サイキック怪盗少女と幼馴染の…
前書き
想定以上に本業の仕事の調整に難航しました。おかげで執筆時間が取れない…
前書き終わり
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「……随分、やってくれたわね」
そう言ってわたしは木の影から姿を現した。
バイクを飛ばしに飛ばして12時間。警察署に向かうのは無理と判断したわたしは、捜査班が調べるポイントを村野警部補の端末のGPSから割り出して現地へ向かった。
(…まさか実家とは思わなかったけど…)
去年片付けに来て以来の生まれ故郷に向かおうとするも、途中で待機している大量のパトカーに気づいた。そのためバイクを乗り捨て【空中浮遊】と【隠蔽】でここまで飛んできたが…
(こんなところにいたとは…)
着いたところで怒鳴り声が聞こえ、ご神木のほうに行ったらヤツラの戦闘班がいた。やはりシーちゃんの身柄が狙いだったヤツラは山田捜査長たちを殺そうとしたので、とっさに攻撃していた。
「おまえは…!?怪盗ウォーカー!?」
「ちぃっ!よくも!」
ヤツラの戦闘班__それもこの村の虐殺を起こした隊長も含めた生き残り。海外に高跳びしてると思ったが、ここにいるのは好都合。
「…今度こそ、年貢の納め時よ」
「はッ、その前に
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「…くそがぁ」
「ぐ…っぐぅ…」
1分後、あまりにもあっけなく部下の6人は倒されていた。今のですべての部下たちの意識も失わせた。
「…畜生がぁ!」
隊長も足を【凍結】させてその辺に転がした。4人倒したところで撤退を命令したのはさすがだが…
「ホント、あっけなかったよ」
師匠に鍛えられたとはいえ、あまりにも簡単に倒せてしまった仇の力量に、溜息を吐いた。
「…あとは、アンタだけだ」
わたしは隊長に近づきながら、腰の短刀に手を伸ばす。山田捜査長の顔がこわばるが、お構いなしにその刀身をさらけ出す。
「さて、一つ聞きたいことがあるわ、隊長さん」
「…な、なんだ?」
「あなたの今の雇い主って誰?」
こいつが今まで行方をくらませていたのは、本人の能力以外にもそれに協力していた人間がいた可能性が高いからだ。でなければ警察の捜査を躱しながら1年も潜伏なんて無理だろう。
「シロン捜査官__サイキックを攫って利がある権力者、そこまではわかっているんだけどなぁ」
「それを言えと?」
「そうねぇ、そうすればこの刀をしまう、といえばわかるかしら?」
『これはお願いではない、脅しだ』というように奴の足の冷気を強める。このまま殺してもいいが、そうすればさすがに山田捜査長たちも黙っていないだろう。
「…
「虻川?室山の後釜の?」
意外とあっさりと奴は吐いた。そしておよそ予想していた答えに、わたしも驚いた。
「虻川議員だと…」
「あの人なら確かに…」
山田捜査長たちもその答えに意外性を感じていなかった。室山派閥の穏健派と思われていたが、結局同じ穴の狢だった存在の名前に、呆れの色も出ている。
「…本当に虻川なの?」
「嘘は言ってねぇ!本当に虻川だ!」
おそらく保身のためだろうが、必死に言い訳している隊長。それを呆れて見ている部下たち。むしろこんなタイプの指揮官だから今まで戦場から生還できたんだろうなぁ…と思いながら納刀するわたし。そんな空気の中、パトカーの音が聞こえ始めた。
「…昌たちか」
「ようやく…」
「な、何故だ!?通信封鎖がバレたにしては早すぎる!」
「あー、やっぱりやってたんだ」
多分それとは関係なく後続で出発したのだろう捜査本部の人たちだろう。まぁ、危険な集団の関わった事件を捜査するなら、二重三重で予防策を用意してても不思議ではないが…この辺は恐らく山田捜査長の差し金だろう。
「…クソ!だがまだ……」
「あ、そういうのはなしで」
わたしは【凍結】で急いで拳大の氷塊を作り、隊長の頭に高速でぶつける。たまらず意識を失う隊長。恐らく爆弾か何かを作動させようとしたのだろうが、そうはさせない。
「恐らく…これだ!」
隊長の体を調べると、小型通信装置らしきものが見つかった。こいつらは大抵携帯回線しか遮断しないから、これはそれ以外の回線で繋がるようにして切り札を作動させようとしたのだろう。
「山田捜査長。これ預けます」
そういってその通信装置を山田捜査長に投げ渡す。慌てて受け取る捜査長を横目に、わたしは離脱の準備を始める。
「…こいつらのこと、任せます」
さすがに人数が多すぎる。グループのメンバーも警察の前のは姿を現せないだろうから、この戦闘班は警察に預けることにしよう。
「…もう二度と、娑婆に出れないようにしてくださいね?」
「あ…ウォーカー、何故…俺たちを助けたんだ?」
そう問いかけてくる山田捜査長。そんなこと、決まっている。
「…もう犠牲者を出したくなかったから、ですかね?」
この村でこれ以上人を死なせたくない。そんなわたしのエゴだ。
