魔の9階層攻略中
「お〜い、こっちこっち!!人間様のお通りだぞ〜!!」
修羅とのコラボ配信が始まって一時間が経過。
俺はバクバクと鳴る心臓酷使させながら魔の第9階層を走り続けていた。
それも自分の鼓膜が破れるほどの大声を上げながら。
・こんな状況なのに笑顔で草
・なにわろてんねん
・てか声うるさすぎるだろ
・鼓膜無いなった
・配信の音声下げろ定期
本当は一つ一つのコメントに反応してやりたいところなんだが、現状がそうはさせてくれない。
「おっと、危ない」
だって俺は今、推定30体ほどのモンスターの群れと追いかけっこをしているのだから。
「&%$#$&#!!!」
「?*+%&$”%$&!!!」
「ほっほ〜。良いね〜元気で」
大声を上げて俺を追いかけるのは、大柄な熊に似た大柄のモンスター。
二足歩行で走り、どこからどう見てもハンマーにしか見えない武器を持つ。
通称『デットアーミー』、人間に少し似ている行動を取る珍しいモンスター達だ。
東京スカイツリー前ダンジョンの9階層が『魔の9階層』と呼ばれている理由はこのデットアーミーの厄介極まりない行動にある。
「&%$&$!!!!!!!!」
「おっと」
このモンスターは2つ集団に分かれて相手を襲う。
1つは大勢のデットアーミーで獲物を追いかけスタミナを減らす部隊。
そして、もう一つが2体のデットアーミーで構成されている奇襲部隊だ。
「右腕持っていかれたか。やっぱ完全に回避するのは難しいな」
・やっぱこいつ等こえーよ
・奇襲部隊を倒そうとする前に後ろの軍隊が攻めてくるのほんまクソ
・奇襲部隊はハンマーじゃなくて斧持ってるのも殺意高くて怖い
「まぁ、最後まで逃げ続けてや゛る゛け゛ど な゛あ゛ぁぁぁぁぁ」
・声枯れてて草
・息も結構切れてないか?
やっぱりここ等へんがいったん体の限界か。
腕を切られたさっきの瞬間、左手で注射器を取り出しておいて正解だった。
俺の改造注射器は同時に4本まで持つことが出来る様に持ち手をいじくってある。
今俺の手元には『回復の毒薬』『叫び声を上げる毒薬』『心臓を高速で動かす毒薬』がそれぞれ入った3本の注射器。
これをデットアーミーどもが次の行動を起こす前に、体に注入する。
「あ゛あ゛!!き゛い゛て゛きたー!!まだまだ俺は走れるぜぇぇぇぇぇ」
・ガンギマリスマイルやめろ
・これが俺達の希望を名乗る異常者の顔面です
・注射器ぶっ刺したまま走るのやめろwww
なんか色々リスナーに言われてるみたいだけど関係ない。
俺はデットアーミーどもの囮になって、この大声を絶え間なく出し続けるだけ。
「ほらほらどうした!!俺はこっちに居るぞ!!」
・いまきた、どういう状況??
・魔の9階層攻略中ゾ
・あれ、デットアーミー少なくない?走りながら倒したの?
