第3話
4限の講義が終わり、荷物をまとめる。サークルなどには入っていないから。あとは家に帰るだけだ。
エレベーターで一階まで降り、外に出る。この4限終わりが一番人通りの激しい時間帯となっており、案の定ごった返しだ。
すれ違う女性は例外なく俺を見て不快に顔を歪めたり、気味が悪いといった感じで隣の友達とヒソヒソ何かを喋るが、俺は関係なく歩く。そよ風だ。
垢ぬけた女子大生たちとすれ違うたびに、俺は鍛え抜かれた八方目で〈パイ視〉を発動させていく。本日彼女らの胸を揉む人物の顔が次々に浮かび上がる。
俺はすれ違うおっぱいたちを目で追うあまり、複数人同時に〈パイ視〉を発動させる
通り過ぎていく乳房たちを目で追い、一人品評会の始まりだ。ほう、そこのDの83の君の彼氏は結構やんちゃそうだねえ。お、そっちのBの65は女の子同士でお楽しみかい? あらら、Fの88のそこの君、それは犯罪じゃないかな? おいおい、Aの71とDの85の君たちは同じ顔が浮かんでるじゃないか。
〈パイ蜻蜓〉により、俺の視界に映る全てのおっぱいの揉み手の顔を把握していく。手品師にでもなった気分だ。
最初はこれも結構楽しくて、大学のカフェとかで永遠に女子大生の胸を眺めて観察していた。その結果、短い期間で悪名が広まり、俺は女子たちの間で「気持ち悪い目で胸を見てくるキモい奴」として認知されたのだった。だから俺を見る女たちは皆俺を見て眉を歪ませるのだ。
だがこの遊びも一ヶ月もしたら自然とやめてしまった。女たちに後ろ指をさされるのに耐えられなくなったのではない。あんな清楚で有名なあの子が裏では
ていうか、みんなそんなに胸を揉ませているのに、なんで誰も俺には揉ませてくれないんだ。俺なんか、一度も他人のおっぱいを揉んだことないのに。経験ないのに。なあ、俺たちは同じキャンパスに通う学友――仲間じゃないのか? その幸せな輪の中に俺の居場所はないのか?
まあいいけどね。お前らみたいな薄情なヤツらなんて知らない。俺はこの〈パイ視〉で一攫千金を得るのだ。その時になって俺に泣きついても知らないからな。でもおっぱいを差し出されたら許しちゃう。それが仲間ってやつじゃないか。
だが今日も〈パイ視〉で稼ぐ方法を思いつかず、一日を無為に過ごしてしまった。まあ人生は長い。思いもよらないタイミングで突然良い案が思いつくということもあるし、気長に待とう。そう言い聞かせながら駅に向かって歩いていると、ちょうど歩行者信号が赤に変わった。
この信号、結構長いんだよな。運が悪いなと思いながら、ぼうっ信号が変わるのを待っていると、横断歩道を挟んですぐの通りにあるコンビニ前に目が行った。
そこには美女が立っていた。それも、群を抜いた美女だ。
化粧っ気が薄く、清流のように透き通った大きな瞳は、美女というより美少女という印象を与えてくる。肩くらいまで伸びている艶のある黒髪は、彼女が少し動くと美しい舞いのように柔らかくなびいている。スカートやブラウスから覗かせる白い肌は妖艶な神秘さを秘めているように感じさせた。
そして何より重要なこと――女性的な部分、ありていに言えばおっぱいについてだが、少し抑え気味だが膨らみはしっかりと視認できる。逆にその小ささが彼女のお
うーん、君、合格。最高。好きです。
思わず心の中で告白までしてしまうほどの可憐さだ。彼女の前を通る人々も、男女問わず誰もがその美麗さに一度は振り向いてしまっている。夕日も彼女を贔屓してスポットライトを当てているかのようで、雑踏の中、彼女だけがオレンジ色の光で煌めいて見えた。
だがしかし、当の彼女はどこか浮かない表情をしている。誰かを待っているのか、忙しなく周囲をキョロキョロと見渡し、ため息と共にどよんとした空気が漂よわせている。それすらも儚なげに見えて美しく映ってしまうのだが。
どうしたん? 話聞こか? 俺なら君にそんな悲しそうな顔をさせないだけどなー。まあ、とりあえず確認させてもらうねえ。君のその控えめでたわわな
彼女の背後に、俺が浮かび上がった。
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