第一話・ただの不良少年①

 退屈な学校生活が終わって二日が経った。だからと言って、別に生活が大きく変わるわけじゃない。退屈な学校の時間が、退屈で何もない時間になり下がっただけだ。むしろ、学校があった分何かをしていたわけだから、今はさらにどうしようもなくなっているような気がする。

 

 朝起きて、両親が仕事へ出ていくのを聞いてから、ベットから起きだし、別に腹が減っているわけでは無いが朝食を食べる。歯を磨いてシャワーを浴び、そこからひどく長く、暇な時間へと突入する。


 テレビを点けても見たい番組は流れていない。スマホを見ても流れてくるのは退屈で意味のない動画ばかり。


「つまんねーの」


 葉隠カレラはため息交じりに呟き、朝食の皿を食卓に放りだしたまま、背後のソファへと身を放り投げる。真っ白で面白味もシミの一つもないまっさらな天井が彼と顔を合わせた。


 起きた直後で、再び瞼が重くなってくる。あと数秒で目を閉じるその時、食卓の端に放り出していたスマホの通知音が鳴った。


「……ったく、なんだよ」


 ソファから起き出し、カレラはスマホを取り上げた。通知の先は悪友の一人、藤本慶太だ。

 その内容は、今日の十時、近くの山で行われるストリートレースの誘い。カレラは喉を鳴らし、唇を舐めた。

 

 スマホに了承のメッセージを打ち込み、パジャマから着替えて家の外へ出る。少し歩いて月極の貸ガレージに向かい、その中で眠っている相棒と対面する。


 スバル・WRX STI ボディカラーは白。特徴的な大型のリアウィングは気に食わなかったので、黒い小ぶりなリップスポイラーに付け替えている。


 元々は2年前に他界した祖父の車だ。彼の死後、売りに出される予定だったが、無理やり強奪する形でカレラが乗り継いでいる。


 無免許で運転した回数は、両手足の指を合わせても足りない。おかげで、カレラの運転技能は免許を取ってから半年にもかかわらず、ベテランドライバーのそれと何ら遜色がない。


 ポケットから出したスマートキーでドアを開錠し、狭いガレージの中で運転席に滑り込む。クラッチを踏んでエンジンを始動し、トタンに囲まれた四方が水平対向4気筒エンジンのエキゾーストノートを反響させる。


 エンジンが暖気するのを待っていると、助手席に放り出していたスマホが再び通知を鳴らした。


 「もう車出す?」藤本からの一言。「出す」と一言返すと、「OK、拾ってくれ」と帰って来た。


 鼻を鳴らし、スマホをスリープモードに戻し、ふたたび助手席に放り出す。丁度エンジンの暖気が終わり、カレラは一速にギアを入れて、WRXを発進させた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る