毒薬信者の希望に満ちたダンジョン配信活動
アカアオ
1章 ダンジョン配信者の日常
プロローグ 毒薬と希望に出会った日の事
令和30年、ちょうど俺が小学2年生ぐらいの頃の話。
その日、世界各地で謎の建物が現れた。
その建物は全て見たことの無い石のような素材で出来た塔だった。
中に得体のしれない化け物が存在する事を理由に、その塔は『ダンジョン』と呼ばれる様になる。
当時、俺は不運にもダンジョンの出現に巻き込まれた。
大きな音がして、目の前が土で見えなくなったと思った次の瞬間、見たことの無い部屋で一人。
背中には激痛が走っていて、目線を少し横に向ければ自分の血が大量に流れている。
当然体を動かすことも不可能だった。
「ごめんね。僕達の戦いに君達を巻き込んでしまって」
そんな俺を助けてくれたのは、背中に蝶の様な羽を生やした紫髪の女性だった。
「君の体に僕特性の毒を……いや、この場合君の世界では薬と言い換えた方が良いのかな?とにかく君の怪我は一時間もしたら治るよ。それまで痛いだろうけど我慢してね」
彼女はまだ小さかった俺の身体をお姫様抱っこの形で抱き上げながらダンジョンの中を迷いなく歩く。
「僕は上手に君の世界の言葉を喋れているかな?」
「日本語上手に喋れてるよ。お姉さんは外国の人?」
「似たようなものさ」
子供心ながら彼女が自分を助けてくれている事ぐらいは理解できる。
その時に感じた安心感は今でも忘れる事は無い。
「もう一度君に謝らせてほしい。僕の知り合いが作ったこの塔のせいで君の世界はこれから大変な事になる」
「大変な事??」
「きっと、君の生活も大きく変わってしまう。僕があの時『繧ソ繝ッ繝シ』を止められなかったせいだ」
紫色の髪を揺らす彼女の顔が歪む。
心配そうに彼女を見つめていると、それに気づいた彼女はパッと表情を明るくした。
「ごめんね、暗い話しちゃって」
「大丈夫。ねぇお姉さん、その大変な事を乗り越える為に俺に出来る事はある?」
「乗り、超える?」
「お父さんやお母さんが言ってたんだ。人間はどんなに大変な事でも乗り越えられるって!!お父さんとお母さんの世代は凄い病気が流行ってたみたいなんだけど、それをちゃんと乗り越えたんだって」
当時は俺も子供、一番大好きな大人が両親と言ってしまうお年頃だ。
ついマシンガントークで両親の話をしてしまった。
そんな俺の話を彼女は静かに聞いて、そしてどこか嬉しそうに笑った。
「君達は中々にたくましいんだね」
「そうだよ。頑張れば何にも負けないんだ~!!」
「それなら一つ、覚えていてほしい事がある」
「なに?」
「どんな時でも希望を捨てないで。絶望している人がいたら、その人の心に希望を灯してあげて。それが『繧ソ繝ッ繝シ』に対抗できる唯一の方法だから」
そんな話をしていると、薄暗かった景色にパッと光が灯される。
出口が見えてきたのだ。
「もうここまで来れば安心だよ。あそこまで歩けば君の家族が待っているはずだから」
「お姉さんは行かないの?」
「僕はここから出られないんだ、そう言う仕組みになってる」
彼女はそう言うと俺をそっと地面に降ろしてくれた。
「そうだ、君に一つお守りを渡そう」
「お守り?」
「ああ、とっておきのお守りさ」
そう言った瞬間、彼女の両手が怪しく紫色に光る。
その光が収まった頃には、彼女の右手に注射器の形の飾りが付いたネックレスが作られていた。
「これを付けている間、君は僕の持つ奇跡の一部を使うことが出来る。この奇跡を上手く使って、この世界に沢山の希望を生み出してほしい」
「分かった!任せて!」
「よしよし、良い返事だ。そう言えば、君の名前は何と言うんだい?」
「俺はヨーマ。三条ヨーマだよ」
「ヨーマか、良い名前だね。僕の名前は『繝吶ヮ繝?』……じゃなくて、この世界の言葉で言うなら……ベノム。毒の奇跡を持つ妖精、ベノムだよ」
その後、俺はベノムに言われた通りの道を歩いて元の世界に帰る事が出来た。
それから16年の月日が経った現在。
ベノムの言っていた通り世界は大変な事になって、俺達の当たり前がどんどん新しい物に変わっていった。
今の暮らしについていけない人、昔は良かったと嘆く人、ダンジョンに住む化け物に恐怖する人、未来に希望を見いだせない人。
沢山の人の絶望を見て来た。
そんな今だからこそ、あの時ベノムに少しだけ力をもらった俺がやらなくちゃならない事がある。
「さて……今日もいっちょ配信始めますか!!」
配信用のカメラ機能があるドローンの電源を入れる。
ちらっとスマホを確認して自分の配信が始まっている事を確認した後に、俺はいつもの挨拶を元気よく繰り出した。
「よ~お前等!!俺こそがお前らの希望になるヨーマ様だ」
これは俺が『ダンジョン配信』を通して皆の心に希望を灯していく物語だ。
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