怪盗少女と幼馴染の過去と未来の話
「…吉田、やはりか」
「三人どころか四人も送り先不明の送金をしていたとは…」
「最終的な送り先口座を作ったのはあの朝山銀行頭取…」
「偶然として片づけるには出来過ぎています」
警察庁管轄のとある部屋で、4人の人物が相談していた。
一人は怪盗ウォーカー捜査本部の山田警視正。二人目は捜査本部副長であり本局の連絡役でもある吉田警視。あとの二人はそれぞれサイバー科と鑑識の責任者だった。
「…やはりあの件に似ているな」
「室山事件…ですか」
朝山の名前から、事件が去年起こった人身売買組織摘発事件に近いことに気づく二人。
サイキックの研究の名の下、多数の人間を誘拐し非道な実験をしていたある組織。その活動資金には、財界の有力者が何人も名を連ねており、公表されたときは一大スキャンダルにまで発展した。
何を隠そう、山田警視正は当時の捜査本部長であり、他三人も大なり小なり関わってはいた案件だった。
だがなぜ件の組織が最終的に潰されるまでに至ったのか、それをやったのが誰なのかわかってはいなかった。組織の最後の秘密研究所の爆発以来、そのグループの痕跡がなくなったのも拍車をかけていたが。
警察の汚名返上のため総力をあげて事後捜査した結果、唯一の成功例らしいシロンを救出したのもその事件の余波である。
「そうなると、ウォーカーの正体は裏で組織壊滅直前まで敵対していたという謎のグループの人間でしょうか?」
「おそらく」
「…あるいはシロンと同じ被害者か」
沈黙が部屋に降りる。警察の無能をあざ笑っていたと思ったら、無能だから自分で動いていたという結果かもしれないことに全員が悔しがっていた。
「…いずれにせよ、ウォーカーを逮捕しなければすべて終わりとは呼べん」
「このことをシロン捜査官には?」
「…まだ言わないほうがいいだろう。確証が出たら別だが」
そういって、継続指示を出す山田警視正。そこまで含めてウォーカーの手のひらでは?という疑念は持っているが、ウォーカー自身の正体に繋がる手掛かりになるかもしれないと考え、今日も捜査は進んでいく…
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「シロンちゃん、今度はこれなんてどう?」
「…バストサイズが大きすぎです」
一方シロンは、村野警部補以下3名とともに私服を選びに行っていた。
シロンは私服を支給品の3着しか持ってなかった。『私服張り込みを考えると、バリエーションが少ないのは問題』。そう村野は山田に相談したところ、これも公務のためだとシロンに命令して買いに行かせることに成功した。
(…地はいいのよねぇ)
(そろそろ20の娘なのに、こうも常識がないのは…)
(私たちでつけてあげないとねぇ)
そんな会話を村野たちがアイコンタクトでしているとはつゆ知らず、シロンはパーカーを見ていた。
(…この黒、ウォーカーの服に似ている…)
だがやはり頭の中で考えるのは、怪盗ウォーカーのこと。一刻も早く現行犯で逮捕することが、シロンに課せられた使命…
(…だがあのウォーカーが、おとなしく刑務所に入るだろうか?)
サイキックの刑罰は一般のものとはかけ離れている。場合によっては即銃殺と定められている逮捕後に、素直に従うだろうか…
(…所詮はルールに従わない泥棒のこと、従わない確率が高いだろう)
あるいはそれを知っているから、顔を隠して活動いているのだろう。だがそんな道理、世間とそれに従うシロンの中では許されるはずもなった。
(やつを逮捕する。それが私に与えられた使命だから)
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「…へくちゅっ!」
わたしは家でクシャミをした。誰かがわたしを噂しているのだろうか?
「…まぁ、怪盗なんてやれば誰かの噂になるかねぇ」
今日は休息日。学生としても怪盗としても休みを取り、家の掃除をしていた。
(…そろそろ残党も尻尾を出すか)
わたしの活動で組織を存続させたかった有力者たちも減ってきた。あとはヤツラの残党をせん滅して……
(……お別れ、か)
再会した2日後には決めていたことだ。シーちゃんはもう、表舞台で有名になりすぎている。グループも下手に手を出さないほうが賢明と判断しており、非常手段を使わないと言っている。
(…代々つづいた巫女の村も、わたしたちで最後。そして村は永遠に消えてなくなった)
いくら幼馴染とはいえ、シーちゃんは警察。わたしは世間一般では元テロリストの怪盗。水と油のように釣り合いの取れない二人。住む世界が同じでは、いけない二人。だからこそ…
(…それまでは、一緒に遊ぼう?捜査官殿)
わたしはあなたの隣には、ずっといられない。
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コツッコツッコツッ
「…ふむ、おとなっぽさがいいわね」
「これで捜査官とは思われないでしょ」
「でもやはり、ここはゴスロリを着させてみるのも…」
「おい、過激派いるぞここに」
(…いつまで続くんだろう、このファッションショー)
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後書き
…そろそろ、かねぇ
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