#102 今日は久々にあの企画をするぞ

 「よ~お前等!!俺こそがお前らの希望になるヨーマ様だ」


 ・お、配信始まったか

 ・これマジ??身長に対して態度がデカすぎるだろ

 ・最近噂の政府公認薬中がいると聞いて

 ・今日も派手にモンスター倒してくれよな!!

 ・ヨーマは雑魚ヨーマは雑魚ヨーマは雑魚ヨーマは雑魚


 「いつも見てくれるリスナーも初見のリスナーも、ついでに俺のアンチも皆元気でいいね~。この調子でこのじめっとした日本社会を変えて行こうぜ!!」


 ドローンに搭載されたカメラの前で俺は声を張り上げる。

 なんでって言われたら、そりゃぁ声が大きい方が元気な奴に見えるだろ?


 俺が配信をする理由は一つ、この配信を見てくれている人の心に希望を灯す為だ。

 だから俺が一番に元気な姿を見せないと始まらねえんだ。

 

 「最近は日本でも俺みたいにダンジョン配信する人が増えたね~。なんかさ、最近日本中が活気づいてると思いませんか皆さん」


 ・ヨーマは配信最古参勢だから嬉しいよな

 ・確かにダンジョンが現れた時より活気づいてる感はある

 ・最近は可愛い女の子もダンジョン配信してるからな

 ・でもバカな奴が死んだニュースとか見たぞ

 ・お前エアプか?死んだ奴は政府公認の免許持ってないのばっかりだぞ


 あちゃ~、ダンジョン配信の話に触れた瞬間コメント荒れだしたなぁ。

 まぁ政府がダンジョン配信用の憲法を作ったとはいえ、倫理上の問題とか色々あるもんな。


 『人の命がかかっている物をエンターテイメントにしていいのか?』って意見の人も居れば、『ダンジョンなんかあるだけで危険だし、認められたプロが戦う配信でモンスターの情報を一般人が知る事は非常時に役立つだろ』って意見の人も居る。


 個人的にはダンジョン配信肯定派なんだが、否定派の意見も十分に理解してるつもりだ。

 だからこそ、こう言う話でコメント欄が荒れた時に何かの意見を出すことはあえてしない。


 強引に配信を続けて話題を変える、それが俺のやり方だ。


 「ま、俺も負けられませんなという訳なんだが……今日は特別な企画をするぞ」


 ・特別?

 ・めっちゃ嫌な予感してきた

 ・今気づいたけどコレ池袋ダンジョンの3階層じゃね?

 ・そんなところで大声出すなよww


 「今日はなんと……新しい毒薬を作ります!!」


 ・毒薬きちゃ

 ・前作ったの一か月前とかだよな、腕が爆発するやつ

 ・今度は足が爆発するんか?

 ・バイオレンスすぎて草


 コメントがものすごい勢いで更新されていく。

 毒薬づくりは俺の配信の中で一番の人気コンテンツと言っても過言ではないからな。


 あの時ベノムに貰った注射器の形の飾りが付いたネックレスをちらっと見る。

 このネックレスを一か月つけていると毒薬の作り方が頭にポーンと入って来るんだ。

 未だ理論は分からんけどな。


 「今回作るのは、ダンジョンに住むモンスターの言葉を理解できる毒薬で~す!!」


 ・またえぐいの作ろうとしてて草生える

 ・お前が理解できても配信みてる俺らが分からんやろがい!!

 

 「そこはご安心を。政府のお偉いさんに聞いてみた所、俺の脳にチップを埋めて配信用マイクと連動させるプランを用意してくれたから」


 ・さらっとえぐい事言うやん

 ・また政府公認で毒作ってるよこの人

 ・もう終わりだねこの国


 「まぁそんでこの毒を作るための材料なんだが、池袋ダンジョン3階層にいるザイクロってモンスターの脳が必要でー」


 リスナーに対して素材の説明をしていたその時、背後から重々しい足音が聞えて来た。

 振り返った先に居たのは、腐った木に仮面を植え付けたような見た目のモンスター。

 標的のザイクロだ。


 「早速お出ましか……お前の脳、頂くぜ!!」


 声に合わせて地面を蹴り上げる。

 体をひねり、脳がある仮面の部分を右手で勢いよく掴むための体制へ移行。

 左手はベルトに差してある小さな改造注射器をいつでも手に取れるように準備しておく。


 ・そんな無策に飛び込んで大丈夫か?

 ・ヨーマなら余裕よ

 ・今日もバケモンどもを木っ端みじんにしてくれよな!!

 ・おい、ザイクロの枝はひょろひょろだけど鉄とか普通に切るぞ

 ・え、ヤバイやん


 そんな不穏なコメントが流れたちょうどその瞬間、ザイクロの枝がものすごい速度で動いて俺の右腕を切り落とした。

 ザイクロは顔である仮面でニヤリと歪な顔を浮かべて勝ち誇っている。


 「お前等モンスターはいつも俺達をそうやってあざ笑うよな」


 ダンジョンのモンスター達は俺達人間よりもはるかに強い。

 現代兵器が通じない輩だってごまんといる。

 でもなー


 「毒キメた俺の前じゃ無駄だぜ、それ」


 俺は準備していた左手でベルトから改造注射器を取り出して、それをすぐさま自分の足に打ち込んだ。

 すぅっと毒が全身に回っていく気持ち悪い感覚の後、さっき切られた断面から俺の右腕が再生される。


 ザイクロは突然の事に驚いたのか、動くことなく俺の身体をじっと見ている。

 俺は勢いそのまま再生した右腕でザイクロの仮面をガッと掴んだ。


 「さぁ、これで仕上げだ!!」

 

 左手でベルトからもう一本、さっきのとは違う毒が入った注射器を取り出しすぐさま右足に打ち込む。

 すると、ザイクロの仮面を掴んでいる俺の右手が赤い光を帯びていってー


 その数秒後、盛大に爆発した。


 ・いつもの

 ・平気で右腕を犠牲にしていくストロングスタイル

 ・また右腕君が過労死してる

 ・もっと右腕を労わってあげて

 ・替えの鼓膜が無ければ死んでいた

 ・あのザイクロをこんな短時間で倒すのえっぐww


 「よ~し、何とか倒せたな。まず右腕を再生させて……お、あったこれがザイクロの脳だな」


 ・グロい

 ・そんなもん見せんなww

 ・やぁ、ヨーマ。毒薬の調合は警視庁ダンジョン対策本部で頼むよ

 ・上司が来てるやん

 ・いつもヨーマがお世話になっております


 お世話になっておりますって、後方腕組みお父さんみたいな事言わんでも。


 「よし、それじゃぁ目当ての物も見つかったし、今日はこれで配信終わり。皆、明日からも希望を持って頑張ろうな!!」


 ・おつかれ~

 ・おつかれ様でした

 ・本当にお前が日本の希望や

 ・ヨーマは雑魚ヨーマは雑魚ヨーマは雑魚ヨーマは雑魚

 ・次も期待しとるやで


 リスナー達のコメントを1分ぐらい見た後で配信を切る。

 まぁ今日はいつもにまして荒らしbotが目立ってたけど、おおむね皆楽しそうにコメントしてたように思えるな。


 絶望している人がいたらその人の心に希望を灯す。

 俺なりの方法だけど、何とか上手くやってるよ。


 だからベノム、地球上の皆が心に希望を灯すその日まで……何処かで俺の事を見守ってくれよな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る