VS グウェンダ
登録者の多い配信者と少ない配信者の違いはリスナー達が盛り上がる『取れ高』を持っているかどうかだと俺は考えている。
『取れ高』は主に思いもしないトラブル……つまり運によって引き寄せられるケースが多いものだが、だからと言って神頼みだけをして配信活動を行っても意味は無い。
結局の所、運に頼ってるだけじゃ上手く行っても一発屋止まりで終わっちまうからな。
だから大抵の配信者は自分の配信を行う前に『取れ高』が取れる場面に当たりを付け、その状況を最大限に生かす為の計画を立てる。
もちろん俺も修羅も配信者の端くれ、ちゃんと毎回の配信ごとに『取れ高』の当たりを付けてる。
今回の配信を例に挙げるならそう、未討伐のモンスターをぶっ倒す所とかな。
「おら、そんなもんかよ!!」
「俺に力で勝てない奴が調子に乗ってんじゃねぇよ!!」
俺の右腕とグウェンダの斧が衝突する。
にしても、こいつ体もデカけりゃ得物もデカいで迫力すげぇな。
生身の身体でこんなバケモンと遭遇したらなんて考えたくもねぇ。
・いつ見ても冷や冷やするなぁww
・鋼鉄化の毒薬なら腕の色も銀色になるとかしてくれよ
・アニメの演出じゃねーんだぞ
今回、未討伐のモンスターことグウェンダを倒す為に俺と修羅は簡単に作戦を考えてきている。
俺が前線に立ってグウェンダの注意を引き、その隙に修羅が重火器でグウェンダを倒す。
非常にシンプルかつ、この状況で一番効果的な作戦だ。
さっきリスナーが話していた通り、今俺の腕が斧の攻撃を受け止めていられるのは『鋼鉄化の毒薬』を体に打ち込んでいるからだ。
さらに今回は大盤振る舞いでもう二つ、『動体視力を上げる毒薬』と『足をバネ化する毒薬』を同時に打ち込んでる。
これならグウェンダの斧に力負けして遠くの壁に飛ばされても、衝突した時の勢いを利用してすぐに最前線に戻って来れるって寸法だ。
「だらぁ!!もう一発」
「お前、しつこいぞ」
グウェンダの斧をもう一度両手で受け止める。
グウェンダは斧を巧みに操って俺の身体を打ち上げた。
「痛ってぇなこの野郎」
さっきの攻撃はちょっと不味いな……肩ぶっ壊れたぞ。
「半端な強さで俺に挑んだ罰だ。これに懲りたら大人しくー」
「どうでもいいけど隙だらけ」
グウェンダの言葉を修羅が遮る。
次の瞬間、修羅が発砲したロケットランチャーの弾が轟音を放ちながらグウェンダの首元に直撃した。
「今ので15発目。やっと弱点見つけた。たぶんあと1発で君をぶち抜ける」
「だったらお前がもう一度攻撃する前にこの斧で切り殺してくれるわ」
・勝機が見えた時の修羅ちゃんの目が怖い
・人間がして良い目じゃ無いってそれ
・は?むしろご褒美なんだが
・あの目で見られてるモンスターは羨ましいよ
・お前ら本気か?目を覚ませ
特殊性癖に目覚めてそうなリスナーの事はさておいて、さっき初めてグウェンダが苦しそうな表情を出したな。
修羅の攻撃は効いてる。
あの焦り様からしてあと1発って予想もあながち間違いじゃないんだろう。
にしたってロケラン15発当てられた挙句喉にも一回食らってまだ動けるってどんだけタフなんだよ。
ロケランに匹敵する火力を出せる装備なんてそうそう無いし、こいつが今まで未討伐だったのが理由を実感するよ。
まぁ、だったらなおさら俺だけ先にへばってる訳には行かねぇ。
修羅の使ってるロケットランチャーはリロードに時間がかかるデメリットがある。
あいつがリロードに集中して次の一撃を打ち込むためには、俺がちゃんとグウェンダからのヘイトを取らなきゃな。
吹き飛ばされた体を何とか動かし、衝突する天井に対して両足が垂直になる様な体制を取る。
そうすれば『足をバネ化する毒薬』の効果で変位してる俺の足が衝撃を上手く機動力に変換してくれる。
後は、くっそ痛いけど腕を無理やり動かして『体を再生する毒薬』を打ち込んで肩を治せばもう一回グウェンダに突進かませるはずだ。
「悪いが、お前の相手は俺だよ」
修羅の方に気を取られていたグウェンダの顔に俺のパンチが炸裂する。
「ど~だ、今のは結構効いただろ?」
「テメェ」
・すっごい睨まれてて草
・まぁ、しつこく邪魔されてるからな
・てかヨーマ顔色悪そうじゃね??
