サイキック怪盗少女が洗脳された幼馴染警察官と演舞する話

前書き


主人公が!!主人公が勝手に動く!!


前書き終わり

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 ガシャン!!


 20階建てのツインタワーの片側の窓から、わたしは外に出た。


 「見ろ!!ウォーカーだ!!」

 「ほ、本当に歩いている…」

 「追えー!追えー!」


 今日も今日はで【浮遊】を使い、わざとらしく歩いて隣のビルの屋上を目指すわたし。少しづつわたしの姿を投光器が照らし出す。

 下には珍しくマスコミもたむろしており、カメラのフラッシュをパシャパシャとしている。


 「こんな時間にご苦労なこって…」


 時刻は20時前。お茶の間のテレビにもギリギリ映ってるかもしれない時間。メディアはこぞってわたしのことを義賊だロマンだというが、これものためだ。


 「…ヘリ4機に武装警官隊、あとスナイパー6人かな?」


 殺気を感じたわたしは、そう当たりをつける。今回はかなり人を投入したみたいだ。


 「…ならば、これはどうかな?」


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『第一ヘリ!南東方向で待機中』

『B班、C班、ともにいつでも』

「よし、シロンはどうだ?」

『相手までの距離180メートル。捉えています』


 山田警視正は駐車場に作られた指揮所で、様子を見守っていた。

 ノーマークだったビルのオーナーからの要請。それに迅速に対応した結果、かつてない規模での警察官動員に成功した。


「このまま今度こそウォーカーを!!」


 そう意気込んではいるが、不安は残る。

 まず何度も煮え湯を飲まされている隠蔽能力。これまでの記録から、世界最高レベルの可能性もある隠蔽系能力として注目を浴びている。

 次にやはり空中歩行能力。【浮遊】の亜種か、それに何かアレンジを加えている可能性の高い能力。それは単純に、逃走経路が立体的であることを示していた。

 そして…

 

 「マスコミが邪魔になるか…?」


 どこかから漏れた情報に飛びつき、ビルの外に何十人もいるマスコミ。ウォーカー自身は一般人に被害を加えるタイプではないと思うが…


 「…下手に失敗したら士気に関わる」


 そんな風に考えながらも、ウォーカーを双眼鏡で見ていたが…


 「…なんだ?」


 すこしづつ怪盗ウォーカーの周りが白い霧に包まれていく。このまま逃げられてはまずいので…

 

 「いけシロン!」 

 『了解』


 そう言うとウォーカーの前にシロンが現れる。シロンは右手の特注投げ縄式手錠をウォーカーに投げるが、当然のように避けられる。だがシロンはそのままウォーカーに接近し、左手の特殊警棒でアイマスクをはごうとする。だがウォーカーが腰に下げていた短刀を抜き、警棒とつばぜり合いさせる。


 「怪盗ウォーカー!!!」

 「シロン捜査官んんん!!!」


 

