第4話 メイド長の独白

 私たちメイドはいつ何時も気を休めることはできない。朝昼晩、休憩中であろうとそれは関係ない。気を緩めたら、貴族である私たちの主人から罰を受けることになる。それは辛く、苦しく、そして絶対に逃げられない。一度でも、そのような経験をしたら、もうこの屋敷から逃げたいと思うかもしれない。

 

 しかし、それは不可能だ。私たちがこの屋敷から出て行くことができるのは、死ぬ時か、主人の許しを経て退職した時だけだ。私はメイド長として数多のメイドを長い間見てきた。逃げ出そうとした者は例外なく命が消えている。


 死ぬのではない。命が消えるのだ。生きていても死んだも同然になる。もちろん、脱走によって死ねることもある。しかし、大半が連れ戻されてしまう。その時は死んだ方がマシであることをその身体に教えられる。そして、それからは永劫、逃げることは叶わぬなり、その時にメイドはこう思うのだ。


 『ああ、あの時あんなことしなければよかった』


 一時の気の迷いで一生をそこに囚われる鎖をつけられてしまう。この自由という意味合いでの人間の幸せを完全に奪われたメイドの命は消えるのだ。


 今日もまた一人また一人と命が消えて行くメイドがいるのだろう。私はそんな彼女ら……そう彼女らの命が消えて行く様子を貴族たる主人の共犯者となりながら見ることしかできない。


私も命が消える様を見て、そしてその命を散らしている実行犯と成り果てているのだ。


何年も何十年も、姿形は変わらないままで囚われ続ける新たなメイドが増えないことを祈ることしか私にはできない。共犯者で傍観者の私にも逆らう権利などないのである。なんと哀しいことか。

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