Destiny_is it love or curse [RedCyclamenPerfume外伝]
雨音亨
大嫌い
「お母さん、運命の相手ってリセット出来ないの?」
真剣な顔で母にそう聞いたのは、忘れもしない小学2年生の夏。
「どうして?運命の相手がゴミくずだっ……あ!掠った!」
コントローラーを握りしめ、画面に前のめりになりながら母が応える。
「こんのぉ~!金色だからって調子乗るんじゃないわよ!猿の!!分際で!!」
その一瞬後、怒り狂う母の視線の先で、金色に毛を輝かせた巨大な猿が光線を吐き出し、画面が白く染まった。
「ぐぬぬ……」
どうやらゲームをクリアできなかったらしい母の隣りに腰を降ろす。
「ねぇ、お母さん……」
「ん?うん」
コントローラーを目の前のガラスのローテーブルの上に置き、ソファに身体を預けると、母は香の身体を引き寄せた。
白いソファにもたれる母の肩に、頭を預ける形で香もソファにもたれ掛かった。
「香も運命の相手、見つけちゃったか」
「多分……」
祖母には未来を夢で見る力があったらしい。
そして母は、多くの政治家や企業のトップご用達の最強占い師。
祖母から母、そして香へと受け継がれた不思議な能力。
けれども、世代を追うごとに確実に劣化しているであろうその能力は、香の代にはもう『とても勘がいい』という程度のものしか与えてくれなかった。
「多分?でも、そう思ったんでしょ?」
「……うん」
幼稚園から小学校に上がる時、何となく予感はあった。
『何かに出会う』という漠然とした感覚。
それは単純に、新しい学校に対する期待かもしれない、と思いながらも香はその時を待っていた。
そんな予感から1年半後。ついにその時はやってきた。
図書館で占星術の本を読んでいた香の元に、異様な集団が現れたのだ。
「ちょっと、寄贈者様が通るから、そこどいて」
甲高い威圧的な声が図書館に響く。
「ふふ、そんな言い方されたら恥ずかしいわ」
全然恥ずかしくなさそうな尊大な言葉に、香は思わず眉根を寄せた。
一人の少女を取り囲んだ女児ばかりの集団。
全部で10人には満たないながらも、圧倒的な場違い感がすごい。
「私じゃなくて、私のパパが寄贈したのよ」
「えー!すごーい」
「私が読みたいって言ったら、それならみんなも読めるようにしようって。パパが」
「お父さんってもしかして神様?」
騒がしい声に顔を上げた香の目に、その中央に立つ少女が映る。
艶めいた長い黒髪のツインテール。周囲が霞む程の美貌。
綺麗だとか、可愛いだとか、うるさいだとか思う前に、香の中で何かが告げた。『この人だ』と。
目を離せずにいる香に気づきもせず、一行は新設されたラノベコーナーへと進んで行く。
「あ!私もこれ読みたかったの~!ね、菜々美はもう読んだの?」
「うん、勿論。面白かったよ」
「今度漫画も置いてくれるように頼んでみてよ、杉原さん」
杉原……菜々美。
会話の中で彼女の名前を知る事が出来た。が……。
「うん、いいよ。でもパパ忙しいしなぁ」
「じゃあさ、前に欲しがってたあのゲームあげるから!」
「うーん、どうしようかな~。今それよりもリロックの限定ベアーぬいぐるみが欲しいなぁ」
「私、プレゼントするよ!」
「わ、私も!」
「じゃあ紗季ちゃんは薄ピンクの子。悠ちゃんは黒ね。それなら被らないでしょ?」
「う、うん!」
「あ、あの私……」
「無理しないで、真子ちゃん。また今度、気が向いたら一緒にお昼食べてあげるね」
本が敷き詰められた棚の奥から聞こえてくる会話。
「え!?もう私は杉原さんの友達じゃなくなるって事?欲しがってた消しゴムあげたのに!」
「うん、だから今日は一緒に遊んでるでしょ?今日は友達だよ」
なんとも言えない内容に、香は心の中に僅かに生まれた高揚が沈静化していくのを感じていた。
いや、むしろこれは……絶望に近い。
運命の相手に出会えた喜びは、こうして最悪の思い出へと変貌を遂げ、香に暗い影を落とした。
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