第8話 異世界の朝

 異星に上陸早々、二人の女エルフに襲われて、ヤリ返したタック。

 姉の許可なしに女の子とアレしてしまったことに焦るも、落ち込んでいる場合ではない。

 愛すべき姉たちとの日々で精神的にも鍛えられ、例え陵辱されようともタックはすぐに気持ちを切り替えて顔を上げる。

 天幕を出ると空から降り注ぐ朝日に清々しい気分にさせられる。


「朝だ……この世界でもこういう自然環境はは変わらないんだな。文明もそれほど発達してないから空気も新鮮。お姉ちゃんたちもビックリするかな? 俺が今、こんな所に居るなんて知ったら」


 発達しすぎた文明や、やがて世界も星をも破壊する。

 そんな世界をタックはこれまでいくらでも見てきた。

 それだけに、この澄んだ空気も晴々とした空も、タックにとっては気持ちよくさせるものであった。


「あっ、おはよ~、かわいこくん」

「えっ? あ、おはようございます」


 天幕の前で伸びをしていたタックに、一人のエルフが声をかけてきた。それは、昨晩、酔っ払ってオルガスに拳骨されたエルフの女騎士。

 若干体や髪が湿っている様子から、朝早くから起きて体を洗っていたと思われる。

 昨日の鎧姿と違って、薄着で艶かしい肌も露出しており、それが少し恥ずかしくてタックは顔を背けた。


「そういえば、自己紹介がまだだったね。私は、サーオ。サーオ・シマイ。混じりっけなしのエルフだよ。よろしくね」

「あっ、は、はい。よろしく御願いします」


 混じりっけなし。そういわれても良く分からないが、確かにサーオは昨日のバターとプッシーとは少し違う。

 オルガス同様に耳に体毛はなく、尻尾も無い。言ってみれば、ただの耳が尖った人間というのが、タックが感じた第一印象であった。


「で、君の事を姫様から少し聞いたんだけどさ、君……奴隷だったんだってね」

「え? あ~……はい(そういえばそういうことにしてなな)」

「実は君を浜辺で見つけたのは姫様と私だったんだ」

「あっ……そう、だったんですか……」


 にこやかな挨拶から、急に少しまじめな顔になったサーオにタックも少し俯く。

 だが、サーオは直ぐに元のにこやかな顔に戻ってタックの肩を叩いた。


「だから君は本当に幸運だったよ。発見してもらえたのが、オルガス姫で。これが、発見したのが『黒騎士』たちとかだったら、どうなっていたことか……」


 幸運だった。それは当然だ。ヘタしたら死んでいただろうし、何よりも命を助けてもらっただけでなく、手厚くしてもらっているのだ。

 昨晩、若干卑猥なことも起こり、姉たちに罪悪感を感じるも、まあ、男としては気持ちよくなかったかといわれれば否定できないこともあり、とにかく現状は幸運であるというのはタックも理解していた。

 だが、サーオの言葉の意味はそういうことではなかった。



「身分証もないような奴隷の男……今の世では一生性処理として女たちの慰みものにされるだけ。特に今の女帝様の時代になってからは、男は肩身の狭い思いをしているからね」

 

「そう……ですか……」


「うん。でも、オルガス姫ならそんなことはしない。ちゃんと君の今後の身の振り方ぐらいは考えてくれるよ」



 昨日も少し思ったことだが、タックもようやくこの世界での男の立ち位置がどういうものかを理解してきた。

男に対する扱いが、元居た世界とは違う。

 正直現時点では、まだそこまで異常な状況までは目の当たりにしてないが、サーオの言葉でタックも改めてそのことを認識した。


「ッ、タックくん!」

「あっ……オルガスさん……じゃなかった、えっと、オルガス姫様」

「おはようございます、姫様」


 サーオと話をしていたところで、同じく朝の水浴びをしてきたと思われるオルガスが現れた。

 だが、オルガスはタックの顔を見た瞬間、顔を真っ赤にして目が激しく泳いだ。


「お、おは、おはおはおはよう、たたた、タックくん」


 それは、昨晩のタックとバターとプッシーの激しいアレを思い出してしまったからだ。


「オルガス姫様……その……昨日は、本当にすみませんでした……俺……あんな下品なところを……」

「ッ! い、いや、その……君が謝ることはない。むしろ謝らなければいけないのはこちらだ。バターとプッシーはしかるべき罰を与える。それに、君にも何かしらの償いを……」

