第2話

 ある日の通学中のこと。満員電車に揺られて一限の講義に向かっていたとき、俺の目の前の女性に付いていたそれ――そのまま夜空に浮かんでいてもおかしくないんじゃないかと思えるほどの美しい満月のような、それはそれは形の良いおっぱいがあったとさ。

 だがあの胸もきっと、俺の知らない男に揉みしだかれるのだろう。そんな想像をしてちょっと興奮してきながら、俺はじいっとそれを眺めていた。


 すると、なんと、その女性の頭の上に優しく微笑む男性の顔が浮かび上がるではないか。

 何だこれはと別の女性の胸を見たら、さっき浮かび上がったのとは別の男性の顔が。その隣にいる女性の胸を見たら、こちらは何も浮かび上がらなかった。さらに違う女性の胸を見たら、こっちはなんと女性の顔が浮かび上がった。

 それぞれの女性の頭上に、ここにはいない人物の首から上が浮かんでいる。なんだこのギャグホラーのような絵面は。困惑の極致だ。

 しかも浮かび上がる顔は例外なく、なぜか全員幸せそうな笑みを浮かべている。そして笑顔の生首たちは俺にしか見えていないようで、奇妙極まりない。


 それから俺はこのこの謎を解き明かそうと行動に出た。そして、三ヵ月ほど女性を散々ストーキングして、ついに分かった。自分は女性のおっぱいを見たらその胸を揉む相手が分かる能力を持っているのだと。

 俺がストーキングしたしたサンプルの中には、若い女性がパパ活で浮かび上がった人物と性行為をする例もあった。しかし、ただおっパブで働いていたりパイタッチ程度で終わるサンプルもあり、そういったいくつもの判例を鑑みて、おっぱいを揉む相手だと結論付けたのだ。ちなみに俺は『パパ活』のことをお父さんが育児や家事を手伝うという意味だと思っていた。もっとちなむと、『家系ラーメン屋』のことを、アットホームな雰囲気で店員が馴れ馴れしく接してくるラーメン屋のことだと思っていた。絶対に行かないと誓っていたが、最近本当の意味を知って誤解が解けた。でも行かない。ラーメン屋って時点でうざい店員がいそうだから。


 話が逸れてしまった。閑話休題。

 この能力を自覚し、俺は次の行動を考えた。この能力で金を生めないか、つまり、稼げないかを、だ。


 だが、思いつくのは胸を揉む相手を言い当てる占い師とか、女性の浮気や不倫を専門とした探偵ばかりで、どれもぱっとしない。占い師は何たらハラスメントで炎上必至だし、探偵の方は我慢強くないと務まらない。そして何より、どちらも下積みの期間がありそうだから嫌だ。『粉骨砕身』や『臥薪嘗胆』や『雨垂れ石を穿つ』なんていう言葉が世の中にはびこっているが、そんな綺麗な言葉に俺は騙されない。確かに苦しいながらもコツコツやれば大金を得られるかもしれない。でも俺は結果が速攻でほしいタイプなのだ。苦しい思いなどまっぴら。金は楽に稼ぐに限る。気持ちのいい青空の下だけを俺は歩いていたい。


 占い師も探偵も駄目。もっと簡単に稼げてチヤホヤさる方法はないのか。俺はそれをずっと考えている。

 だが結局この〈パイ視〉の真価を発揮せず、依然としてくすぶったままだ。能ある爪は何とやらというが、この能力にそもそも真価があるのかも定かではない。


 自分の能力の活かし方が分かりません。そんな初々しい就活生みたいな悩みを抱えているが、そんな事を大学の就職支援センターに相談できるわけもない。俺は一人頭を悩ませていた。

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