・いや、ヨーマは一体も倒してない
・ヒント コラボ相手
・今も1匹2匹ぐらい倒れてるから見とけよ見とけよ
そう、リスナーの言う通り。
今俺の背中を追いかけているデットアーミーの数は今も一匹2匹とその数を減らしている。
最後尾に居たやつから少しづつ、味方にも気づかれぬ間に命を落としているのだ。
俺の奇声で隠された死神の発砲音に気づかぬまま、今も自分達が優勢であると勘違いを続けて。
『合計107体ぶち抜いた。あとそっちに15体と奇襲2体』
耳に引っ掛けている小さな通信機から、今もデッドアーミーを葬っている修羅の声が聞える。
『ここから私も前線。ヨーマは奇襲してる2体をよろしく』
「OK。任せろ!!」
修羅からの伝言が聞えた瞬間、俺はわざとスピードを落として足をくじいたような演技をする。
ちゃんと左手で改造注射器一本を抜き取る事を忘れずに。
「&%$#$&#!!!」
「?*+%&$”%$&!!!」
前方二方向から、奇襲部隊のデットアーミー2体が姿を現す。
この機を逃さないと咆哮を上げ、俺の首めがけて大きな斧を振りかぶった。
俺は上半身をかがめ、斧が下りてくる前に前方へ走り抜ける。
斧が地面にめり込んだその瞬間、体を回転させて左側にいたデットアーミーに持っていた注射器をぶっ刺した。
注射器が刺さったデットアーミーの右腕が赤い光を帯びていく。
それを確認した俺は、そのデットアーミーを一人の奇襲部隊デットアーミーが居る方向へ蹴り飛ばす。
その数秒後、毒を打ち込まれたデットアーミーの右腕が派手な音を出して爆発した。
近くにいたもう一体のデットアーミーはその爆発に巻き込まれて物言わぬ骸となっている。
・いつもの右腕爆発毒じゃん
・モンスターボム?!
・何も知らないモンスターにそれはまずいですよ
・外道で草
・こんな狂人とエンカウントしたデットアーミー君が悪い
「&%$&$!!!!!!!!」
右腕を無くしたデットアーミーがこちらをぎろりと睨む。
だがそんなものでひるむ俺じゃない。
俺はさっきまでデットアーミーが持っていた斧を振り上げて、その刃を振り下ろした。
「おら!!落とし物だぜ」
目の前で舞うのは鮮血。
こちらに殺意を向けていたデットアーミーの首がボトリと音を鳴らして地面に墜落した。
・落とし物だ、じゃねーのよ
・言うとる場合か
・いや後ろ後ろ!!
・それは良いけど後ろに居る15体ぐらいの奴はどうすんの
「ん?後ろ??」
コメント欄がざわついていたので何があったのかと思い、後ろを振り向いた。
そこには15体ほどの残されたデットアーミー達が今にも俺に襲い掛かろうと走っている姿があった。
「油断大敵。集まりすぎるとこうやってぶち抜かれるよ」
その声が聞えた一秒後、デットアーミーの群れにロケットランチャーの弾が着弾する。
突然巻き起こった大爆発に巻き込まれ、15体ほどいた最後のデットアーミーは訳も分からぬまま死んだのだ。
「やっぱりいい性能してる。ロケットランチャーはロマン」
黒いけむりの中から現れた修羅は、興奮冷めやらぬと言った表情で手に持つロケットランチャーを撫でていた。
・本当に2人でデットアーミー全部倒しやがった
・修羅ちゃんの配信見てたけどエイム良すぎて笑っちゃった
・たしかデットアーミー討伐って15人ぐらいのチームでしか出来ないとか言われてた希ガス
・囮やってたヨーマもすごいけど修羅ちゃんのキルレートどのぐらいなんだろ
・あっちの配信見れば右上の方に書いてあるぞ
・ちな、この階層での修羅ちゃんのキルレは122体
・10階層まで行けるか不安だったけど9層までの攻略が怖すぎて泣いちゃった
・もうどっちがモンスターだよ
・驚かないでくださいね。この配信のメインはここからなんです
「いや~、久しぶりに9階層まで来たけど結構骨が折れるな」
「ヨーマが居てくれたからスナイパーに専念出来た。久しぶりにあれすると楽しい」
「そうか?まぁお前やリスナーが楽しんでくれてるなら俺はなんでもいいけど」
ふ~っと一呼吸を置いて体をちょっとひねる。
全く疲れて無いって訳じゃないけど、まだまだ俺の身体は大丈夫そうだな。
「修羅、疲れたりしてないか?」
「大丈夫。このまま行けるよ」
「よし、それじゃぁ行ってみるか」
そう言って俺達は目線を同じ方向へ。
視線の先にあったのは上層へ向かう階段。
未だ誰も討伐したことがないモンスターが住まう、第10階層への入り口だ。
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