変化

変化が起きたのは、2年に上がった時だった。

彼女に想いを寄せていた男子生徒の一人が、彼女の欲しがるブランド物のアクセサリーをプレゼントしたらしい。

それも一度ではなく、数度。

そしてある日、彼はたまたま二人きりになったタイミングで彼女を押し倒した。

プレゼントの見返りに、彼女の身体を要求したらしい。

が、あえなく拒絶され、袖にされた。というのが事の顛末。

それだけならまだ良かったかもしれないが、運の悪いことに菜々美の父親の会社の経営が僅かに傾きかけていた事と、菜々美に想いを寄せた男子生徒が、この学校におけるカースト上位者だった事が災いした。

取り巻きに囲まれ、自他共に認める人気者だった彼女は一気に孤立し、一人ぼっちになってしまった。

いつも人を従えお姫様にように自由に振舞っていた彼女の姿はもうない。

見かける度に一人でいる彼女に、香の胸が騒いだ。

「ねぇ、香様、杉原菜々美の話、知ってます?」

「ん?誰?」

知っていると答えるのがなぜか癪だったので、わざととぼけた。

「隣のクラスの、元、お姫様?」

クスクスと笑い声が上がる。

「海里先輩を振るとか、馬鹿すぎ。そのまま抱かれてたら玉の輿じゃん?」

「抱かれるって……」

眉間に不快感を示す皺を刻む香に、目の前の女生徒が慌てて口をつぐむ。

「でも、杉原さんって昔から色んな人に貢がせてたイメージあるから、多分、彼のプレゼントもその一つって感じだったんじゃないかな?」

菜々美と同じ小学校だった生徒の意見に、香も心の中で同意する。

彼女にとって他人とは、自分の価値を知る為の物差しであり、与えられる物こそが自分の価値なのだろう。

こんなにも人から与えてもらえる自分は、とても価値がある。

そう、自分に言い聞かせる為の。

「寂しいわね……」

友達という立場を買う為の貢ぎ物。

では、貢ぐ者がいなくなったら、菜々美にはもう価値はないとでも言うのだろうか。

人の価値はそんな事で決まるわけじゃない。

誰が菜々美という人間をちゃんと見ていただろう。

もしかしたら、菜々美本人さえ自分を見ていない可能性すらあるのに。

「寂しいって誰が?海里先輩?」

口をつぐんでいた女生徒が再び口を開く。

「それともまぬけな菜々美姫?」

冷笑を含んだその言葉に、香は静かに席を立つ。

「香様、どちらへ?」

「ごめんなさい、私、貴女の名前さえ覚えてないの」

そう言い残して教室を出た。

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