第二話・手配犯 葉隠カレラ②
しばらくして、薄暗いリビングで目を覚ました。何か悪い予感がした。
暗闇に慣れてきた目で壁に掛けてある時計を確認する。とっくに日を跨いでおり、短針が2を指しているのが見えた。長針の位置はまだ見えない。
上体を起こそうとして、胸の上の少女がつっかえた。いつの間にか、うつぶせの状態に入れ替わっている。半開きの口から垂れた涎がカレラのTシャツにシミを作っていた。
両腕を少女の腰に回し、腕で少し体をずり上げる。起こさないようにゆっくりと上体を起こし、ソファーの側の机の上に置いている室内灯のリモコンに手を伸ばそうとした、その時だ。
ガラスの砕け散る音がリビングの中に響き渡った。間髪入れず、キッチン裏手のベランダに面した窓から、防弾ベストとアサルトライフルで武装した連中がリビングへなだれ込んでくる。ごつい迷彩柄のヘルメットの額部分には暗視装置が取り付けられていた。
カレラは声を上げる前に、少女を抱きかかえ、ソファーから転がり落ちる。自分自身でも驚くほど素早く立ち上がり、二階の自分の部屋に続く階段へ駆けた。
物音に気付いた武装集団の一人が暗視装置を起動し、眼前で動く人影に躊躇なく発砲した。壁に穴が開き、花瓶が音を立てて割れる。
「ブシュ、ブシュ」と気の抜けた発砲音を背中に感じながら、カレラは階段を一段飛ばしで駆け上がった。消音機。銃口に取り付けるサプレッサーというものの存在はゲーム等で知っていたものの、実際にはもっと大きな音が鳴るという話だったはずだが。
「まぁ、近所迷惑にはならなそうだなッ!」
ちょっとした軽口を叩けるくらいには、銃というものに慣れてしまったようだ。だからと言って、対抗手段がないので、無様に逃げ回るしかないが。
階段の踊り場を左に折れたところで、壁に小さな穴が開くのが分かった。あと数秒遅れていたら、あの穴はカレラ自身の体に開いていたに違いない。
突然叩き起こされた少女は、必死でカレラにしがみついている。突然の出来事に息を詰まらせているようだ。
少女にケガをさせないよう、カレラは肩から部屋の扉に突撃し、自分の部屋に転がり込んだ。財布と携帯、折り畳み式のポケットナイフとタクティカルライトを適当なカバンに詰め込み、部屋の窓を開ける。
「気ぃ付けろ! 舌嚙むなよ!」
そう叫んで、カレラは窓枠から外へ飛び出した。寸前、彼が突き破った扉から武装集団の一人が駆け込んでくるのが分かった。落下する頭上を、弾丸の風切り音が突き抜けていく。
二階の窓から下のゴミ捨て場の上に着地し、カレラはその前に停めている自身の車に乗り込んだ。少女を助手席に放り出し、スタートスイッチを押す。水平対向エンジンの音が響き渡り、ヘッドライトが前方を照らし出す。
車内に放り込んであった靴に足を通し、シートベルトもつけずに車を発進させた。雑なアクセルワークと大雑把なクラッチミートで大音量を響かせ、フルで作動したトラクションコントロールシステムが駆動力を確実に地面に伝える。
若干のスキール音と共に飛び出したWRXに、二階の窓から身を乗り出した武装集団の一人が容赦なく弾丸を浴びせた。
鉄を抜く「ボン」という音が三度車内に響いてきたが、幸い走行に支障のない位置だったのが幸いし、カレラはそのまま家を出て左折。そのまま加速し、タイヤを滑らせながら幹線道路に合流し、一目散に自身の家から離れる位置へ逃げ出した。
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