サイキック少女がイマジナリー幼馴染の反応に板挟みになる話

前書き


けっこう難航しました。


前書き終わり

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「捜査長!大変です!」

「どうした!」


 怪盗ウォーカー捜査本部にて、新たな予告の説明を山田は捜査員たちにしていたところ、若手の菅野巡査部長が駆け込んでいた。


 「テレビを!テレビをつけてください!」


 そういうと一緒に駆け込んできた村野警部補がリモコンを操作し、テレビがつく。そこに映っていたのは…


 『…拝島社長は以前から贈収賄の疑いで特捜部に捜査されていましたが、今回それとは関係なく飲酒運転で逮捕されるとは。解説の宮田さん、どうご覧になられますか』

 『飲酒運転自体、許されることではありません。ましてや社用車でなんて…』


 「…なんてことだ」


 そう、山田はつぶやく。

 ニュースでやっていたのはとある会社の社長が飲酒運転で緊急逮捕されたこと。そしてその社長が、つい30分前に届いた予告状のターゲットだった…


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 (…かぶった~!!)


 わたしはとあるスーパーマーケットでそのニュースを知った。


 (いや、飲酒運転て、何やってるのこのドアホは!!)


 この社長もあの組織に資金提供していたスポンサーの一人。いつもの流れで今晩潜入しようと思ったが…


 (…これ、本部の別動隊も動けなくなるんじゃ…)


 おそらく会社の他の主な施設にも間違いなくマスコミが付くだろう。いくら本部の人員がやり手でも、そこまでのリスクを負って情報を引っこ抜くのは躊躇するだろう。


 (…中止かな?中止にするべき、いや中止以外ないでしょ!)


 そう考えるとわたしも無理に動かなくていい。あくまで囮なのだから、本部が動かないなら…


(…あ……予告状出したばかりだったぁぁぁ!!)


 多分もうシーちゃんたちは既に準備を始めているところだろう。真面目な組織だから、恐らく社長逮捕も無関係に警備をするだろう。仮にわたしがすっぽかしたら…


 『…へぇ、予告状で嘘かいてくるんだ。そして私達を無意味に振り回すと。そんなんだからお前は犯罪者になるんだよ、この外道が』


 …それはそれでそそるものがあるけど、シーちゃんに無意味な真夜中の警備をさせるなんて、数少ないわたしの良心が痛む!

 それに…


 『ミヨ、文字を書くということは、口で言うことことより重いことだ』

 『そうなのですか?』

 『そうだ、この世のものに痕跡を刻み付けること、それに責任を伴わなければ人はここまで文明を築き上げられなかったろう。だからミヨ、お前は書いた文字に嘘をつくな』

 『はい、師匠!!』

 『というわけで、この昔もらったお使い券を使わせてもらうぞ、ミヨ』

 『はい?』


 師匠のほうに怒られる可能性がある!

 でももし、行ったら行ったで…


 『主人が逮捕されたのに、死体蹴りに来たんだ。…最っ低』


 ………キュン♡

 

 (いや、本当にどうする!結局シーちゃんに軽蔑される未来しか見えない!)


 そう考えていると、持ってるスマホにメールが届いた。差出人は非通知。内容は…


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 こちらは人員を別方面に出動させます。

 そちらもできれば動いていただくとありがたいです。

 ただあまり外道働きにならないようにお願いします。

                             BY作戦責任者より

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 「いやどうしろと!?」


 コミュニティからの無茶ぶりに思わず声を上げていた。いや、百歩譲って作戦自体の継続は理解できる。でも盗みなんてやってるのに外道働きするなんてどういうこと!!


 (どうするの!?仮に盗んだら義賊イメージが傷つくだろうし、警察も本腰を上げるだろう。最悪シーちゃん以外に逮捕されるかもしれない…)


 義賊と呼ばれるのはイメージ戦略の一環だ。そうすることで警察が全力を出すのを躊躇させる世論に誘導するのが狙いだからだ。…まぁ半分わたしのエゴだったりするが。

 そして悩んだ末、わたしは決意した。 


 (…そうか、


 …わたしも誠意をみせようと。


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 「…来るんでしょうか?」

 「来なければよし!来たら捕まえる!それが警備ってものだ」


 夜、とある会社の本社ビルの一階ロビーで、山田は聞いてきた菅野にそう返答する。

 結局捜査本部でも割れた警備実施は、山田は警察の信頼を低下させないためやるべきだと主張して実行に移された。

 今までの傾向から侵入してからではないと姿を現さないので、多くの捜査員をビル内に配置し外の警備は最小限に。ビルの付近をマスコミが通る現状、山田たちは気が重かったがそこは職業意識で我慢していた。


