ダンジョン配信者の生き様

 「俺達も軍隊を率いてこの塔を攻略しに行ったもんさ。俺は剛腕のグウェンダなんて呼ばれて軍の圧倒的なリーダーだった」

 

 俺と修羅は唖然としていた。

 自分の事をグウェンダと名乗るモンスターの放った言葉があまりにも想像と違っていた。


 今まで俺達がダンジョン配信を通して戦ってきたモンスター達はみんな好戦的で、俺達人間が怪我をすればそれをあざ笑う。

 まるでゲームに出てくる敵役がそのまま現実に姿を姿を表した様な存在だった。


 「そんな俺がこの塔に住まうたった一人の女倒されちまった。こんな大きな火傷の痕までつけられて最悪な気分だったぜ」


 でもこいつはどうだ。

 言葉を交わしてみればその実態はモンスターってよりかは俺達人間に近いような気さえしてくる。


 ・モンスター殿に悲しき過去

 ・え、どういうこと?こいつらもダンジョンに挑んだ過去があんの??

 ・炎属性の女ボスが居るのか??

 ・グウェンダさんに火傷痕つけた奴やばすぎるだろ


 まぁ、こんな状況でもリスナー達は元気だ。

 それに修羅が隣で早打ちに適したハンドガンを準備してる。

 だったらダンジョンやグウェンダに関する考察はリスナーたちに任せて俺は口を動かすべきか。


 「元々このダンジョンに挑んでたって言うなら、なんでお前は今ダンジョンのモンスターとして過ごしてるんだよ」


 「この塔の住人になれば国の連中を全員生かす事が出来ると俺を倒した女は言った。どうせ勝てないなら従うべきだろう?同胞を何人と殺した化け物共の仲間に成るのは屈辱だったが、全員殺されるよりはましだった。あの時の俺達には絶望しながら全滅するか、絶望しながら化け物に成るかの2択しかなかった」


 「本当にそれしかなかったのかよ。全員とまでは言わなくても、お前自身が希望を持てる選択肢だってあったんじゃないのか?」


 「俺は軍人だ。多くの人間の命を守るための行動を取らなきゃならない。もしこのダンジョンを攻略できたら……なんて、実現する望みの薄い賭けに乗る事なんて出来るはずもねぇ」


 グウェンダはゆっくりと足元の斧を手に取った。

 俺達を襲う気配はない。

 

 「この世界の住人達と何回かやり合ったが、その誰もが俺すら倒すことが出来なかった。だからこそ分かる、お前らじゃ万が一に俺を殺すことは出来てもダンジョンの攻略をすることなんて不可能だ」


 グウェンダが斧をこっちに向ける。

 斧の動きに押し出された空気が風になって俺と修羅の髪を強く揺らす。


 「もしもの可能性になんか夢見るもんじゃねぇ。お前らも変な希望は捨てて絶望的な現実を受け入れろ」


 現実を受け入れろね……やっぱこいつモンスターって思えないほど人間にそっくりだ。

 頑固な大人たちの言ってた事と何ら変わらない主張じゃねーか。


 それなら俺の答えはとっくの前に決まってる。


 「悪いけど、俺はそんなのごめんだね」

 「あぁ?」

 「アンタは軍人としてどうのこうのって言ってたけど、そんな理屈どうでもいいんだよ。だって俺達はリスナー達に希望を届けるダンジョン配信者だからな」


 大勢の命を救わなきゃいけないとか、現実的かどうかとか、そんな事は俺達の専門じゃない。

 ありふれた日常をぶっ壊したダンジョンの中で暴れ回ってリスナー達の怒りを代弁する。

 モンスター達を倒しまくってリスナー達の願望を叶えていく。


 そう振舞ってこそのダンジョン配信者だ!!


 「政府や世論が『もう世界は終わった』と絶望的な現実を受け入れているからこそ、俺達は命を張りながらバカやって『今の時代も捨てたもんじゃねーぞ』って画面越しに訴えるんだよ」

 「……ふざけるなよ。俺達よりパワーもスピードも劣るお前らがいっちょ前に希望を謳ってんじゃねぇ!!」


 グウェンダの斧が俺に向かって振り落とされる。

 そのスピードは想定以上に素早く、俺が斧の動きを認識してからではとてもじゃないが躱せないほど。

 

 でも、何も心配することは無い。

 だって、ずっと隣で待機していた修羅のハンドガンがすでにグウェンダの右手をぶち抜いてるからな。


 「ヨーマが絶望したって言ったらどうしようかと思ってた」

 「昔命を救ってくれた人に『どんな時でも希望を捨てないで』って言われてるからな。そう簡単に俺は折れねぇよ」

 「ヨーマのそう言う所嫌いじゃない」


 振り下ろされた斧の軌道がそれ、俺とは離れた地面に突き刺さる。

 それと同時に俺と修羅は本格的な戦闘態勢に入った。


 「グウェンダだっけ?お前に見せてやるよ、俺達の生き様を!!」


 そんな声を張り上げながら、3つの改造注射器を左足に突き刺した俺は前に飛び出たのだった。

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