第2話 スケヴェルフ大帝国

 人と魔と獣、あらゆる種族が世界に散らばる世界。

 長きに渡る戦乱の果て、世界全土を支配する一つの巨大帝国が建国された。


 その名も『スケヴェルフ大帝国』。


 大陸に散らばる数多くのエルフが連合を組み、そして史上最強の魔力を持った『大魔女帝』と呼ばれる一人のエルフが頂点となり、全ての種族、国、大陸を打倒し、世界全種族統一を実現した。


 全種族統一を果たした大魔女帝は、残虐と暴虐、そして欲望の限りを尽くす狂った法を作った。


 その一つが、『男子人権撤廃』というものである。



「ふふ、綺麗に咲いている。この白いユリの花……彼女も喜んでくれるかな?」



 とある大森林を抜けた先に広がる野原には、数多の花々が美しく咲き誇り、可憐に微笑む「青年」が花を愛でていた。

 穢れを知らぬその白く細い手足。

 しかし、その指先が花に触れようとした、その時だった。


「へっへ……おうおう、お兄さん、こ~んなところに一人でなにやってんの~?」

「げへへへへ、へ~、けっこう可愛いじゃん」


 突如、美しい花畑の花を踏み潰し、空間を汚すような下衆な笑みと腐臭を漂わせる集団が現れた。

 全身をボロボロの布キレや、安い銅製の鎧などで胸や股間だけを覆い、その手には錆付いた剣や槍を持っている。

 年齢は青年と同じぐらいのもいれば、一回りは離れていそうなものも居る。

 野生的な風貌で現れたその者たちは、全員が「女」であった。


「ひっ!? ま、まさか……野盗?」

 

 賊の類。どう見ても、カタギではないその女たちに、男はか弱い表情を歪めて、恐怖に染まった。

 その表情に、野盗の女たちは誰もが涎を垂らして、いやらしい笑みを浮かべた。


「けけけ、せ~か~い。で? おにーさん、ダメじゃんこんな所に一人で居たら」

「そうそう。あたしらみたいなスッケベな女たちに犯されても文句言えないんだぜ?」


 次の瞬間、悲鳴を上げて青年は逃げ出そうとするも、女野盗たちは一斉に飛び掛って青年を押し倒した。


「い、いやだ! やめてくれ、お願いだ、やめてください!」


 必死に泣き叫んでジタバタする青年だが、その行為は余計に女たちを悦ばせるだけ。


「ひっひ、やめるわけねーじゃん、あたいらが」

「そうそう、いっぱい可愛がってやるからな~。黙って犯されなっての!」


 青年の衣服を乱暴に引き千切る女たち。女たちもまた、同時に己の下腹部を覆う下着や鎧を剥ぎ取って準備に取り掛かる。


「ひ、な、なにを!?」

「決まってんじゃん。交尾タイムだっつーの! へへへ、あたしら、十日は風呂に入ってねーから、くっせーからな。ヒヒヒヒヒヒ」


 それを聞いた瞬間、青年は顔を青ざめさせるも、すぐに絶叫して泣き叫んだ。


「い、いやだ、そ、それだけはやめてくれ! 御願いします、た、助けて! まだ……ぼ、僕はまだ童貞なんです! 僕には……僕には婚約者が居るんです! 清い体のまま、彼女と結婚したいのです!」


 未だ経験が無いことを泣き叫びながら口にした青年だが、それもまた逆効果であった。

 その発言に女たちはニヤニヤと口元を緩め……


「へへへ、そりゃー可愛そうにな~。あたいらみたいなスッケベに見つからなきゃ~、結婚まで童貞守れたの・に・なっ!」

「い、いやだあああああああああああああああああ! 助けて! 誰かー!」


 逃すつもりなどないと絶望を叩きつける。


「あははははははは、いやだいやだと言いながら……本当は嬉しいんだろう?」

「ひぐっ、いや、やだ、う、ううう、ごめんよ……愛するお前に僕の童貞を捧げたかったのに、僕、……」

「覚悟しな。ぜってー、孕んでやるからな」

「ッ!?」


 孕む。女の言葉に青年はゾッとした顔をした。


「そ、んな、まさ、か……まさか!」

「そうだ~、あたいらとスッケベするんなら。と・う・ぜ・ん、な?」

「ッ!? そ、そんな、も、そんなことしたら、子供が!?」

「へへへへ、今日のあたしは超危険日だからな~、ゼッテー妊娠するぜ?」

「いやだ!? や、やだ、彼女以外! いやだー、やめろー!」


 しかし、そんな願いが届くはずも無い。








「あ、……う……あ……」


 無慈悲な女たちにより、つい先ほどまで一切の穢れを知らなかった青年が穢された。

 その悪夢のような現実に青年は涙を流しながら呆然と空を見上げていた。

 しかし……


「へっへ、交代交代!」

「おにいさん、わたし~、キスからしてあげるね♪」


 それどころか、これから終わらぬ地獄が始まり、女たちが飽き、青年の肉体と精神が壊れるまで、延々と女たちに凌辱されることになるのである。


「ぷっはー! スッケベしながら飲む酒は最高だぜ」


 青年を穢した女野盗の一人が満足したように酒を飲む。

 その傍らでは青年の悲鳴が続き、それを肴に女野盗は鼻歌交じりだった。


「まっ、これも全部はあの方々……偉大なるエルフ連合の……スケヴェルフ族様たちのおかげだぜ」

「ですね、お頭」

「ああ、スケヴェルフ族がこの大陸を統治したことで……この大陸は男を性欲処理の道具として扱うことが許され、いつでもどこでも誰だろうと犯すことが許される、合法奉仕世界となった! まさに、夢のような制度だぜ!」

「ええ! スケヴェルフ族様々ですね! スケヴェルフ大帝国にかんぱーいっ、てね!」


 女が力を持ち、男が弱い世界。

 女が尊ばれ、男に一切の権限が与えられない。

 王族であれ、貴族であれ、全ての権限は女に与えられる。

 明確な所有が証明されなければ、どの男を攫うも犯すも許され、それが日常茶飯事の異常な世界。


 しかし、暗黒の時代も一縷の光だけはあるものである。



 中には、世の常識に抗おうとする者も居る。

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