エピローグ

 三人を拘束した誠一郎様は、叢雲家の方々がいらっしゃったことで、咎人を預けられました。 

 そして、妖力を使った私は立つことができなくて、誠一郎様に抱き上げられてしまいます。


「誠一郎様!」

「良いのだ。私がこうしたい。共に帰ろう。我が家に」

「はい。旦那様」


 私たちは、縁結びの能力によって、寿命も、妖力も分け合った夫婦にございます。


「燿子。先ほども言ったが綺麗だ」

「何をいわれるのです? 私のような狐顔を」

「ふふ。やはり気づいておらぬか」

「えっ?」

「自分の顔を触ってみよ」


 誠一郎様に言われて、私は自分の顔に触れました。

 普段であれば獣のような毛深い感触が返ってくるはずの我が顔は、毛など微塵も感じぬ肌の弾力が帰ってきました。


「えっ!」

「妖力を大量に使ったからなのか、はたまた私を縁結びをしたからなのかわからぬが、今の燿子は美しい女性の顔をしておるよ」

「……」


 なぜでしょうか? 普段は狐の顔をしていた自分は人の顔をしていると思うだけで、物凄く恥ずかしゅうございます。顔が熱くなっていくのを感じます。


「そう恥ずかしがる物ではない。燿子は最初に会った時から心が綺麗であった。私はそれだけでも幸福を感じていたのだ。だが、心だけでなく顔も綺麗なので、私は幸福者であったと喜んでいるのだ」


 私は自分の顔が見えませんぬ。

 ですが、誠一郎様は綺麗綺麗と言ってくださるので、もっと恥ずかしくなって、耳まで熱く感じまする。


「ずっと、私は自分に自信がなくて君を待たせてきた。だが、君のおかげで自信と共に歩む決意を固めることができた。本当にありがとう」

「私の方こそ、狐顔の妖憑である私を娶っていただき、愛していただき心より感謝しております」


 屋敷に着くまで、誠一郎様と夫婦としての語り合いを行うことができた。

 屋敷の前では、義父様や幸次郎様、真冬様が私たちを心配して待っていてくれたのです。


「無事であったか?」

「お義姉様、顔が!」

「うむ。綺麗な女子じゃ!」

「なっ! 幸次郎様は私がいればいいのです」


 幸次郎様が私を褒めてくださると、真冬様が嫉妬して幸次郎様を凍らせてしまいました。ふふ、お二人はとても仲が良くてよろしいですね。


「うむ。縁結びが完了したようだな」

「義父様は知っておられたのですか?」

「いや、ワシも帝に知らせを受けたのだ。誠一郎には何も話してはおらんなんだが、二人の絆が強ければいずれはそうなると思っておった。良き夫婦になったな」


 義父様の大きな手で、私と誠一郎様の頭が撫でられました。


「それとな、斎藤家、藤原家に関しては、我が叢雲家及び、朝守家から抗議を送っておくので任せておけ」

「父上に任せてもよろしいのですか?」

「ああ、可愛い娘を攫い。息子を死に至らしめる傷を負わせたのだ。相応の報いを受けさせると約束しよう。朝守も同じ気持ちであろうしな」

「父上がですか?」


 義父様の言葉に、私は驚きを表してしまう。

 お父様はお優しい方でした。

 ですが、家族から隔離して、私に家事手伝いを仕込ませたのは父上で、てっきり私は思われていないのだと思いました。


「彼奴は不器用でな。燿子殿が一人で生きていけるように心を鬼にして、手仕事を覚えさせたと言っておった。まぁ叢雲家が嫁に欲しいと言った時は烈火の如く怒って反対したが、誠一郎の境遇ならば互いに支え合えるのではないかと思ったのだ。そして、ワシの予想通り。二人は試練を乗り越えて縁結びを果たした。それは互いに心を通じ合わせた証拠じゃ!」


 義父様の言葉に私はまたも顔を赤くしてしまう。

 ですが、誠一郎様は嬉しそうに笑っておられて、私もなんだか頬が緩んでしまいます。


「ガハハハ、二組の息子夫婦から孫が産まれるのが楽しみでならんわい。主らの安全はワシが保証しよう。このようなことは二度を起こさせぬ。奴らには地獄の苦しみを味合わせてやろうぞ」


 義父様が今まで見たこともない恐ろしい顔をしておられました。

 それを見せまいと、誠一郎様が歩みを進めます。


「父上、そろそろ燿子を休めたいと思いますので」

「うむ。よくぞ生きて戻った。誠一郎、お前も立派な叢雲家の男だ」

「はい!」


 お二人の姿が眩しくて、私は叢雲家に来て良かったと思いました。


 ふと、私たちの家へと入って、座らせられると誠一郎様がお風呂の用意をしてくださいます。


「燿子、今宵は共に入らぬか?」

「……はい」


 今晩は私が、誠一郎様をお誘いするつもりでしたが、誠一郎様から私を導いてくださいました。


 私たちは、寝屋を共にしました。



 叢雲家にきて、三年が過ぎようとしています。


「誠二郎! あまり危ないことをしてはいけませんよ」

「母上! 私は父上のような強い男になりたいのです!」


 三歳になった息子は、誠一郎様の背中を見て成長をしております。

 誠一郎様に似た我が子が可愛くて可愛くて、私の宝に間違いありません。


 ですが、ふとしたとき。


 私の前にはある影が浮かんでは消えていくのです。


《幸せを感じるがいい。我の復活が近い》


 そういった美しき九尾の妖狐が私を見ているような気がするのです。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

あとがき


どうも作者のイコです。


少し間を空けてしまいましたが、完結になります。

コンテストは厳しそうですが、他作品のあるので一旦終わらせます。


読んで頂きありがとうございました。

他の作品も書いておりますので、よければ読んでみてくださいね^_^

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

妖憑娘と無能侍の結婚 イコ @fhail

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