 ここまで聞こえてくる大声で吠える二人。そのまま数回打ち合いをするが、ウォーカーはすべて軽くいなしていく。明らかに剣を使える動きだ。


 「…まだまだぁ!!」

 「はぁ!!」


 やがてシロンは距離をとって雷を発生させるが、ウォーカーの【バリア】で防がれる。そして雷は下のほうに…


 「…なにぃ!!?」


 すこしづつ出来てきた白い霞の空間に当たると、そのままその周りを帯電し始め、やがて消えていく。そして霞が徐々に晴れていくと…


 「…あれは」

 「雪…?」


 そこから現れたのは、直径5メートル近い雪の結晶模型。ゆっくり右回転しながら浮かぶその様は、おとぎ話のような幻想を現実に表出させていた。


 「…シロン!攻撃中止だ!」

 『…!?なぜですか』

 「あの結晶が落ちてみろ!下のマスコミに被害が出る!」


 いくら強力なサイキックでも、気絶させたりしている間は能力の操作はできない。仮にいまウォーカーを気絶させたら、大惨事になるだろう。


 「…やってくれるな!」


 おそらくこれはある種の脅し。このまま逃がさなければ大惨事の引き金になるぞという警察への挑発と、己の能力を披露する策。


 『動かないほうがいいよ、シロン捜査官。するわよ』


 シロン捜査官の通信機ごしに聞いた怪盗ウォーカーの声は、余裕に満ちていた。

 そのまま短刀を持った右手を掲げると、氷の結晶が浮かび上がっていく。それはやがて二人の間を通り、その頭上数メートルのところで止まる。


 『…フフフフ』


 いつの間にかいくつかの投光器は、結晶のほうを照らしていた。まるでトロフィーのように輝く結晶はいまだに頭上を支配し…


 突然、表面に亀裂が走る。

 その亀裂は徐々に数を増やし、やがて結晶は姿を保てなくなる。その残骸たちは下に落ちることなく、怪盗ウォーカーの周りを漂い始めた。


 「…なぁ!?」


 やがて結晶はなくなり、ウォーカーの周りの残骸のとがった部分がすべてシロンに向く。


 『躱してみてよ、捜査官様♡』


 そういって左手の手袋越しに指パッチンをすると、氷がシロンを襲い始めた!!


 「シロン!」

 『…舐めるな!!』


 その結晶をシロンは前方に【バリア】を張って止めるが、その間にウォーカーの姿が揺らぎ始める!


 『きさまぁぁぁぁ!!!!』

 『…いつかまた、どこかで…』


 そうして最後の氷がシロンに破壊されると同時、怪盗ウォーカーは消失するのだった。


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 「…山田捜査長!!意気込みのほどを!」

 「今回のビルのオーナーの息子が、裏金をやっていたというのは本当ですか!?」

 「怪盗ウォーカーの隠蔽能力について、何か一言!」


 山田は撤収しようとしたら、周りをうるさいマスコミに取り囲まれていた。

このまま署に戻るのが遅くなると思ったところで…


 「…おいこれ見ろ!ビルのオーナーの息子の裏帳簿がネットにアップされたぞ!」

 「ええっ!」

 「なんだと!そのスマホを貸してくれ!」

 

 記者の一人がそういうと、全員でスマホをのぞき込む。そこに書かれていたのは、株で得た儲けを税務署に報告せずどこかに流したということが記載された帳簿についてだった。


 「…急ぎ署に戻りたい!道を開けてくれないか!」

 「山田さん!これについて何か一言!」

 「ノーコメントだ!!」


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 『…オーナーは「今息子を呼び出しているところだ」と記者の取材に答えており、不正の事実が息子の独断である可能性も…』


 「なわけないじゃん。こいつもなんやかんやで黙認してるっつーの」


 マンションのリビングで、ふろ上がりのわたしはテレビニュースにそう突っ込んでいた。今回はまずオーナーの息子のほうに焦点を当て、やがてオーナーのほうも巻き込んで大事にするのがの考えたプランらしい。なんともめんどくさい段階を挟む。


 (まぁ、おおかた本部のほうにも株やってた人がいて、この会社の株を買い込んでたんだろうなぁ)


 そんな裏事情を推察しながら、わたしはミネラルウォーターを飲み干す。


 「…しかし、雪の結晶は演出過多だったかなぁ」


 としてはこれぐらいがちょうどいいという塩梅をつかめないが、今回の件でわたしの表での危険度も跳ね上がるだろう。だがそれ以上に…


 「…やっぱり不審がってるシーちゃんもかわいいなぁ♡」


 テレビではわたしとシーちゃんのバトルの様子をやっている。私自身も隠しカメラをネクタイなどにつけているが、これはこれで面白い映像だ。


 「シーちゃんたら、忠犬なんだから。もう、妬いちゃうぞ♡」


 シロン捜査官が、こういう時下から除かれてもいいようにスカートではなくパンツスタイルであったことを私は評価しよう。グッジョブ警察庁!


 「…やっぱりいいなぁ~、この映像♡」


 それは私とシーちゃんが結晶の下で対峙している映像だった。この絵を狙って【凍結】を頑張った甲斐があるというものだ。


 「…シーちゃん…」


 近づこうと思えば、すぐに出来るのにそれをしない、いや出来ない光景が、今のわたしとシーちゃんの関係みたいで儚かった。


 「…うん、今日も満足でした♡」


 そしてわたしはテレビを消して、明日のミーティングの準備を始めるのだった。


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 スゥ、スゥ

 「…寝ちゃったか」

 「マスコミに当たらないよう、細心の注意を払って迎撃したみたいですから」

 「…この寝顔を保てればいいのに」


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後書き


ファンタジー要素ようやく出せた……ファンタジーか?

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