通りゃんせ

ヒトは怪奇に直面した時、しばしば本当の自分を曝け出す場面があります。
大抵は醜い部分や、自分の隠していた部分が出るものかと思うのですが、今回の物語は少し毛色が異なります。

怪異に直面し、いざ自分が死の危険に直面したその時に、大切なものに気づく。
そんなこともあるのだなと考えさせられました。
怖い話に出てくる怪異は白か黒かで言えば黒寄りのものが多い（そのほうが成立しやすい）のですが、本作に出てくるモノはニュートラルな立場から自分の心を試す存在であるように感じました。

試される勇気のある方。試される結果を受け入れる胆力のある方。
この深みを是非とも堪能していただきたいです♪

こうした物語に付きまとう男の贖罪の悲話。
そして男がいつも悪者だ。
男も男なりにいつも精一杯。

だが女ほどマルチタスクに優れていない。
すると周囲を省みない男に非がある結末。

だがこの話はホラーな要素で迫り来る切迫感を上手く演出しながらも、必ずしも前述の結果論にのみ終始しないところに得心出来るものがある。

ちょっとすれ違っただけ。
相手のために努力できるのは素晴らしい事。
今回はとても不思議な出来事に巻き込まれた主人公。
主人公がすべて間違っているとも思わない。
でも、もっとやりようはあったかもしれません。
それに気が付く機会を得られたのなら。
それで軌道を修正できるのなら、それはハッピーエンドとなると思います。

短いのに引き込まれて、現実の貴方を見直すきっかけになるかも？
ぜひ、読んでみて欲しいです。

僕は物語の導入ってすごく大事だと思います。

どんなに大切な事も、どんなに素晴らしい事も、どんなに聞いて欲しい事も、物語であるならば、読者をまず「没入」させなければ読んでもらえません。物語ではそこがとても大事なのだと思います。

もちろん「没入」後は、飽きさせず、さらに面白さを深化させ、こちらの予測や思惑を上回る必要があります。良作とはそういうモノだと思います。

そこで、この物語は僕を一気に引き込み、そして興味を膨らませ、気がつけばあっという間に読み終わっていました。それはとても凄い事だと思います。

自主企画参加作品としてお題の消化も完璧で、物語の世界観も満点だと思います。作者様の筆力、…続きを読む