サイキック少女が幼馴染の活躍を激写しようにもそれどころではない話


 『君達は完全に包囲されている!!速やかに武装解除し、投稿せよ!」


 夕方過ぎのとある街角で、山田警視正は声を張り上げていた。場所は繁華街近くのとあるレストランの前。本来だったら客でにぎわっているであろう店の前には、機動隊と怪盗ウォーカー捜査班の面々がいた。


 『人質を取っても無意味だ!速やかに開放するように!』


 拡声器で張り上げる声も、怒りが含まれていた。普段部下には温厚な捜査長だが、非道な人物の前では人が変わったように暴言を吐く姿は、知っている一部面子以外を恐れさせていた。


 『ご近所の平和のためにも、どうあっても貴様を捕まえる!』


 すでに周りの住人には避難してもらっており、周辺に交通規制も敷いた。最悪の事態に備えシロンも呼んだこの布陣を突破するのは難しいだろ。


 『だからさっさと出てくるんだ!!!』


 それが、サイキックではない一般人ならなおさら。


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 (…これわたしのせい?わたしのせいだよね?)


 わたしは最近買ったばかりのバイクで道路を走りながら混乱していた。怪盗ウォーカーとしてあの店のオーナーに予告状を出してからしばらく。警察が店長に会いに行ったら突如従業員数名とともに立てこもりを始め、一般客を人質に交渉を始めた。


 (…まぁ、末端とはいえヤツラの残党だからねぇ)


 この店は表向き普通のレストランだが、その背後にいたあの組織の事実上の支部として運用されてきたこと。それがグループの調査で分かったのがつい先日。従業員の身元調査をやっていなかったが、ここまでの反応からすると元構成員だろう。


 (…となると、多分店長たちの狙いは時間稼ぎをすること…その間に資料の焼却をする気かな?)


 そうなると少々不味い。ここまで生き延びてきた秘密基地だ。恐らく今も残っている残党たちとの連絡手段なども持っているだろう。それらを消したうえで警察に捕まるのが狙い。


 (…まぁ、情報漏洩は死を持って償わせるのがヤツラの流儀だからなぁ)


 多分、素直に捕まるより資料をつぶして尻尾をつかませないことで、本人たちは組織からの制裁を回避するつもりだろう。…そのために人質を取って立てこもる感覚が理解できないが…

 わたしは近くの空き地にバイクを隠し、公衆トイレで【隠蔽】を使いながら着替え、【空中浮遊】を使いながらレストランを目指す。

 

 (どっちにしろ、まずは無関係な人質を逃がそう。仕事はそのあとだ)


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 「…クソォ!奴ら一体何のためにこんなことを!」


 現場近くの臨時指揮所となっているパトカーのそばで、怪盗ウォーカー捜査班の面々は集まっていた。作戦を練るため、機動隊に現場を任せ一時店から離れた形だ。


 「…これまでのターゲットの傾向から後ろ暗い活動があるのはわかっていましたが、まさかいきなり人質を取るとは…」

 「にしたって従業員5名も同調するってどういうことですか!?」

 「なにかあるのは間違いないが、肝心なピースがなぁ…」


 各々口にするのはこの件の異常さ。警察が訪れる寸前で人質を取るなど、正気の沙汰ではないからだ。


 「…なぜわざわざ立てこもりなんてしたんだ?後ろ暗いところがあるなら逃げりゃあいいのに…?」


 麻賀警部は長年の経験からの疑問を口にする。大抵の犯罪者は、悪事が発覚すれば逃げるものだ。それをしないということは…


 「…なにか店自体にやばい事実がある?」

 「持ち出せないサイズとか大量すぎるとかあるだろうが、恐らく奴らもヘタに持ち出せないものがある、てならわかるが…」


 そう意見を交換する捜査員たちの間に加われないシロン。【テレポート】がじつは扉などで仕切れた密閉空間の中には入れない特性が災いし、自身が役立てないことに悶々としていた。

 そうこうしているうちに山田のスマホが鳴る。画面を見ると相手は吉田副長だった。


 「あきらか、悪いが今…」

 『立てこもりだろう、それに関して気になる情報がある』


 そう前置きして吉田は話を続ける。


 『その店、ウォーカーの4番目と7番目のターゲットが店の名刺を持っていた』

 「…何だと⁉」


 その情報に驚く山田。


 「ということはまさか…」

 『あぁ、ウォーカーの狙っている組織、その重要な情報があるかもしれない』


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 「急げ!これで資料は全部か!?」

 「まだ屋根裏の金庫が…」

 「急がせろ!証文はすべて破棄だ!」


 店のバックヤードで枡山店長は、この間に証拠の隠滅を進めていた。彼の賛同する組織の取引の証文や交渉の舞台として利用されていたこの店。それらを処分することを二人の従業員に指示させていた。


 「ママーー!!」

 「リンちゃん!!」

 「動くな!」

 

 一方扉の向こうの客席は騒然としている。コックが突然包丁を持ってやってきたと思ったら、早めの夕食を食べていた家族連れの娘を抱きかかえ、包丁を突き付けたからだ。窓越しに様子を見る機動隊員の表情も険しい。


 「…クソッ!こんなことなら早く処分するべきだった」


 一年前、組織の事実上の壊滅を聞いた枡山は潜伏することを選んだ。組織の拠点がまだいくつかあったことと、スポンサーがまだだいぶ健在だったことで、働いた計算だった。


 (いずれ組織再興の折に、私の資料で新たにボスに成り上がった奴を脅し、陰で組織を支配する。そのための切り札として手放さなかったのが仇になるとは…)


 この男、上昇志向が強いわりに他力本願なところがあった。組織参加の理由も思想への共感ではなく金目当てだったところに、彼の矮小さがうかがえる。


 (…怪盗ウォーカー。恐らく組織にゲリラ戦を仕掛けていた反逆者アンタッチャブルの片割れだろうが、貴様のことは許さないからな…!)


