未討伐のモンスター
・そう言えば、10階層には何が居るんだ?
・見討伐のモンスターが居るとしか……
・正式が学名がまだついてない奴が居るんだよなぁ
10階層へ向かう階段を上っている最中、配信のコメント欄は10階層に対する様々な考察で埋め尽くされていた。
まぁこの配信も気づけば結構な時間がかかってるし、ここでいったんリスナー達に説明しておくのが配信者としての大事な心配りって所だな。
「このダンジョンの10階層には、さっきの9階層と同じ熊っぽい見た目の人型モンスターが居るんだとよ」
「9階層のデットアーミー達と違って一体。体の右半分に火傷の痕がある」
・前に10階層に行ったパーティーは1分で全滅したとかなんとか
・火傷痕あるの強者感あって良いな
・中二病かよ
・なんか知らない言語を話すみたいな噂があった様な
・今までのモンスターみたいな鳴き声とは違うんか?
・知らん外国語話す観光客みたいなもんだろ
・今時の若い子に観光客なんか通じるんか?
・ダンジョンが出来てから外国に観光とか言ってられん状況ばっかやしな
・異世界の住民説とか12chで作られてた希ガス
「私のリスナーもヨーマのリスナーも物知り。私が説明しなくて良いから楽」
「それを直に言っちゃうのは配信者としてどうなんだよ」
修羅にそんなツッコミを入れながらやたらと長い階段を歩く。
「まぁさっき皆も言ってた通り、10階層のモンスターには極めて俺達人間に近いと考えられる情報が多い。せっかく『ダンジョンに住むモンスターの言葉を理解できる毒薬』使うなら、こういう相手に使った方がワクワクするだろ?」
・それで10階層行くのは覚悟決まりすぎでは?
・この質問はヨーマにとって今更だろ
・初見ちゃんか?力抜けよ
・まぁダンジョン研究なんも進展が無いし、ヨーマの意見は妥当
・これで火傷のモンスターが何も知らんニートみたいな奴だったら笑う
・ダンジョン引きこもりモンスターは草
リスナー達がそんな馬鹿話をしている間に、俺達二人は階段を登り切った。
目の前にはいかにもゲームで見たことある様な扉がドーンと待ち構えている。
「まるでゲームのボス部屋みたいだな」
「前ここに来た人達の動画では扉に罠は無かったけど。念には念を」
そう言って修羅がダンジョン用異次元リュックの中から取り出したのは例のロケットランチャーだった。
「ヨーマは例の毒薬の準備してて。後少し下がって。派手にぶち抜くよ」
修羅はそう言って周囲を確認し、ロケットランチャーのトリガーを引いた。
動画越しでは伝わらない強い爆風と熱が俺の身体を捉える。
・ふぅぅぅぅ!!
・迫力満点で草
・やっぱ修羅ちゃん絵になるわ
リスナーの歓喜の声をよそに、俺達は瓦礫を避けながら部屋に侵入する。
それと同時にグラリに大きな何かが動いたような感覚があった。
ちらっと視線を上げると、そこには大きな火傷の痕を負っている例のモンスターが立っていた。
身長はざっと修羅の2倍程度。
足元には槍や斧などの棒状の武器が沢山並んでいる。
なんか気だるそうにこっちを見ているそのモンスターが口を開くその瞬間を逃さぬように、俺はそっと『ダンジョンに住むモンスターの言葉を理解できる毒薬』を自分の体に打ち込んだ。
「……こういうのは久しぶりだな。まるで昔の俺を見てるみたいだ」
・しゃべったぁぁぁぁぁ!!
・第一声おっさんみたいなモンスターやんけ
・見た目怖いな
「殺意はないみたいだな」
「なんか変。ぶち抜くのはもうちょっと後の方が良いかも」
「ん……なんだぁお前さんら。俺の言葉、理解できんのか?」
・あっちは俺達の言葉分かるのか
・なんか普通に会話してて草
・毒薬の効果か知らんけどイケボやん
・飲み潰れた親父みたいなモンスターだなお前な
初めて配信に乗る日本語訳されたモンスターの声。
それを聞いたリスナー達のテンションが上がっているのか、コメントの更新が中々激しい。
俺と修羅は目の前のモンスターがいつ行動を起こしてもいい様にそれぞれ得物に手を伸ばしてモンスターとにらみ合う。
「……なるほど。さっき打ち込んだ何かで俺の言葉を理解しているんだな」
「結構な観察眼だな。正解だ、効果時間が短いから言いたいことがあるなら早めに言ってくれよな」
「まぁ、それなら俺にとっても都合がいい」
どんよりとした目で俺達を見ながら例のモンスターは口を開く。
「もうお前達は何もするな。お前達がこの塔をどれだけ攻略しようと全て無意味だからな」
「私達じゃ君をぶち抜く力も無いって言いたいの?」
「そこの嬢ちゃん、意味をはき違えないでくれ。仮にお前らが俺を倒せたとしても最終的には無意味に終わる、何の意味も無いんだ。希望を持っても苦しいだけ。最初から絶望してこの塔に飲み込まれていた方がお前達の為だぞ」
モンスターが語ったその言葉は酷く震えていた。
しまいには苦しそうに頭も抱えていた。
何の覇気も感じられないモンスターの目は、まるで終わる事のない悪夢を映していると感じてしまうほどに暗かった。
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