「…こいつらのことは任せろ、絶対に法の裁きを受けさせる」
「頼みましたよ、捜査長殿」
そういって、わたしは山田捜査長たちに背を向けながら歩き始め、少しだけアイマスクの下の口元に苦笑を浮かべるのだった。
「…ミッちゃん………?」
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「ミッちゃん…なの?」
私がそうつぶやくと、ウォーカーの足が止まる。何度も追いかけたその背中は、記憶の中にある友達のものに似ていて…
「…シロン?」
「ミッちゃんなの?なんで、あの日生きて…」
「ミッちゃん?シロンちゃんどういうこと?」
あの日、ご神木に縛られて放置されたミッちゃん。今私の後ろにあるその残骸には、焼けたロープだけが残されていて…
「……だれ?そのミッちゃんて?そんな呼び名に、心当たりないな」
「人違いじゃない!あなたは、私の…」
でも、立てこもりの日のウォーカーを見て沸き上がった、この不思議な感覚は、間違いなく喜びで…
「この村で一緒に育った、幼馴染でしょ!?」
「なんですって!?」
「え、本当かシロン!?とすると、村の生き残り⁉」
遠い記憶の中の彼女と、目の前の怪盗は、間違いなく同一人物で…
「……お、幼馴染?シロン捜査官は、試験管ベイビーだって、警察の資料にはそう書かれて…」
「違う!私はあなたと一緒に、この村にいた!この村で育ったんだ!!」
なおも否定の言葉を吐くその姿は、幼いころから変わってなくて…
「…!記憶が…いや、わたしはこの村の人間ではないわ。どっか知らないところで生まれた孤児よ」
「嘘よ!」
「あなたのいうミッちゃんなんて幼馴染、死んだんじゃないの!?」
そう語気を強めるが、手を握り締めて震えている癖は間違いなく…
「死んでない!あなたがそれを、一番知っているでしょう!」
そう、間違いなく彼女は、ミッちゃん…
「…私のこと、最初にあったときにシーちゃんて言ったわよね!?」
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『…え、シー、ちゃん?』
『なんだそのクソみたいな呼び方は!!捜査官様と呼べ!!』
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彼女の震えが止まった。図星をついたんだ。
「…やっぱり、ミッちゃんなんだね?」
そうだ、あの時から彼女は、私の正体がわかっていて…
「どうして言ってくれなかったの…あなたのこと、思い出せたかもしれないのに…」
そう嘆きながらも、彼女を【サイコキネシス】で捕まえようとするが…
「…山田さん、彼女のこと、頼みます」
そう言って彼女は姿を消した。捜査の中で、そして幼い記憶の中で何度も見た【姿くらまし】…今では進化して【隠蔽】になった能力だった。
「待って!」
「シ、シロン!」
「シロンちゃん!」
彼女の消えた場所まで走るが、すでにいない。
「ミッちゃん!待ってよ!置いていかないで!」
彼女の【隠蔽】は、すべてを欺き、痕跡をたどらせない。
「もう私には、貴方しか、貴方しか!!」
もう私も、ミッちゃんを追いかけられない。
「これから私は、どうすればいいの!ねぇ!答えてよ、ミッちゃん!」
また私は、一人ぼっちになってしまった。あの夢のように…
「ミッちゃん!!ミッちゃーーん!!!!!」
その日、わたしは穏やかだった過去の思い出と引き換えに、かつての幼馴染をなくした。
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「…シー、ちゃん」
山の麓でわたしは、竹藪の中に隠していたバイクを引きずり出していた。
時刻はそろそろ夕暮れ時。西で傾いた夕日に向かって、鳥が飛んでいく。その光景は、昔見たものと変わらなかった。
「…ごめんなさい、お父さん、お母さん、おばちゃん、みんな」
昔の呼び方に、思わず足を止めてしまったのがいけなかった。もう、わたしの正体はシーちゃんにはバレているだろう。
「…私はもう、シーちゃんとは、もう、いられない」
あの日から進んできた修羅の道。何人もの人間を犠牲にしても、わたしには何もないからと思って茨とは思わなかった道。
「…私に幸せなんて、なかったんだ」
その報いがこれというなら、そのすべてを受け入れよう。だから、どうか…
「…シーちゃん、元気でね…」
シーちゃんの幸せを願うことだけは、許してほしい。
「…あれ、雨かな」
気づけばつけていたアイマスクが濡れていた。それがあの日以来流していなかった自分の涙だと気づくことは、出来なかった…
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後書き
次回、最終回
の、予定
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