 そうこうしているうちに、奇妙なことに気づいた。屋根裏に行かせた従業員が帰ってこないのだ。


 「…おい、あいつはどうした?まだ屋根裏か?」

 



 「そいつならおねんねしてるよ」


 そう聞いた枡山の首に衝撃が加わる。意識が途切れそうな衝撃に我慢し、後ろを振り向くと…


 「…怪盗ウォー…」


 憤怒の炎を目に灯し、正拳を枡山の鳩尾にあてる怪盗ウォーカーがそこにいた。


 「げふぅっ!!」


 吹っ飛ばされ床に倒れこんだ桝山は、今度こそ意識を失うのだった…


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 「…あとは、客席だけ」


 2階の窓から侵入し、2人目を倒したわたしは、そのままバックヤードから客席への扉を蹴り破る。外から事前把握していたが、変わらずコックが人質を抱きかかえていた。その持っている包丁へ【サイコキネシス】を集中させ、引き寄せる。


 「たぁっ!!」


 引き寄せられた包丁をそのまま右足で蹴り上げ、天井に突き刺す。左足で跳躍し、あっけにとられたコックの左肩に拳を入れる。たまらず子供を手放したところでアッパーカットでのけぞらせ、その間に子供を確保。


 「な…貴様は⁉」


 ようやく私に気づいて後ろを振り返るもう一人の従業員。だがすでに足元に【凍結】を発生させ、こちらに来るために動かした足を転ばせる。そしてそのナイフを持った手を【凍結】させれば、無力化できた。


 「…大丈夫?」


 隣にへたり込んでいた子供に視線をやると、急に泣き出してしまった。


 「あ、ほらほら、お姉さんは怪しい人じゃないよ~」


 わたしは子供をなでてあやそうとするが、その間に二人の大人がこちらに来ていた。


 「リン!!」

 「パパッ!ママッ!」


 子供をぎゅっと抱きしめる二人。怖かったのだろう、3人とも涙していた。


 『…グギャ!!』


 そうこうしていると、入り口の外で見張っていた授業員が倒れる音が聞こえた。そのままドアをあけ放ち、突入してくる機動隊員……。あ、一人滑った。


 「…みなさん!大丈夫ですか!?」


 そして後ろから来る山田さん。


 「…あとは任せたわ。長居は無用ね」


 そう言って離れようとしたわたしだったが…


 「あ、あの!」


 子供のお母さんらしき人がわたしに声をかけた。だがすでに【隠蔽】を使ってしまい、姿は見えないだろう。


 「ありがとう…あれ、いなくなった…」


 そういってキョトンとするお母さん。子供も気づいたのか、周りをきょろきょろとするのだった。


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 「…だからこれは自衛だ!自衛のためにやったんだ!」

 「それで民間人を巻き込むやつがあるか!」


 そう言いあいながら連行される枡山店主。裏口を見張っていた一人も含め、従業員もすべて逮捕された。立てこもりはとりあえず片付いた。


 「…しかし、奴は一体何を裏でやっていたんだか?」

 「ロクなことではないだろうな」

 

 ここまでやらかしてでも隠したかったこと。その闇の深さに麻賀警部も震え上がっていた。しかしそれ以上に…


 「…まさか、ウォーカーがあそこまで強いとは」


 店内で4人も制圧していたその実力に戦慄していた。


 「おそらく、サイキックを利用した戦闘技術…それも迷いなく相手に打ち込めるとは…」

 「普段セーブしているという村野さんの意見が、本当だったなんて…」


 ここまで荒事に強いのにそれを今まで使わなかった怪盗ウォーカーの実力に、捜査員は恐怖と今回の事実上の協力への感謝を感じていた。


 「…まぁ、これから調べていこう。今は人質の無事を喜ばないと」

 「…そうだな」


 そして彼らは捜査を続けるのだった。


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 「ありがとうございます!本当に皆さんのおかげで」

 「いえいえ、我々も後手に回ってしまいまして…」


 人質にされた娘の両親が、山田に頭を下げている。それに対して謙遜する山田。

 だがそれを見るシロンの目は、どこか遠くを見ていた。それは先ほど見た光景。泣き出した子供をあやそうとした、怪盗ウォーカーの行動…


 『あ、ほらほら、お姉さんは怪しい人じゃないよ~』


 それがシロンの中の何かを刺激していた。


 (…なんだったというんだ、この感覚は?)


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 「…つかれた」


 バイクで帰りながら、わたしは愚痴っていた。こんな日は、シーちゃんの記録フォルダーを…


 「…あ」


 そこでわたしは気づいた。気づいてしまった。


 「…シーちゃんの勇士を、目に焼き付けられなかったー!!」


 わたしは夕日に向かって叫ぶのだった。


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『うえええーん』

『**ちゃん、ごめんね!わたしが花畑迄連れて行こうとしたから!』

『ここどこー!』

『ほら、あっちに目印もあるよ、一緒に行こう』

『うええええーん』


「…誰?誰なんだ、おまえは…?」

_____________________________________

後書き

そろそろ、けりつけようかねぇ。

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