第十三話 縁結び

 私が誠一郎さんにキスをすると、笑い声が聞こえてきた。


「ブハハハハハ、滑稽だな! 妖憑が恋の真似事か?」

 

 異能侍の鎧を身に纏った若い男性が、他の誘拐犯たちの間から姿を見せる。

 他の人たち膝を折って頭を下げた。


 この場に集まる人の中では、一番位が高い人なのだろう。


 私を笑う人を睨みつける。


「なんだその瞳は!」

「キャっ!」


 頬を叩かれて誠一郎様の上に倒れてしまう。


「くくく、父上様もお優しいかただ。男は生きて返すと言うから、私がわざわざ出向くことになったのだ。余計な憂いは残すことはないだろうに」


 この男が誠一郎様を殺すように命令した人物?


「ハァ、全く田舎侍のくせに私の手を煩わせるなんて面倒だな。最初に妖怪を差し向けた際に終わって入ればよかったのに」


 男の言う意味がわからなくて、私は戸惑ってしまう。


「うん? なんだ怪訝な顔をしているのか? 妖憑はわかりづらいな。お前が嫁いですぐに妖怪の大群に襲われなかったか? リーダーは影の妖怪だったと思うが?」


 私は誠一郎様を傷つけた影の妖怪を思い出しました。

 まさか、あれが人為的な出来事だったなんて考えてもいなかった。

 あの後、誠一郎様は三日三晩熱を出したのです。


「妖憑を喰らうチャンスを与えてやったのに、所詮はバカな妖怪だな。数名の村人を殺した程度とは情けない」

「あなたが!」

「ふん、田舎侍が我々御三家に楯突くのが悪いのだ。そんなことよりも貴様は、私に力を与えればそれでいい。さっさと私と縁結びをしろ」

「はっ?」

「ふん。そんなこともできない未熟者なのか? 妖憑の価値など、それ以外にない。縁結びは、夫となる者に力と生命を分け与える異能だ。妖憑ならば誰もが持っている力だ。貴様も持っているはずだろ?」


 私は、誠一郎様と共に勉強した九尾の力の中に確かに縁結びと言う能力は存在した。もしも、その力を誠一郎様に使えたなら。


「わかりました」

「ふん、やっとやる気になったか? ならばさっさと力を分け与えよ」


 若い男性の目配せで、私の妖力を封じていた陰陽術師が術を解除する。


「誠一郎様、さようなら」

「ふん」


 私は妖力を高めていきます。

 どうやって縁結びをするのかなどわかりません。

 ですが、今まで二人で過ごしてきた時間が、二人の思い出が、私の脳裏に浮かんでは消えて、最後に私の胸に誠一郎様への想いが残りました。


「あなたとなんて絶対に縁結びをしません! 私の気持ちも、体も、全ては誠一郎様の物です!」

「なっ!」


 私の妖力が誠一郎様へと流れ込んでいきます。


「止めよ! 縁結びは生涯に一人だけだ! 死人にしても意味などないが、念のために止めよ!」


 陰陽術師が慌てて異能を使おうとしますが、すでに私と誠一郎様の間に繋がりが出来上がりました。


「誠一郎様、どうかお目覚めください。義父様が言われておられました。誠一郎様は怪物であると。首を切られてもすぐに霊力が尽きないはずです。私の妖力をどうかお受け取りください」

「ええい! 我の物とならぬなら、切って捨ててくれる。死ねーーーーーー!!!」


 私の命が尽きようと、誠一郎様をこれ以上傷つけさせない。

 誠一郎様に身を被せて、振り下ろされる刀の痛みをまった。


「なにっ!」


 若い男性が驚いた声を出して、いつまで経っても訪れない痛みに私は目を開きました。

 そこには透明な光が私たちを包み込んでいました。


「燿子」

「えっ?」

「もう大丈夫だ」


 名を呼ばれ、声が聞こえて、私は誠一郎様から離れました。


「誠一郎様?」

「うむ。どうやら無事なようだ。それに」


 私たちはキラキラと光りに守られていた。


「どうやら、これが燿子の妖術なのだな」

「えっ? 妖術?」

「ああ、燿子が私に力を授けてくれたのであろう? 微かではあったが会話が聞こえていた。意識が遠のく中で燿子が私を思っていてくれていたのが伝わってきた。ありがとう」


 誠一郎様にお礼を言われて、自分がどのようなことを発していたのか、わからなくて恥ずかしくなる。


「クソが! 縁結びは成就した。妖憑ももういらぬ。二人を殺せ!」


 怒り狂った若侍に他の誘拐犯たちが臨戦態勢を取られました。


「燿子、君は妖術を使うことに慣れていない。それに縁結びをするために妖力を消費しているようだ。ここは私に任せてくれるか?」

「えっ、あっはい」

「それとな。燿子は凄く綺麗だ」

「えっ!」


 私の頬にキスをした誠一郎様が立ち上がりました。


「斎藤家の方々に、藤原家の陰陽師方とお見受けする。先ほどの斎藤殿の話は私の耳にも聞こえてきました。すでに言い逃れはできませぬがよろしいか?」

「ふん、何を言っておるか! 貴様らはここで終わるのだ。そのような情報が他に出ると思うなよ」

「よろしい。言い訳をされないところは潔ぎ良し」


 刀を持っておられない誠一郎様は手を翳されました。


「これがあなた様が欲した燿子の力にございます!」


 誠一郎様が念じると同時に、数名の人たちが狐火によって飲まれていきます。


 残されたのは、私たちを最初に捕まえた忍び。私の力を封じた陰陽師。そして、若侍の三人だけです。


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