第20話 解決方法
「確かに私たちは負けた。しかし……この後はどうするつもりだ? 民よ……ヴァギヌア、アマクリ……そしてタッくん。言っておくが、この後我らが国へ戻ったならば、すぐに女王陛下は新たなる軍をこの地に派遣するであろう……そうなっては……どうなるか分かるな?」
「「「「「………………」」」」」
そう、オルガスは自分たちが負けたことは認める。
しかしだからと言って、タックたちがこれでもう助かったということは言い切れない。
「確かに私たちは負けたが、それはあくまでオルガス隊とエクスタ隊に勝ったにすぎない。帝国の全軍事力を前にすれば、お前たち等、鼻息で消し飛ぶだろう。仮に、タッくんやヴァギヌアたちが中心となって、大陸中の反帝国派を集ったところでその数は知れている。更に、帝国には……私や姉上をも遥かに凌駕する……三姫の一人にして、史上最強と呼ばれたスケヴェルフ……『アヘイク』が居る事も知らないわけではあるまい」
オルガスのその言葉については、タックたちもまた否定はできず、ただ黙っていた。
また、勝利に酔いしれて雄叫びを上げている港町の住民たちも、急に表情を強張らせて静まり返った。
「タッくん……私たちに勝ったがその後どうする? まずは、見せしめに私やエクスタを処刑にでもするか?」
「バカな、そんなことするはずないです! 何で俺がお二人を助けたと思っているんですか! こうして今はもう戦いを止めたんだから、まずは話し合いを―――」
「そうだそうだー! ダーリンとこれ以上戦うのは我はやだもん! チュウしてエッチしていっぱい子供作ってラブラブ―――」
「黙ってろ、姉上! そしてタッくん……話し合いは無理だ……仮に私たちを処刑すれば、怒りに満ちた帝国が全軍事力を持って君たちを殲滅する。仮にここで私たちを見逃したところで同じことだ……敗北を隠匿して何も無かったかのように見過ごせるほど、もう事態は軽いものではなくなっている……」
いかにタックたちとはいえ、戦争になれば圧倒的な軍事力を前に勝てるわけが無い。
戦が始まれば、タックたちは当然、今日この場で抵抗した港町の住民たちまでどうなるかは分からない。
だからと言って、今更ゴメンなさいを言って済むような状況でもなくなっている。
「で、でも! だからこそ一度皆で話し合って、どうすれば皆が幸せになれるかを話し合えば良いと思います! 元々、あなたたちがこの港町の人たちにヒドイことをしていて、皆、自分の身を守るのに必死で戦ったんだから! だからこそ、戦いが終わった今こそ、お互いが歩み寄るべきなんです!」
それでも、タックは平和的な解決を模索すべきだと主張する。
それは、誰が聞いても綺麗ごとの発言ではあるのだが、しかしタックはその想いを何の裏もなく純粋な気持ちで主張する。
「あぅぅ、キリっとしたダーリンかわいい……もう、舐めちゃお♥ ぺろぺろちゅぱちゅぱ」
「はう、ちょ、エクスタ姫、い、今は真面目な……」
「ぶっ殺すぞ、姉上! 真剣な話をしているのだから、ソレはお預けだ! 私だってイチャイチャしたいのを我慢。じゃなくて、とにかく!」
もはや人格が変わってしまっているエクスタを一喝し、オルガスは頭を抱えながら……
「……そうだ……お前たちは後戻りの出来ぬ道へ進んだ」
最初は、タックの抵抗から始まり、それに感化された者たちが後に続いて形振り構わず後先考えずに暴れた結果、このようなことになってしまった。
ヴァギヌアとアマクリは別にしても、タックに便乗して怒りに任せて抵抗した港町の住民たちは、ようやく落ち着いてきて、自分たちが何をしてしまったのかを認識し、顔を青ざめさせて震え始める。
だが、もう遅いのだ。
(……今回のエクスタの行動を始め、これまでのスケヴェルフに対する市民の怒りはもっともである……私だって今の帝国に憂いを感じている……それを変えるためにも、やはり彼らをこのまま無謀な戦いをさせるわけには……)
スケヴェルフに逆らうというのは、そういうこと――
(ならば、今、この場を納めるには……これしかない!)
