打ち上げ中にも事件は起こる

 グウェンダとの戦いが終わって数日がたった。

 あの配信は大きなバズリを果たし、今やネット上で俺達の顔を見ない日は無いらしい。

 まぁ、最近はずっとその配信に関する後処理に追われて碌にネットも見れてないんだけど。


 「ヨーマ君と修羅ちゃんのお陰でこの国にも活気が戻りつつある。これは僕達ではどうにも出来なかった事だ」

 「そう言って貰えるとありがたいですよ。励みになる」 

 「モンスターぶち抜く。皆を笑顔にする。それが私達の役目」


 そんな俺は今、修羅と佐藤さんの3人でそこそこ高級な焼き肉店の個室に来ていた。

 なんでも、警視庁ダンジョン対策本部からのお礼と言う事らしい。


 「本当はうちの本部総出で労ってあげたかったんだけどね、中々忙しくて」

 「いやいや、こんなうまい飯食わせてもらえるなんて俺達は幸せもんですよ」

 「佐藤さんは働きすぎ。たまには部下に仕事を押し付けた方が良い」


 まぁ、割と佐藤さんが対策本部代表としてここに居るのも割とそれが理由だしな。

 職員の人達からは内緒にしといてくれって言われてるけど。


 それにしたって……修羅のやつ、すげぇ喰いっぷりだな。

 

 タレが飛び散って隣に座る俺の服のしみになってもおかしくない勢いだぞ。

 もうちょっと落ち着いて食べたっていいだろうに。


 「あ、そうだ佐藤さん。俺ちょっと聞きたいことがあったんだけど」

 「ん、どうしたんだい?」

 「実は、今度『アカレコch』って所とコラボすることになったんだけどー」


 『アカレコch』

 社畜で戦えないオッサンだけど世界を変えたいをテーマにしているダンジョン考察系配信者。

 1年前に上げた『どうして俺がダンジョン配信者になれないのか?』って動画がバズり、ダンジョン考察配信というジャンルを世に知らしめた逸材だ。


 俺としてはそんな大物とコラボするのは願ったりかなったりだし、先日の配信の事を喋るだけでアカレコリスナー達にも希望を与えられると言うならNGなしで情報発信したい。

 ただ、その中で一つだけ懸念点があってー


 「そのコラボでさ、ベノムの事喋って大丈夫かな?」

 

 首にかけている注射器の飾りが付いたネックレスに軽く触れる。

 ベノムに類似する妖精の目撃情報が無い事や色んな大人の事情が相まって、ベノムの情報や俺が昔彼女に助けられた話は時が来るまで発信しないと決めていた。


 何かベノムに関する情報に触れるかもしれない企画があった時はこうやって佐藤さんと相談する必要があるんだ。


 「う~ん、実はね。そのことについては私も話しておこうと思っていたんだ」


 佐藤さんは難しい顔をしてポケットからスマホを取り出すと、ある動画を再生した。


 「これってー」

 「この前の私達の配信アーカイブ?」

 「二人はあの配信の後、色んな事後処理があったから知らないだろうけど……ちょっと大変な事になっててね」


 佐藤さんがそう言ってシークバーを動かす。

 

 『お前も唆されたんだな、あの紫髪で羽を生やした女に』


 場面は俺と修羅がグウェンダを倒し、あいつが最後の言葉を残すシーンだった。


 「この言葉が切り抜き動画にアップされてから、ヨーマ君に関する色んな憶測がネット上で飛び交っているんだ」

 「そんなにですか?」

 「ああ。正直言って、危ない陰謀論まで出始めている状況でね。それならいっその事、ヨーマ君とベノムの関係を公表してしまった方が世間体が安定するんじゃないかって話が出てるんだ」

 「それじゃ」

 「ああ、アカレコchとのコラボでベノムの事を話して大丈夫、というよりむしろ話して欲しい」


 コラボ打ち合わせの時は私加えさせて貰うけどねと言いながら佐藤さんが肉を焼く。

 そうか、俺が見てない間にそんなことになってたんだな。


 ネット世界での世論はめまぐるしく変わるから追いかけるもの大変だぜ。


 「私もしばらくネット見てない。確認しよ」

 「だからって肉頬張りながらスマホいじる事無いだろ」

 「あ、ヨーマのアンチコメがSNSのトレンドになってる」

 「大体なぁ、食事のマナーとしては……って何ぃ?!」


 あまりに衝撃の台詞だったので、俺はとっさに修羅のスマホを覗き込んでしまった。

 トレンドになってたのは『ヨーマは雑魚』と言うワード。


 俺の配信にちょくちょく現れる荒らしbotが良く使うやつじゃねーか。


 「色んな女性配信者のコメント欄がこの言葉で荒らされてるって」

 「いやいやいや、面識のない配信者の人も被害に合ってるじゃねーか」

 「多分単独犯。色んな捨てアカを作ってるみたい」


 この荒らしは俺の配信では暴れていても、よそのコメント欄には現れなかったはずなのに。

 一体どうしたんだ?


 「……とりあえず、俺のアカウントから声明を出そう。佐藤さん、すみませんけど他の配信者さん達に被害が及ぶ前にサポートしてもらう事って可能ですか?」

 「ああ、もちろん。この店を出たらすぐにとりかかろう」


 こうして俺達は早めに食事を切り上げ、ダンジョン対策本部にて対応を測った。

 俺の事情を組んでグ~グ~鳴る腹を抑えてくれた修羅には今度別の食べ物で埋め合わせしよう。

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