サイキック少女と幼馴染の悪夢の話
前書き
あと少しで、最終回
前書き終わり
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「これが、ヤツラの生きていたアジトです」
そういって連絡役が資料を渡す。先日わたしが警察署で撮影した資料に乗っていたアジトの分布地図。それをグループに渡し、裏付け調査で得られた結果から本物のアジトを突き止められた。
「…微妙にずれてるような」
「さすがにそのまんま記載はされていませんでした」
そういいながらも緊張が伝わってくる連絡役。今度こそやつらの息の根を止められるかもしれないのだ、わたしも左手が震えていた。
「ミヨ様にはできれば…」
「もちろん協力するよ、師匠の弟子として」
いくらグループでも、ヤツラの襲撃部隊には有効な手立てが限られてくるだろう。ここはわたしが出張らなければならないだろう。
「おお、申し訳ありません。ミヨ様、この借りは」
「それなんだけど、いくつか頼みがある」
そういって、わたしは交渉をする。
…とりあえず怪盗になることはもうないかもしれない。
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『**ちゃん、大丈夫?』
白い光の中で、その女の子はだれかに話しかけてくる。
『うん、特に問題はない』
そう見えない誰かは答えるが、その声はなぜか私に似ていた。
『ふふ、一個下なのに、**ちゃんは真面目なんだから』
そういう彼女は微笑みながら誰かをほめる。
『大変だろうけどわたしの分まで頑張ってね』
そういう彼女の足元から赤い炎が生まれる。炎はだんだん彼女を蝕んでいって…
『被検体、何をやっている?持ち場に戻れ』
気づくと辺りは真っ暗になっていた。
後ろからの声に私が振り向くと、そこには白い白衣を着た老人がいた。
『お前は貴重なサンプルなんだ、自由なんて求めるな』
そう彼は言ってその像を少しづつくらませていく。やがてすべてを闇が包み、私だけが取り残された。
ドンドンッドンドンッ
扉がたたかれる音が聞こえたら、蒼い光とともに機動隊がなだれ込んできた。やがて一人の男が私の前に来て…
『もう大丈夫だ…つらかったろう』
それは山田警視正だった。
『シロンちゃん…でいいのかな?今度からコンビを組む村野だよ』
そう遠慮がちに聞いてくる村野警部補も現れた。
『サイキックゥ?まだ子供じゃねえか!』
『麻賀さん、抑えて抑えて』
『もう彼女に頼るしかないんですよ』
他の捜査官たちも集まってくる。
『もう大丈夫だ、私たちがついているから』
そう山田警視正は言って、手を伸ばしてくる。私は義務として、手を伸ばそうとして…
『…へぇ、わたしたちのことはいいんだ』
あの少女の声が聞こえた。振り返ると、炎に包まれた家屋と、焼け焦げた少女が私の足をつかもうとし…
『なら、わたしが奪っていいよね?』
突如現れたウォーカーがその少女をわきに抱えてさらっていく。
『**ちゃん!*ッちゃん!!!』
少女の悲痛な叫びが木霊し…
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「やめろ!!」
そう叫んで私は飛び起きた。
「…幻聴…いや、今のは…」
私はベッドの上で混乱していた。
あの立てこもりの日以来、時々見るようになった睡眠時の夢。私が起動してからいままで見たことのなかったそれは、日に日に私を蝕んでいた。
「…おまえは、誰だ」
特にあの少女はいつもいつも出てくる。まるで何かを訴えかけるように…
「…やはり記録に残しておくか」
そうして私は夢で見た光景を忘れないうちに絵で記録しておく。最初は四苦八苦したが、似顔絵の達人だった菅野巡査部長に師事し、ある程度モノになってきた。
「…これは…私は、だれなんだろうな?」
その勘に従って、結局そのままその後眠ることなく絵を完成させてしまった。
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『先日から全国で相次いでいる連続放火事件。今度は北海道で…』
「…こっちのほうがやばくないですか?」
そう菅野巡査部長がいうが、捜査員は沈黙していた。
立てこもり事件から約3週間。その間、怪盗ウォーカーの犯行予告はなかった。いままで長くても9日後に次の犯行をしていたことを考えると、かなりの長さの潜伏期間だった。
「…新たな犯行予告がなくていい、といえばいいが…」
「こうも静かだと不気味なんですよねぇ」
捜査本部の士気も下がり始めていた。このまま怪盗ウォーカーを逮捕できず迷宮入りになる可能性も全員の頭の中でよぎり始めていた。
「…山田捜査長は?」
「今日は本局に行ってくるそうです」
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「これは間違いないのか?昌」
「あぁ、この地図通りだ。」
山田捜査長と吉田副長は会議室内でその地図を見ていた。
『押収した地図に書かれたポイントと、火事の場所が一致している』
