幼馴染が怪盗少女のため現場待機する話
前書き
なぜか続きができました
前書き終わり
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今宵、暗黒公社社長宅に置かれている幻のアクアマリンを頂きに参上します
怪盗ウォーカー
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「…これが今回の予告状だ」
そう山田警視正は言うと、捜査員たちを仰ぎ見た。
「鑑識に回したところ、前回と同じ材質の封蝋が使われていた…つまり、本物の予告状の可能性が高い。」
そうして全員が難しい顔をした。
怪盗ウォーカー。若い女性ということと、多種多様なサイキックであること以外の素性がつかめない犯罪者。しかし、ターゲットとなるのが何らかの非合法活動している有力者に限られるので、義賊として民衆からの評判も一定数ある。
そんなウォーカーが捜査機関に予告状を出すようになったのは、意外にも最近になってからだった。
「…どうします?暗黒公社というと、うちも下手に手を出せませんよ?」
「わかっている。警備を打診しても、おそらく突っぱねられるだろう」
山田は苦虫をかみつぶしたような顔でそう言った。
「なので、社長宅近くに捜査員を張り付かせる
そういって、部屋の隅でじっとしていた女性__シロン捜査官に話しを振る。
「何かあったら、シロン特別捜査官が先行。その後捜査員全員で取り囲む。…今度こそやつを確保するぞ!」
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その日の夜21時前。
「…異常なしか」
「はい」
社長宅から少しだけ離れたビルの非常階段で、監視していたシロンの報告を山田は聞いていた。
「…やつは高確率で隠蔽系の能力を持っている。君もそう思うか?」
「相対したときの感触から、78パーセントの確率で持っていると思われます」
「残りの12パーセントは?」
「私と同じ【テレポート】か、未知の能力か」
サイキックといっても多種多様だ。手を触れずにものを動かせたり、何もないところから水を出せるなどの単純なものから、【テレポート】や【未来予知】などの科学では再現できない特殊系もある。そしてそれらを使える種類の数が多いほど、優秀なサイキックと呼ばれるが…
「…奴は5つ持ち…だとすると君に匹敵するかもな、シロン捜査官」
「その可能性が高いです」
現在保有数の最高値は5つ。そしてそれは世界に5人、目の前の例外的なシロンを含めると6人しか確認されていないレア中のレア。もしウォーカーが5つ持ちとすると、それはかなりの難敵であることを示していた。
「私のような人形とおなじ、戦闘用人造サイキックの可能性もありますが」
そしてシロンは、後天的に外道な強化をされた形跡のあるサイキックの一人。狂った科学者の長年の研究の末、作られた最強のサイキック。
「そう自分を卑下するな、シロン」
だからこそ、山田はシロンのことを放っておけずにいた。自身のことをモノ扱いして、後天的なプログラミングでしか物事を知らない彼女に、彼は心を痛めていた。
「いえ、私はそういう風に作られていますので」
その気遣いにシロンは無表情で答える。こんな鉄面皮だからか、彼女を良く思っていない捜査官も少なからずいるのだが…
「…あ、いたいた!シーローンちゃ~ん」
「なんでしょう、村野警部補」
そう下から声をかけてやってきたのは、村野警部補。捜査班のムードメーカーで、シロンのことも年の離れた妹のように扱っている。
「いや~、差し入れ持ってきたの。食べて食べて」
「3時間12分前に栄養は取りました。不要です」
そう言って、村野を睨むような眼でシロンは答えるが…
「えー、今日こそ逮捕したいんでしょ?ウォーカーを」
「……はい」
「腹が減っては戦はできぬ。お腹がすいてシー…シロンちゃんが負けましたなんて、言い訳はダメだからね」
「…了解しました」
そういうとシロンは、村野の差し入れのアンパンの袋を開けて、黙々と食べ始める。
「…すまんな」
「お安い御用ですよ」
村野に限らず、捜査班でシロンのことを気にかけているものは多い。彼女の悲惨な過去を知れば、なおさらだが…
「ではわたしは持ち場に戻ります!警視も無理しないでくださいね!」
「わかった」
そうして離れていくときに、ちらっとシロンのことを見る村野の目は、慈愛に満ちていた。
「…理解不能です」
「シロン、こういう時はありがとうというものだぞ」
山田はそうシロンにアドバイスする。さすがに最低限の礼儀は身につけさせたいのだ。
「…善処します」
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「…来ないな」
