えるのは、私たちメイドに後遺症が全く残らないことを確信しているからだ。


「久しぶりに罰を受けました。痛いですね。メイド長になる前は誰よりもたくさんの罰を受けていたはずなのにいつの間にか受けなくなっていて、慣れというのは案外大事です」

「そんな慣れは嫌ですよ……」


 治療に当たってくれているメイドには拒絶されてしまったかもしれない。だがそれも私が歩んできた道だ。

 

 これからも時々このような罰を受けながら生活をしていかなければならないのだろう。鞭打ちの傷は明日にも完治しているだろう。このような傷さえも一晩で跡すら残らず治るが、心に刻まれた恐怖が取り除かれることはない。このトラウマのような傷を数多に抱えてメイド長の仕事に当らなくてはならないのだ。

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