その一報で本局に来た山田は、渋い顔をしていた。
「…まさか、この不審火の裏にいるのは…」
「アンタッチャブル、ですかね?」
「…確証はないがな」
アンタッチャブル。某組織の施設を壊滅させたグループの戦闘班らしき存在。そのうちの一人がサイキックの可能性が高いと言われていたが…
「…やはり、ウォーカーが昨日の一件以降現れないのは…」
「もう回りくどい真似をする必要がなくなった、ということか」
二人は押し黙る。アンタッチャブルと怪盗ウォーカーに共通する能力があることは捜査本部でも一部の人間以外は知られていなかった。最悪未登録のサイキックを警察は野放しにしているかもしれないという警察上層部の疑念による箝口令だった。
そのウォーカーがもはや回りくどい義賊活動をやめ、本気でその力を振るい始めたかもしれないことに、二人は戦慄していた。
「…この地図を見るとまだ襲われていない地点もある。ここを先回りすれば…」
「破壊活動を抑止できるかもな」
そしてわずかな希望を頼りに話を進める。このままではただでさえ下がり気味だった警察の威信が失墜する可能性まで見えるほど、本庁は緊迫していた__
「吉田警視!」
「どうした大川!」
そんななか駆け込んできたのは大川鑑識だった。
「人身売買組織の関係者だという男が自首してきました!」
「なんだと!」
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『そうだよ、俺たちは最初はただ選別してただけなんだよ』
『選別…だと?』
『未来の国防を握るサイキック兵、だったか?その資質のある人間を調査するために出来るだけ人を集めろと…』
『それで孤児たちをさらったと?』
『金は払ったらしいぜ。室山先生には多くの協力企業がいたし…』
『そして違法な人体実験の被験者にすることがいいことだと!』
『し、知らなかったんだ。素質のある子どもを教育する機関も用意してたし、弾かれたのは別に職業訓練校にいかせたものかと…』
『きさまぁ…!』
会議室のパソコンで再生される取り調べ映像に、全員が絶句していた。今まで捜査線上にも上がらなかった某興信所の男が、人身売買に加担していたといって自首してきたのが昨日。その取り調べの記録を重要だからと、山田は怪盗ウォーカー捜査本部の全員に見せていた。
『…それで、室山議員が逮捕されてから組織からの接触はなかったと?』
『あぁ、やべえこと裏でしてたのはニュースで知った。だから俺は悪く…』
『なぜ今まで黙っていた?このタイミングで自首した理由は?』
『…悪魔だよ!あの組織を潰した人外どもが!』
男の取り調べは支離滅裂なこともあって難航したが、その中で明らかになったのはあの枡山店長からの依頼で資料を貸金庫に隠したことと、最近の放火と怪盗ウォーカーのターゲットがすべて組織関係者だったことだった。
「…まさか、ウォーカーは敵対グループの…」
「関係者なのはもう確定的だろう」
男は最近の放火で組織残党のあぶり出しをしていることに気づき、保身のためいち早く自首したらしい。あまりの理由に画面の向こうの吉田がブチ切れそうなところで映像は終了した。
「そしてこれが、奴の言っていた資料だ…」
そして山田は貸金庫に隠されていた組織の資料を見せる。
「…これって?」
「どういうこと…?」
そこに書かれていたのはある集落を山火事の名目で後始末しろという組織の指示書だった。
「なぜこんな指示を…」
「それでこの集落跡地を調べたい、村野警部補とシロンも念のため来てくれ」
「了解しました」
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『とりあえず明朝、署で合流後××県迄高速を使う。そのあとは…』
わたしは組織の隠しアジトの殲滅中、施設内の大型通信装置から流れるその声を聴いていた。
グループの処理班に後を任せ、隠れた人間がいないか探していたところで入った通信室。その中にあった大型通信装置は、あちこちの監視カメラをハッキングする高性能なものだった。その一つを確認したところ、聞き覚えのある声が流れてきた。
(この声は…山田捜査長?)
なぜ組織がわたし対策の警察の捜査本部を盗聴しているのか?かなり弱体化した組織が桝山を今更殺すとは思えない。わたしも3週間近くウォーカーとして活躍していない。なのに現在進行形でリソースを割いて盗聴していたということは…。
(…シーちゃんを、取り返そうとしてる!?)
わたしはそう考えると、急いで通信室を出る。処理班に後を任せ、施設を出た。シーちゃんの居場所はおそらく警察署。だが場所が僻地のため、元の街に戻るまでに明日の朝を迎えてしまうかもしれない…
(…シーちゃん!無事でいて!)
わたしは逸る気持ちで近くに置いたバイクまで戻り、エンジンをかけるのだった。
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後書き
難産でした。
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