「えっ、お、俺はいいですよ! それに、そんな処罰なんてことしなくても……」

「何を言っているんだ! それで済ますわけにはいかない!」


 顔を真っ赤にしながらも声を大きく荒げるオルガス。状況が良く分からないサーオがオルガスに耳打ちして聞いた。



「あの~、何があったんですか?」


「……その……昨日……バターとプッシーがタック君を……その、襲ってしまい……」


「えっ!? かわいこくんの、チンッ……お、襲った!?」


「だから、二人には処罰を、タック君には何かしらの償いをと思っているのだが、タック君は受け入れてくれず……それどころか二人は悪くないと庇って……」


「はあっ?! なんですか、それ! こんなかわいこくんとヤッたのに、お咎め無しとかそんなのありえるはずがない! かわいこくん、いくら奴隷だったからって、そんな無理はしないで! それならむしろ、私が君をヤリたかっ……とにかく!」



 サーオも強い口調でタックに言う。その様子を見て、タックはあることを思い出した。

 それは、姉たちに無理やりされたことがあったとき……



――女からの強姦は法的に罪に囚われない。はい、論破


――お姉ちゃんとタッくんは両想いさんだから問題ないよね?


 

 と言って、タックを無理やり何度も犯した。

 一応、この世界でもそれはこの大陸の支配者の権限によって合法となっているようだが、何となく感覚が違うなとタックは感じた。

 朝からそんなやり取りをしていた、その時だった。



「急報ッ! 姫様、ただいま近くの港町で争いが起こっており、死傷者が多数出ております!」



 朝の空気を打ち消すかのように、慌しい声が響き渡った。


「ッ、争い? 海賊か何かの襲撃か!?」


 血相を変えたオルガスが尋ねると、報告に来た騎士は言いにくそうな表情を浮かべながら……


「それが……どうやら……」

「なんだ? どうしたというのだ?」

「黒騎士たち……です」

「ッ!?」


 寝起きや二日酔いなどでボーっとしていたエルフたちも居た中で、その報告は一瞬で皆の顔つきを変えた。


「黒騎士……エクスタ姫様率いる……部隊です」

「ッ!」

「どうやら、港町でパトロールを行っているようで……その際に、違法なものを見つけては……」


 その報を受けて、オルガスは頭を抱えて顔を歪めた。


「姉上め……また、取り締まりという名目で、無理やり犯罪者や男たちで暇つぶしでもしようと……おのれぇ!」


 姉。オルガスは今、ハッキリとそう口にした。

 しかし、家族というのに、あまりにも怒りに満ちた表情をしているため、タックも状況が理解できなかった。


「予定変更だ! 今すぐ港町に急行する! 温情や慈悲もなくいたずらに民を傷つけているのであれば、見過ごすわけにはいかない!」


 その号令と共に、エルフたちは即座に準備に取り掛かり、馬を用意していく。

 そんな中で、一人ポカンとして何が起こっているか分からないタックの肩にオルガスは手を置く。


「タックくん、状況が状況だ。すまないが一緒に来てもらうが、君は馬車から絶対に出ないでくれたまえ。ヘタに外に出て巻き添えに合うほうが危険だからな」


 タックを一人置いていくわけにもいかず、仕方ないが一緒に連れて行くことにしたオルガス。

 そしてタックは、ようやく異体陸の闇の片鱗を目の当たりにすることになるのだった。

 ただ、その前に……


「あの、オルガス姫……その……『タックくん』って俺、言われ慣れて無くて……」

「ん?」

「どうせなら、その……呼び捨てでタックか……もしくはその、た、タッくんって……」

「うぇ!?」


 呼び方について、一言告げた。

 だが、それだけでオルガスは狼狽える。


(ちょっ、お、男の子がいきなり自分を呼び捨てにとか、あだ名でとか……こ、この子、わ、私のことが好きなんじゃないのか? うぇ? え? そ、ソレは困ったな……こんなエッチで可愛い男の子に……うぇえ? えへ? えへへ)


 恋愛に無縁の処女ゆえに男の子とちょっと親密になれただけで自分に惚れていると思ってしまう脳……



「あ、わ、わかった、で、では……た……タッくん」


「はい!」


「ッ!?」



 笑顔でそう答えるタックに、オルガスは衝撃を受けて……


(か、かわい……けっこんしよう)


 と、チョロかった。 

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