第2話 通りゃんせ(ここは圏外)

「後悔することになるかもしれんぞ?」

「しれないよ?」

「うるせぇっ」


 ヨタヨタと、どこまでも俺は歩く。おかしい。酔っぱらって蛇行しているとは言え、こんなに駅から遠いいはずがない。後ろを振り向くと、真っ暗で真っすぐな道が続いているだけで、先程の婆さんももういない。


「ったく、この時間でも街灯くらい普通…点けておくだろう?」


 俺は何度もスマホを見る。「圏外」そんな馬鹿な!? 俺の使っているキャリアは人口カバー率100%だぞ!?


 完全に道に迷った俺の目の前に、見たこともない古い神社が現れた。


「お参りかい?」


 今度はなんだよ!? こんな時間に爺さんが一人、神社の入り口で座り込んでタバコを吸っていた。徘徊してるんじゃないだろうな? 


 そんな悪態をつくも俺は道に迷っていて、とりあえず駅に戻れればいい。


「あの~、三原駅はどっちですか?」

「お主、ここに来てはならぬお人じゃな」

「えっ?」


―― 通りゃんせ、通りゃんせ。


「ほほぉ~。歌に導かれたか」

「何のことです?」


 爺さんはゆっくり立ち上がり、俺をスキャンするかのように上から下まで舐める様に観察する。気持ち悪い。


「ほうぉ~。お主、今息子が大変なことになってるのぉ~」

「なっ。そうだ! 俺は帰らなくちゃ。蒼空そらが待ってる! 爺さん、帰り方分かるなら教えてくれ! 駅まででもいいんだ」


 俺は爺さんの臭い着物の衿を掴んで懇願していた。


「お主の命と引き換えに、この手の中にある息子を返してやってもよいがの」

「何!?」

「お主にとって、息子は大事か?」

「あ、あたりまえだろ?」

「本当かの~? ヒヒヒ」


 爺さんは重力を感じないかのように、鳥居をくぐり神社の中へ消えてしまった。

 手には子どもの絵が描かれた札を握りしめて。


「おい!! 何とか言え! 俺は帰る! この手で蒼空そらを抱きしめるんだ!!」


 俺はありったけの声を振り絞って叫んだ。酔いがまわり前頭葉がズキズキする。


「言葉が分からないのか? お主の命と引き換えということは、お主はわしの代わりに、ここにとどまるということだ」

「どういうことだよ? わかんねぇーよ」


「お前は、自分の命に代えて息子を助ける覚悟はあるのかえ?」

「あるに決まってるだろ!?」


 ヒヒヒ。気持ち悪い声が暗闇に響く。


 時間がないんだ。何とかしてくれよ。俺は叫び続けた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る