第21話 朝から

 スケヴェルフ帝国の帝都から南へ下った港町で起こった人間たちの反乱。

 不当で残虐な行いをする黒いエルフたちの横暴に、突如現れた一人の男がその暴力を力でねじ伏せた。

 男の勇気、力、そして熱さに感化された者たちも次々と立ち上がり、大陸を統べる至高の種たるスケヴェルフの二人の姫が敗北した。

 その報は、結局情報操作により大陸全土に行き渡るまでにはならなかったが、その場にいた者たちの心と魂には消えないものとして深く刻み込まれた。


「ん……んん……ッ?」


 そして、その大事件の翌日の朝……


「チュパチュパチュパ……嗚呼、ダーリン……可愛い唇だ……ホッペもプニプニとなんと美味」

「はうっ……お、か、んんぐ?」


 深い眠りについていたはずのタックだったが、いきなり意識が深い底から無理やり引っ張られるような感覚に襲われて、体を捩らせた。



「んごぉ!? お、嗚呼♡ ダ~リ~ン~……童顔で無垢な表情でありながら、文字通り一皮剝いて勃ちあがらせれば、あらゆるものを貫く魔剣と化す……流石は我が伴侶なり……あ~む♡」


「ひゃふぉああッ!?」


「あむちゅちゅるちゅるぶちゅるちゅる!」



 その瞬間、目を覚ましたタックの眼前には、褐色肌の妖艶な女神がイカれた瞳で恍惚な笑みを浮かべながら、横たわるタックにキスをして味わっていた。


「はっ!? ぐっ、つ、エ、エクスタ姫ッ!?」

「うふふふふふ、おはよう、ダーリン」

「なん、で!? あさ、から、お、俺ぉをぉ!?」

「だって、じゅぶ、我のぉ、んく、旦那様ではないか♡ ご主人様でも構わんぞ? 喜んで我は豚になる。ぶひぶひ♥」


 タックを味わいながら片目でウインクして両手でピースサインを見せるエクスタ。

 ウットリとした顔で、しかしその表情は明らかに常軌を逸していた。


「はぐっ!? だ、んでえ!?」


 今いるベッドと部屋がどこのものなのかがよく分からず、ただ全身に感じるねっとりと舌と唇の感触にタックはゾクゾクとさせられた。

 すると、その時だった。


「おはよう、タッくん。そろそろ朝……ッ!?」


 部屋の扉がガチャッと開き、そこには白銀の甲冑を脱ぎ捨ててシルクの緑色の部屋着姿のオルガスが立っていた。


「ん? おい、オルガスよ。姉と夫のイチャラブに顔を出すとは無粋だな」


 その瞬間、ウットリとした顔が一変して、邪悪な笑みと眼光を見せるエクスタ。

 対してオルガスはワナワナと震え上がり、そして……


「ッ、あ、姉上ぇ! な、なにをしている! わ、私のタッくんに何を!」

「……ふっ……わたしぃの? ダッくん様は、我のダーリンだ!」

「んな!? なにを……あ、姉上ぇ! ふざけるなァ! タッくんは私の婿だぞ! それを……! それに、姉上は反省して心を入れ替えたのではないのか!?」

「ハンセー? 心を入れ替える? だからこそ、旦那様を可愛がっているのではないか」

「それのどこが反省だ!」


 急に始まった白いエルフと黒いエルフのいがみ合いと争奪戦。

 タックはベッドの上で肉食獣に狙われる草食動物かの如くプルプルと震え、何故こんなことになっているのか、必死に頭を巡らせた。

 そして、昨日なんやかんやで「婿」ということになってしまったことを思いだした。


「とにかく、タックくんは私の婿だ」

「違う。我が伴侶なり!」

「言っておくが、姉上! タックくんは私の美肌の乳房が大好きなんだ! バブバブ赤ちゃんになって離れない!」

「違うぞ、オルガス。彼は我の褐色ムチムチプリンプリンの尻を愛している」

「ッ、ふ、不浄な! お、お尻など、気は確かか!」

「くくくくく、そう、不浄であり本来であれば誰もが敬遠したくなるような場所も、お互いが想い合っているからこそ許せるのだ。それだけ、我らの方がお似合いということだ」

「何を言うか! この、淫乱レズビアンエルフのくせに!」

「我はレズだったのではない。運命の男と出会うために身を守っていたに過ぎん。そういうお前こそ、生真面目な振りしたムッツリスケヴェルフのくせに」

「なんだとーーッ! なら、姉上! どちらがタックくんを婿とできるか……」

「ふっ、いざ尋常にスッケベバトルということか……」


 既に半裸のエクスタに対抗すべく、オルガスもそそくさと服を脱ぎ始め――


「あの……姫様、婿殿……そろそろ朝食が……」


 そんな二人に水をさすように、部屋の扉からサーオがヒョッコリ顔を出して、気まずそうに二人を呼ぶが、二人は目をキランと光らせる。


「「朝御飯!! そう、ならば食べてもらわねば!」」


 二人は何を思いついたのか? 二人は股を開脚するようにベッドの上に二人並んで座り……



「「これぞスケヴェルフ特製ブレックファースト・マン姦全席だ!」」


「……」



 朝から胃もたれするような朝食を、真顔でタックに差し出す二人であった。



「いえ……その前に……俺……好きな人が居て……だから……」


「「忘れさせてあげよう」」


「ひゃわあああああああ!?」


「待ちたまえ、タックくん! いい加減に、君もハッキリと私を選んで、黒いエルフは嫌いだと言ってくれ! それとも、そ、そ、そんなにお尻がいいのか!? な、ならば……ぞ、存分にこの尻にスッケベしてくれ!」


「逃がさんぞ、アナタ! こんな口だけムッツリ女のたわ言には一切耳を貸すな。私ならその一歩先。乳房が良ければ四六時中くれてやるぞ!」



 半裸のタックを追いかけて、全裸の白いエルフと黒いエルフが目を血走りながら、周りの目など気にせずにタックを追い詰めていた。

 だが、朝から異常な事態……とまでは、タックも思わなかった。


「はぁ~、なんかお姉ちゃんたちがいなくても同じようなことが……お姉ちゃんたちも朝からエッチだったし……」


 こういうことはむしろ日課であり、慣れたものであったりした。


 だが、ここから先は少し変わってくる。


 それは、本日の予定である、オルガスとエクスタに帝都に連れて行ってもらい、今後の身の振り方についてを決めるということ。


 そして、タックはそこで、帝都の異常を目の当たりにする。

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