あれからさらに時間は経ち。山田警視正もほかの捜査員のところに行き。3回猫が通り過ぎ。時々生暖かい風が吹き。飛行機が1時間で10個以上飛んでいくのを3セット見ても。
ウォーカーは現れない。
むしろ異常すら見せない家に、シロンは不気味さすら覚えていた。
「…どういうことだ…奴に限ってすっぽかすとは思えないが…」
「どういうことでしょうね~~?」
急に声が聞こえたのでシロンが後ろを見ると、そこには怪盗ウォーカーがいた。
「…き、きさま!!」
シロンはウォーカーに気づくと、【サイコキネシス】で彼女を拘束しようとするが、バリアによって弾かれてしまう。
「いや~、まさか防犯システム程度でわたしを止めようとは…、ホントにあの社長有能だったの?」
そう言いながら左脇のポケットから出したのは、大粒のアクアマリン__過去に盗難被害の出ていた幻のネックレスのパーツだった。
「…こんなもんで権力取った気になるなんて、お笑い種よ」
「きさま…!!すぐに」
「あー、今日は別にもういいかな?近くに病院あるし…」
「…何を言って」
そういって駈け出そうとしたところで、靴が地面から離れなくなっていることに気づいた。怪盗ウォーカーの能力__【凍結】が足元を地面に縫い付けていた。
「ほんじゃまぁ、さようならー」
「まてぇぇぇ!!!」
そう叫ぶシロンだったが、ウォーカーの姿は揺らぎ、消えていった。
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「…シロン!大丈夫か!?」
「ええ、何とか…」
あの後シロンはすぐに警視正たちを集め、起きた事を話した。さすがに今回は彼女の失態なので、全員の顔が暗くなる…
「…まて、そうなると奴はいつの間に侵入したんだ?」
「俺のところからは異常がありませんでしたぜぇ」
「私のところもです」
そういって全員の顔が青ざめていく。…連帯責任にしてシロンを責められないようにする大人の流儀だった。
「…おくれましたー!!」
そういって村野警部補も来る。
「…村野警部補、申し訳ありません。取り逃がしました」
「あぁ、でもシロンちゃん無事でよかったよぉ」
「…すいません、わざわざ差し入れまでしてくださったのに、何の役にも立てせんでした」
「え?」
そう言って村野の顔に疑問が浮かぶ。
「私は、廃棄処分になることを望み…」
「待って待って待って、その差し入れっていつのこと?」
「21時前にきてアンパンを渡していたじゃないか」
そういう山田の返答に、村野は驚愕する。
「…わたし、その時間署で食事をしてたんですが…」
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「あぁ~~~、もきゅもきゅ食べるシーちゃんかわいい~~♡!」
時刻は24時過ぎ。わたしは今日撮影していたシーちゃんの動画を見ていた。
「ふふ~ん、やっぱりかっこいい捜査官様も捨てがたいけど、シーちゃんもかわいい姿が似合ってるなぁ♡!」
社長宅に入ってアクアマリンを盗んだのが19時過ぎ。念のため周囲を確認すると、予想通り…いや計画通りシーちゃんがいたので、【隠ぺい】で姿を隠しながら近づいていった。
じっと監視をしていたシーちゃんの姿を撮影して約2時間後。捜査員の一人に変装してアンパンを渡したら、これがかわいかった。
「…やっぱり感情自体はあるんだよなぁ」
昔二人で分け合いっこしたりもしたアンパンのおいしさに一瞬目を輝かせたのを、幼馴染のわたしが見逃すはずがなかった。自身を揺るがす感情のうねりが、記憶を刺激しているかもしれない。
「…いやぁ、非常階段に持たれながら監視をしているシーちゃんのアップいいなぁ♡」
その後、帰ったふりをして【隠蔽】でシーちゃんの周りをうろうろし、本人に気づかれないようカメラを取っていたのはいい思い出だ。おかげで今までにないぐらい至近距離から無表情のシーちゃんがとれた。
さすがに一晩中立たせるのもかわいそうだから、適当なところで切り上げたが、それをばらした時の憤怒にかられたシーちゃんの表情と言ったら…
「…あはぁ♡」
幸い明日は休日。今日の整理は長くなる。そう予感しながらわたしは作業を続けるのだった。
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モキュモキュ
「……」
「あいつ、アンパンにハマったのか」
「かわいいわね、うちのシロンちゃんは」
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後書き
どうして続いた
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