……だが、その時、オルガスは一つの案を口にした。
「だが……この場を納めるための手段として、道が無いわけではない。何故なら、正直、今回の敗戦が知られると、いらぬ噂や余計な考えを持つものが増える。まあ、それが出たところで帝国が傾くことは無いが……出来るなら私たちも知られたくないというのも事実」
オルガスの言葉に「そんな方法があるのか?」と誰もが目を大きく見開いた。
そして、オルガスは……
「一つは、今回の責任を負わせる意味でタッくん……いやタック、君を処刑することで手打ちとして、港町の者たちには手を出させないこと……だが、これはありえぬこと。君の力は非常に危険ではあるが、それを失うのは非常に惜しい……というか、もう私も姉上もそれはできん……というか、姉上、睨むな睨むな」
「ふがー! フーフー! ダーリンは渡さぬぞォ!」
ならば? 誰もがオルガスの次に出る言葉に耳を傾けて視線を集中させる。
「ならば、タックが私たちに忠誠を誓い、今後は私たちの近衛ということで仕え、共に少しずつ帝国を変えていくのはどうだろうか?」
「な……え?」
「優秀な人材を処刑するのではなく、取引で自分の配下に置くのは、戦においては珍しいことではないであろう? ヴァギヌアとアマクリ。お前たちもどうだ?」
オルガスからの提案。それは、人材登用である。
本来なら処刑でもおかしくないタックだが、その力を失うのは惜しい。
だが、当然、不満も漏れる。
「はぁ? ヴァカふざけんな! あんたらと戦うどころか、あんたらの配下になれ? そんなこと死んでもできるかァ! この私が? ざけんじゃないわよ! っていうか、負けたくせに何をエラそーに言ってんのよ!」
そう、元々帝国に不満を持って反乱を起こしたのに、命惜しさに帝国の姫の配下になっては何も意味が無い。
ヴァギヌアが激しく文句を言う。
だが、
「タッくん、ヴァギヌア、アマクリ、この三人が私たちの配下になってくれるのであれば、今回の件は私が責任を持って処理しよう。そして、約束する。帝国の姫として、私が必ず想いに報いて見せると」
オルガスが覚悟を秘めた瞳でタックたちに提案する。
自分の仲間になり、力を貸せと。
そうすれば、自分が帝国を変えて見せると。
「えっと、部下って……俺? えっ、俺、そんなこと言われても……」
「ヴァカわいこくん、騙されちゃだめよ! だいたい、何の保証もないでしょ? こいつらの配下になったところで、私たちの扱いだってどうなることやら……」
ここで部下になったところで、自分たちがただの下っ端として捨石にされるような扱いをされるのであれば、何の意味もない。
ヴァギヌアがそう口にすると、オルガスは即座にそれを否定。
「必ず重要な役職に就けよう。三人はエルフではないとはいえ、私が自らの意思で採用するのであれば、誰にも文句を言わせない。姉上も同意なはず」
「うん、ダーリンとこれからも一緒なら何でもするもん!」
「……あ~、だ、そうだ。そして、その……なんというか……いや、もう、そうだな。ある意味でこれが保証になる」
すると、オルガスはタックの頭を撫でて、皆に提案する。
「このタッくんを、姉上と私の婿にしよう」
「「「「「……?」」」」」
「そそ、そう、そうすることによってだな……その、お、男といえど、ある程度の権力を持つことが出来る……スケヴェルフ帝国の王族の婿になるのだからな。そ、それに、もう我と姉上もタッくんとの子を孕んでいるだろうしな……」
途中から照れてモゴモゴと口ごもるが、オルガスは顔を真っ赤にしながらも開き直ったように叫ぶ。
「どうだ! 戦争するよりも、い、一番良いことではないだろうか!」
「賛成だ、オルガス! 我と共用というのが気になるが、我はそれに乗るぞ! というわけで、ダーリン、んちゅっ、ちゅぱれろ」
「ひゃ、あ、あの、いや、むこって、あむちゅぷるる」
「ああ~、もう、姉上ばかりずるいぞ! タッくん、私もぉ、んちゅっ~♥ もう、真面目な話はいやなのら~、ちゅう~、いいこいいこして~、お尻もいっぱい~♥」
それを受けて……
「「「「「なんかもう…………勝手にすればいい」」」」」
と、色々と馬鹿らしくなったその場にいた全員が口を揃えてそう言ったのだった。
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