気になる彼女

「あの、柳さん。数学のテストどこら辺が出るとか……わかったりする?」

「ちょっと!香様にそういう目的で近寄ってくるのやめてくれる?」

「え、あ……ご、ごめんね」

おずおずと去ろうとする背中に香が応える。

「教科書の35ページから37ページをしっかりやっておくといい、かも」

「あ、ありがとう!」

「外れても知らないからね」

「うん」

昼休み。数人のクラスメイトに机をくっつけられて、一つのコミュニティを形成している異様な集団の真ん中に、香はいた。

どこかで見た光景と重なる自分が、泣きたくなるくらいに情けない。

「どうして教えちゃうの?友達だけでいいじゃん」

友達という特権を振りかざし、優越感に浸りたいと要求してくるその言動に、香は内心溜息をついた。

母が擦り寄ってくる親戚や自称友人たちの要求をことごとく断ってきた理由が少し分かった気がする。

利用されるだけの存在は自らの価値を貶める。

今、香を取り巻いている生徒の中で、香を友人だと思っている人間はいないだろう。

利害の一致すらない、一方的な搾取と言ってもいいかもしれない。

皆、香が友人だから傍にいるわけではない。香の傍にいる事で得られる利益が欲しいだけ。

アドバイスくらい、勘が働いたなら別に友人でなくてもいつでもしてあげるのに。

なんて気持ちでいたから、今、こうしてお友達特権を振りかざしたい人間に囲まれるという憂き目にあっている。

母は自分の存在をちゃんと守っていたんだなぁと痛感する瞬間だった。

高い占料も完全紹介&予約制のシステムも、こんな風に利用されない為の工夫。

自分の価値を知っているからこそ築いた壁。

「香ちゃんは優しいからね」

「ちょっと!香様でしょ!様!」

「いや、様はやめて」

「じゃあ、プレジデンテ香?」

「……」

自分を取り囲むクラスメイトの輪を見渡して、ふと、似た境遇の誰かさんを思い出す。

中学に進学してから廊下で数回見かけた彼女はツインテールを止め、まっすぐに綺麗な黒髪を下ろしている。

子供っぽさが減り、ますます魅惑的になっていく彼女は、見る度に香の視線を奪う。

気が付けば、いつの間にか目が合うようになっていた。

彼女を見つめる香を、彼女もまた見つめ、小さく微笑む。

優越感に似た、相変わらず高慢ちきなその顔を見る度に、香は眉根を寄せたくなるのに、なぜかいつも視線を外せなかった。

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