第一話・ただの不良少年③

 ショップを後にした後、カレラは藤本と共に近くのファミレスで食事を取り、昼を少しまわる頃に近くのゲームセンターへ移動した。レースゲームや格闘ゲーム、シューティングゲームなどで時間を潰し、空が暗くなった頃にゲームセンターを出発する。


 目的の山へ近づくにつれ、段々と普通の車が見えなくなり、それに代わり、派手なエアロや大柄のウィングなどで装飾された、が多くなってくる。


「ヨシ、ヨシ。それっぽくなってきたな」


 気分が高揚するのを隠そうともせず、藤本は助手席で不敵な笑みを浮かべる。半面、ハンドルを握るカレラの様子は冷静そのものだ。顔をピクリとも動かさず、射貫くような眼差しでフロントガラスの先を睨みつけている。


「おっ、見ろよ。何人かこっち見てるぜ」

「後ろから車来たら見るだろそりゃ」

「そうじゃねぇって。ほら見ろよ、あれ、完全に有名人を見る目だ」

「だったらいいんだけどな」


 隣で人気者を気取る藤本をよそに、カレラは頂上を目指して車をスムーズに走らせる。先ほどからすれ違う車はそういう車ばかりだ。ガードレールの向こうに、ポツポツとギャラリーの姿も見えるようになってくる。


 しばらく山道を上がった後、一際人が集まっている場所にたどり着いた。山の頂上、終点だ。ここがレースのスタート地点であり、カレラの様な不良少年のたまり場であり、血気盛んな連中の闘技場だった。


 怒鳴り合いながら、取っ組み合う革ジャン姿の青年二人の脇をすり抜け、カレラはそういう車がずらりと並んでいる場所の一番端にWRXを停める。エンジンを止め、二人が車から降りるや否や、顔なじみの不良仲間から声が掛かった。


「おう、来たかカレラ」

「あぁ、もちろんよ」

「車の調子は?」

「最高。トラ爺のお墨付き」

「まだあのジジイに世話見てもらってんのか」

「あぁ。悪いか?」

「別にどうでもいいけど、疲れるだろ、アイツ」


 意味ありげに鼻を鳴らし、カレラは会話を終わらせる。飲み物でも買おうと頂上に設置されている自動販売機の方へ歩いていると、人ごみの中から出て来た藤本がいきなり肩を組んできた。


「うおっ、何だいきなり」

「何だってなんだよ。相手の情報仕入れて来たんだろうが」


 不服そうに声を低くした藤本が指を指した先。右往左往する人波の隙間からの覗き見えた人影は、確かに見覚えが無い。


「隣の県から遥々来たんだってよ。お前を負かすためにわざわざだ」


 藤本が口を尖らせながら言った、その遥々来た相手は、青いRX8に乗った目つきの鋭い男だった。女子受けしそうな涼し気な顔が何ともいけ好かない。


「あれが、今日の相手ってことか」

「おうよ。見た感じどう?」


 カレラは鼻を鳴らし、無理くり藤本の腕から逃れた。ポケットから出した財布で自販機のコーラを買い、下から取り出して、プルタブを起こしながら言う。


「楽勝だろ、多分」


 そう言って、コーラを一口あおった。






 

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