・ホントやん。どうしたんやろう
やっべぇ……調子に乗りすぎた。
ただでさえ長時間ダンジョンに居座ってるってのに、この短時間で『ダンジョンに住むモンスターの言葉を理解できる毒薬』『鋼鉄化の毒薬』『動体視力を上げる毒薬』『足をバネ化する毒薬』『体を再生する毒薬』を連続で打ち込んだから、ちょっと気分が悪い。
「オロロロロロロ」
「は?」
・おいバカ吐くなww
・コンプラーー!!仕事してくれ~!!
・神回確定
・ここ絶対切り抜かれる
・VS未討伐モンスターなのにノリがいつもの配信のそれ
今までにない強敵だったからつい自分の体の限界を忘れちまった。
口の中が気持ち悪い……早くゆすぎたい。
「ヨーマ!!消火器!!」
修羅の声が響き渡る。
『消火器』と言うのは俺と修羅が配信を始める前に事前に決めていた合言葉だ。
修羅がロケランを撃つ際にターゲットの近くに俺が居た場合、すぐに離脱しろという合言葉。
万が一にも相手のモンスターがこちらの言語を知っていた場合を想定してわざと意味不明な『消火器』というワードを選んでいる。
修羅は俺が吐いたゲロをもろに食らったグウェンダの隙を見逃さなかった。
さすが、重火器でモンスターを殺す配信で上り詰めて来た配信者なだけあるな。
「了解!!」
俺はバネになっている足でグウェンダの顔を蹴り、その場を離脱。
その一秒後、グウェンダの喉元で大きな爆発が起こった。
・やったか?!
・おいバカやめろ
・そのコメントは死亡フラグ
「ヨーマ、巻き込まれなかった?」
「おう、なんとかな」
修羅の近くに着地し、視線をグウェンダの方に向ける。
多分まだ死んでない。
問題は俺達に反撃するほどの力が残ってるかどうかだが、グウェンダは自分の顔に着いたゲロをゆっくりと払って静かにこっちを見ていた。
「……なるほどな。道理でお前の戦いに既視感があった訳だ」
『ダンジョンに住むモンスターの言葉を理解できる毒薬』の効果が切れかけてるせいか、グウェンダの声が聞き取りずらい。
ただ一つ分かる事は、奴はもう俺達を攻撃するつもりがなさそうだと言う事だ。
グウェンダはただジィっと俺の事を見ている。
「おい、俺にゲロ吐いたお前」
「なんだよ」
「お前も唆されたんだな、あの紫髪で羽を生やした女に」
「それってー」
ベノムの事か?
「お前、何か知ってんのか?」
「……さぁな」
「さぁなって、ちょっとオイ!!」
グウェンダは俺の質問に答える事なく、静かにその場で崩れ落ちた。
・これって10階層初討伐じゃないのか?
・本当にやりやがったよコイツ
・でも最後のやり取りは何だったんだ??
唆されたねぇ。
まぁ、グウェンダは一貫して希望を持つなと言っていた。
もしベノムが俺だけじゃなく大勢の人達に『どんな時でも希望を捨てないで』と言っているのだとしたら、その言葉を信じて結果上手く行かなかったのがグウェンダなのかもしれないな。
「ヨーマ?」
「ん?いや、なんでもない。まだダンジョンには謎が多いんだなって実感しただけだ」
「そうだね。でも今日の私達が革命家。そして私達が主役」
「ああ!!盛大に盛り上がっていこうぜ」
色々考えたいことはあるが、今は配信中。
個人的な事情は後回しだ。
今はただ、一緒に戦った修羅やリスナー達と一緒に初の東京スカイツリー前ダンジョンの第10階層突破と言う功績を称える事にしよう。
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