第17話 救助活動
身体の一部を科学で改造されているタック。
その体、実はあまり海水は得意ではない。
この世界で海に落下したときに意識を失っていたのもソレが理由である。
しかし苦手だからといって、見捨てていいはずがない。
「オルガス姫、あと……エクスタ姫!」
海に吹っ飛ばして、浮いてこないオルガスとエクスタを救出するために海に飛び込んだタック。
二人はすぐに海中で見つけるも、二人ともぐったりとして全く動かない。
「ぶへっ! ぶっ、ごほっ、ごほっ、こほっ、……つっ……オルガス姫! エクスタ姫!」
海中から顔を出し、動かぬ二人の身体を揺らしたりして懸命に名前を呼ぶタック。
だが、二人から応答はない。
「いけない……ひょっとして、あの衝撃だけでも相当な……それに、海水を飲み過ぎてる! このままじゃ……」
タックの地面を叩きつけた衝撃波でふっとばしたオルガスとエクスタだが、その衝撃はタックが考えていた以上に二人の身体にショックを与えていた。
怪我ではないが、意識を断って体を停止させるほどに。
「姫様ぁあ~!」
「にゃあああ! な、なんてことを!」
「わんわんわんん!」
動かぬ二人を抱えて海から出てきたタックの元へ、サーオ、バター、プッシーが半泣きの状態で駆け寄る。
しかし、三人が叫んでもオルガスとエクスタは目を覚まさず反応しない。
「ど、どうしよう……っ、そ、そうだ、人工呼吸を! みんなも手伝ってください!」
「え?! え、タック、じんこー? 呼吸?」
「そうです、僕たちが、えっと……この世界ではなんて……呼吸を無理やりさせるための……蘇生方法というか……」
「呼吸? 蘇生……あー、そうにゃぁ! ソレを早くしないとにゃ! 任せるにゃ!」
人工呼吸という言葉が果たして通じるか気になったが、どうやらこの世界でもちゃんと分かるようだと安心したタック。
だったが……
「私とバターでやるにゃぁ! バターはエクスタ姫を!」
「分かったわんわん!」
そう言って、すぐに作業にかかろうとするプッシーとバター。
そして、軌道を確保して、両者その口に……
「にゃああ、ぺろぺろちゅぱちゅぱぺろちゅぱちゅぱ!」
「わん、わんわんわんわん、ぺろぺろじゅぶじゅぶぺろぺろぺろ!」
ベロチューした。
「……え? …………え?」
タックは頭が混乱し、改めて一度二度見する。
仰向けになって倒れる二人の女に覆いかぶさる二人の女。
その唇に、ドッグエルフのバターと、キャットエルフのプッシーが口を付け、必死に舐めたり息を吹き込んだりしていた。
そんな光景を改めて見て……
「いや、だから、何をしているんですか!?」
やはり理解不能だとタックは叫んだ。
すると、真剣な作業をしていたプッシーはキッとタックを睨み……
「にゃにって、ベロチュー呼吸だにゃァ!」
「………………」
「軌道を確保して、ベロチューしての蘇生方法、常識にゃ! っていうか、君が提案したにゃぁ!」
そう叫ぶプッシー。
タックにはそれでも何が何だか分からなかった。
なので、改めて隣で一緒に見守っているサーオに尋ねてみる。
「あの……サーオさん……その……普通に人工呼吸じゃないんですか?」
「はあ? 君はそんなことも知らないの? 男と女、意識を失うほど溺れた人たちを助けるための基本的な蘇生方法じゃない!? ……じんこう……ちんこう……? ああ、ひょっとして君が言っているのは、最終手段……上のお口での呼吸がダメだった場合、別の刺激で目覚めさせる、チン口呼吸と、女性ならマン口呼吸のことを言っているの?」
「え……えええええええええええ!? そ、そんなのあるんですか?! っていうか、ソレがこの世界のやり方なんですか?! ……色んな星に行ったけど、そんな文化は流石に初めてだ……」
ありえない……と思いつつも、真剣にベロチューするる二人を見て、タックも否定はできなかった。
世界どころか、星が違えば、そこにたとえ「ヒト」が存在していたとしても、細かい体の構造は違うのかもしれない。
ましてや、この星は銀河連邦にも加盟していない未開の星。
だからこそ、これも本当のことかもしれず、ただ驚くしかなかった。
だが……
「だめ、姫様が二人とも目を覚まさないワン! ベロチューしても、全然反応しないわん!」
「そんなっ!?」
それで本当に目が覚めるかどうかはまた別の話。
そして、蘇生方法のやり方に驚いている場合ではないことにタックも気づいた。
目の前で、先ほどまで自分と戦ったオルガスとエクスタが未だ目を覚まさないからだ。
「そんな、エクスタ姫!」
「オルガス姫!?」
タックは顔を青ざめさせた。
もし、このまま目を覚まさなかったら?
そんなのは嫌だった!
「そんな! オルガス姫、俺、いやです! まだ……まだ、話したいことが! エクスタ姫も、まだちゃんと話し合っていないじゃないですか!」
自分たちは確かに敵として戦った。
だが、それでもオルガスは自分にとって、命の恩人であることに変わりない。
エクスタとて、受け入れられない言動や文化があったとしても、だからと言って殺そうとかそんなこと考えていなかった。
このまま死なせるわけにはいかない。
そう思ったタックは立ち上がる。
「俺が……俺がやります!」
「「「ッ!!??」」」
タックの申し出に、三人は驚いた顔を浮かべるが、もう返答を待っている時間はない。
「とにかくベロチューで刺激するんですよね? だったら、俺は出来ます! ベロチューは得意です!」
「ちょ、かわいこくん、何を!?」
「訓練もしてないのに、そんなの無理にゃあ! ……あっ、でも……確かにこの子なら……」
「でも、今は下がるわん。君の厚意は嬉しいが、今は一刻も―――」
そう、今は一刻も争うのだ。恥ずかしいとかそんな気持ちに惑わされている場合ではない。
重要なのは、助けたいという気持ち。そして、舌と口の技術。
(ミルクお姉ちゃん……エローナお姉ちゃん……俺はこれまで、お姉ちゃんたちか、お姉ちゃんに命じられた人としかベロチューしてこなかったけど……昨日に続いて、今日も許して! それにこれは、チュウじゃない! 救うためのもの!)
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