 「…ウォーカーはその気になれば完全犯罪ができるレベルのサイキック。だがそうしないのは自己顕示欲だけではないと思うんだ」

 「そうですか?」

 「いくらでも民間人を犠牲にできる策があったろうに、これまでそんなことはやっていない。傷つけたのは警備の人間と警察だけだ」

 「…まぁ、そうですが」

 「おそらく、彼女には何らかの矜持がある。予告状を出すのもその一端だ」

 「そして予告状を取り消さない現状、来る可能性が高いと?」

 「…恐らくな」


 だんだん山田も自信を無くしてきたところ…


 『…捜査長!!ウォーカーが…現れたのですが』

 「…どこだ!?…いやその声は城田?」


 無線で連絡してきたのが周辺の道路に配置した城田巡査なので困惑する山田。


 『…

 「は?」

 『ビルの正面玄関前に出現!!』

 「…なんだと!!?」


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 「ウォーカーだ!」

 「やっぱり来たか!?」

 「もう犯行は終わってるってこと?」


 マスコミが騒ぎ出すが、わたしは意に介さず歩き出す。


 「と、とまれぇ!不法侵入とみなすぞ!」

 

 警備員のおじさんが正面を通せんぼしようとする…が、で横を通って回避する。


 「…なぁ!?」


 驚く声を上げるおじさん。そのままわたしはロビーに入ると…


 「怪盗ウォーカー!」


 拳銃を抜いた警察官二人組と出会った。たしか片方は捜査班トップの山田警視正だったはず…


 「ウォーカー!今日こそ逃がさない!」


 後ろからシロン捜査官の声がする。ごめんよシーちゃん、今日は別件で忙しいんだ。


 「…山田捜査長、話があるわ」


 そうわたしが言うと、警戒しながら聞いてきた。


 「…なんだ?」

 「ここの社長が逮捕されたのは本当?」

 「…そうだ、今は取り調べ中だ。」

 「そう、なら罰は下ったわね」


  そして一言いう。


 「


 「「…はい?」」


 ……そんな顔困惑しないで~!!


 「罰の下ったものに、盗みに入るほど落ちこぼれてはいないわ」

 「それは、君の矜持か?」

 「勘違いしないでね、もしも彼が無罪だとあなた達が判断するなら…」


 そういって、腰の刀に手を置く。


 「改めて仕事をするわ」

 「………ええっと、それで?」

 「お騒がせしてわるかったわね。今日は帰るわ」


 そう言って【隠蔽】を使い、ロビーの横に行くと…


 「待て!!」

 

 そう言って山田警視正の隣の巡査が外に向かう。多分ビル内から逃げたと判断したのだろう。シロン捜査官は無表情で山田警視正に指示を仰いでいた。

 

 その後、何かに迷いながら警視正は通信機を出し、撤収を告げるのだった。


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 「あの女!何しに来たんでしょう!?」

 「本当理解できない!」


 署に戻りながら山田とシロン以外全員が怒っていた。現れたと思えば特に何もすることなく帰っていったと聞かされ、困惑が広がったのもある。


 (…まぁ、ウォーカーが『罪をわざわざ犯すほどの価値がない』と判断したことのほうが気になるが…)


 これまでの被害者の法則から、『なにかある人物に捜査が行くようにしているのか?』という疑惑もあったので、それがある程度証明された形になった。


 (しかし、わざわざ予告通りに来て正面から来るとは、ウォーカーらしくない…)


 「捜査長!大変です!パトカーのトランクにウォーカー名義のダンボール箱が!」

 「なに?」


 それを聞いた山田は、先ほどまで出動していたパトカーのトランクを見に行く。2箱の段ボールに張り付いていたのは、確かに怪盗ウォーカーの紋章が付いた張り紙。そこに書かれていたのは…


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本日はお騒がせしてすみませんでした。

お詫びとしてハンドタオルのセットを用意しました。

災害時用の備蓄などでお使いください。


                              怪盗ウォーカー

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 「…ハハハハハッ」


 思わず笑ってしまう山田。


 (彼女は…本当は


 意図を理解してほかの職員もつられて笑う中で、シロンだけは意味が分からず無表情でいた。


 「…理解不能です」


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 「…はぁ、小遣いが」

 

 急いで調達したタオル分の出費を思い出し、わたしは落ち込んでいた。

 

 「…これで許してもらえるかなぁ」


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 ………

 「これ何箱あるんだよ!?」

 「12箱…いつの間に入れていたんだ?」

 「…ある種の嫌がらせではないでしょうか?私はそう判断します」

 「いいじゃないかタダだし」


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後書き

あまり長編にはしないつもり。

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