第8話 恒久の闇と快楽②

 三人のメイドがこれから起こることを想像して身を震わせている。だがそれに同情して手を止めることは絶対にしない。そんなことをしたら、職務放棄に命令違反ということになって私までここに入らなくてはいけなくなるかもしれない。流石にそれは勘弁してほしい。


「まずは着替えからです。三人ともその服を全部脱いで、これに着替えるのです」


 台車の上に置かれている全身タイツのようなピチピチのラバースーツを指さした。このスーツは全身を覆うものだが、なぜこのように身体のラインがでる服装にしているのかは不明だ。なんなら全裸でもいいはずなのだから。


「早くしなさい。時間は限られているのですから」

「嫌ですう。着たくありません」


 二人はもはや観念しているのか大人しくき始めているが、一人往生際が悪く抵抗しようとしているメイドがいる。


「そこの二人、着替え終わったらそこの愚かなメイドにも着せてあげなさい。多少、手荒でも構いません。もし、素早くそのようにしてくれたらば、旦那様に嘆願をすることも検討します」


 嘆願、というよりも事実を報告するだけだ。ただし、それが自発的にやったという体にして報告する。これくらいの情けはかけても良いのではないか。


「や、やります」

「うんうん!」


 二人のメイドは目の色を変えて、もう一人のメイドに無理やりラバースーツを着せた。抵抗しようにも無理やり押さえ込まれているのでできない。哀れなものだ。というか、ほとんどこのメイドの責任なのではないかとすら思えてくる。このようなもののせいで私も鞭打ちを受けた。監督責任は大いにあるが、このようなものに対しての監督責任などとりたくもない。


「その台の上にある枷をとってください」

「はい」


 若いメイドに指示をしてとってもらう。最初に入ってもらうのは抵抗していたメイドからだ。他二人はできるだけ丁寧にやってあげよう。


「手を後ろにまわしなさい」

「っく……」

「早くしなさい」


 思い切り私のことを睨みつけるが、そのようなことをしても無駄だとまだわからないようだ。


「早くしろと私は言いました」


 メイドの腕を無理やり掴んで後ろ手に回して枷を嵌めた。重ねるようにつける枷なのでもはや腕を動かすことなどできないだろう。


「次はそこに四つん這いになりなさい」


 車輪のついた台の上に四つん這いになるように命令する。四つん這いと言っても腕が腕なので、もはや土下座の方が体勢としては近い。


「……やったらいいんでしょう?」

「無駄口叩かずさっさとやりなさい」


 減らず口は治らないのだろう。よかったこれでこれからやる作業も罪悪感を感じない。


 若いメイドに道具をいくつか取ってもらい、それで腰回りから、折り畳まれた足を一緒に固定した。そして、鎖のない足枷をつけ動かせないようにした。また排泄のための管も挿入する。少し痛かったのか顔が苦痛に歪んでいるが、そんなこと気にしてやる必要もない。待機している二人のメイドはこれから自分がされることを具体的に分かってしまい涙を流している。


「ここまで拘束するなんてよっぽど物好きなんですね。笑えてきますよ」

「ここから出ることができた時にも同じことが言えたら褒めてあげましょう」


 もう話す必要はない。栄養補給のための管を口に無理やり突っ込み、奥まで差し込んでいく。嘔吐反射があるがそんなの知ったことか。そして、それが規定通りに挿入できたら、頭と後ろに紐を持ってきて固定して喋れないようにもした。そしてら目隠しと耳栓をする。


 これで感覚は基本的に遮断される。鼻も後で遮る。空気は栄養補給の管から出てくるので呼吸については問題ない。つまり、ここに閉じ込められたものは五感という全てを奪われている。いや、送られてくる空気や食べ物には媚薬が混ぜられているので、催淫しながら、それを解消されることはなく、ずっと暗闇の中で過ごさなくてはならないのだ。期間の指定などあるはずもない。これは無期限だ。


 これらは苦痛を感じるために開発された仕組みでしかない。もっと残酷なのは魔法が室内にかけられていて、精神が狂うことも許されなければ、病気や怪我、無理な姿勢を取らせ続けることで生じてしまう身体の不具合さえ問題なく過ごすことができる。


 また身体の時間も魔法で止められてしまうので『死ぬ』という行為自体許されていない。まさしく生き地獄としか言えない時間を過ごすことになるのだ。


「さあこのメイドをこの部屋に入れます」


 車輪のついた台車を部屋の中に入れていく。わずかに漏れ出る声をあげていたが、もはや意思疎通は困難な状態に追い込まれている。


「またあなたと会えることを願っていますよ」


 扉をゆっくりと閉めて、鍵を厳重に閉めて、かんぬきをかけた。これで万が一にも出られることはないだろう。彼女はあと何年、何十年で出られるのだろうか。


「さあ、あなた方もです。痛くないように配慮はしますから、抵抗はしないでください」

「……はい」


 先ほどの光景を見ておきながら二人とも抵抗せずに受け入れた。ある時など、ひどく抵抗してしまい逃亡しようとした結果、ここから出る期間がかなり延びてしまった。あの時は結局何年いたのか記憶も定かではないが、一つだけ言えるのは、あのようなことにならず本当によかったとちうことだ。


「あなた方の賢さに敬意を表します」


 大人しく施された二人は早く出られるように取り計らってもらおう。それでも一年はかかるかもしれないが。


「あなたも覚えておきなさい。主人の機嫌を本当の意味で損ねると、このように生き地獄に堕ちると。そして、目をつけられてしまっているあなたはその可能性が高いということを」


 少し怖がらせてしまったが、事実なのだから仕方がない。ただし、ここから出たものは良くも悪くも価値観や死生観が変わってしまい、仕事に対しての向き合い方が変わる。それに俗世のことに目を向けることが難しくもなってしまう。それは哀れなのか、それともこの屋敷で働く上では幸運といえるのか私にはまだ答えが出せていない。



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