第十四話 無能侍

《side叢雲誠一郎》


 燿子と過ごす日々は、私にとって幸福以外の何者でもない。

 いつでも燿子と子を成して、叢雲家を盛り立てていきたい。

 だが、これは私の少しばかりの我がままではあるが、もう少しだけ燿子と二人きりの時間を大切にしていたいと思う。


 その日も燿子が酒に付き合ってくれると言うので、舞い上がって二杯も飲んでしまった。私は異能も持たないために弱く。酒も物凄く弱い。


 飲むことは好きだ。

 酒の味も好きだ。

 だが、体が受け付けぬのだ。


「私もお付き合いします」


 その言葉が嬉しくて二杯目を飲んだあたりから記憶が曖昧になって眠ってしまった。次に目が覚めると私は体を縛られ、燿子も同じような状態だった。


 そして、私の首元に刀が当てら、燿子が涙を浮かべて止めようとする。

 しかし、私は猿轡をされて言葉を発することができなかったため、意識を集中させることにした。


「やっ! やめてください。私がなんでもしますから、誠一郎様を殺さないで」

「すまないがそれはできない」


 そう言って、男は刀を引いた。


「いやーーー!!!」


 首筋の皮を切らせて、血が出るギリギリを切らせる。

 状況を見守りながら、時を待った。


 様子を見ていると、御三家と呼ばれる斎藤家の長男が姿を見せた。

 そうか、これは斎藤家の謀であったか、しかも影の妖怪もそうとは、大胆なことをしてくれたものだ。


「あなたとなんて絶対に縁結びをしません! 私の気持ちも、体も、全ては誠一郎様の物です!」

「なっ!」


 燿子の妖力が高まり、それが私へと流れ込んでくる。


「止めよ! 縁結びは生涯に一人だけだ! 死人にしても意味などないが、念のために止めよ!」


 暖かな温もりとなって、燿子に包まれていく。

 妖力は霊力と異質に入れることがあるが、こうして感じてみれば、同じものだと理解させられる。


「誠一郎様、どうかお目覚めください。義父様が言われておられました。誠一郎様は怪物であると。首を切られてもすぐに霊力が尽きないはずです。私の妖力をどうかお受け取りください」

「ええい! 我の物とならぬなら、切って捨ててくれる。死ねーーーーーー!!!」


 私へ妖力を注いで力を弱めた燿子は、それでも私を庇うために覆い被さった。


「なにっ!」


 燿子を守るために結界を張った。

 いや、これも九尾の力だ。


 書物で見た結界の力。


 普段、どれだけ異能を使おうと訓練してきたもできなかったことが今ならできる。


「燿子」

「えっ?」

「もう大丈夫だ」


 私は状況をずっと聞いていた。

 話すことができず、首を切られ、それでも体内に溜め込んだ霊力で身を包み。

 音だけに集中していた。


 だからこそ、全てを理解できた。


 燿子と私の間に結ばれたエニシは、固く強く、暖かい。


 そして、私に力を分け与えた燿子の顔は狐ではなかった。

 美しい女子の顔がそこにある。


「それとな。燿子は凄く綺麗だ」

「えっ!」


 本当はいますぐ連れ帰って接吻を交わしたいところではあるが、頬に口付けをすることで止めた。


「斎藤家の方々に、藤原家の陰陽師方とお見受けする。先ほどの斎藤殿の話は私の耳にも聞こえてきました。すでに言い逃れはできませぬがよろしいか?」

「ふん、何を言っておるか! 貴様らはここで終わるのだ。そのような情報が他に出ると思うなよ」

「よろしい。言い訳をされないところは潔ぎ良し」


 私は容赦なく九尾の力を使うことにした。

 燿子は訓練の途中で上手くは使えない。

 私は訓練だけは何年もしてきた。

 使うことに関しては、誰よりもイメージしてきた。


「これがあなた様が欲した燿子の力にございます!」


 狐火が忍びたちを飲み込んでいく。


 残った三人は首謀者と思しきものたちだ。

 私たは、九尾の力を使って、彼らの異能を封印する。


「なっ!」


 封印を得意としていた陰陽術師が、己の力を封じられて驚愕した表情を見せる。


「ならば!」


 異能侍も元は侍。

 刀があれば戦闘はできる。


 斎藤殿が刀を振りかぶって、反撃を試みるが無駄に終わる。


「あなたの腕は無能侍の私にすら劣る」


 無手で、剣を弾いて奪い取る。

 さらに、後ろから燿子を狙った忍びの首に刀を当てた。


「お前だったな。私の首を切ってくれたのは?」

「くっ!」

「九尾の力は火だけではないぞ」


 人体を強化して怪力無双になれる九尾は、軽々と忍びを持ち上げて、斎藤殿の上へと叩きつけた。

 二人の男が重なるように気を失い。陰陽術氏が自害しようとしたが、それを止めさせる。


「全てを吐いてもらう前に殺しはしない」


 三人を制圧して、燿子を振り返れば唖然としていた。


「もう大丈夫だ。立てるか?」

「もっ、申し訳、腰が抜けて」

「良い。ならば」


 私は燿子を抱き上げた。

 

「せっ、誠一郎様! 恥ずかしゅうございます」

「気にするな。私がこうしたいのだ」


 抱き上げると、狐の尻尾だけが残っていて、それもまた可愛らしい。


「おーい! 誠一郎!」


 山の奥にある洞窟だった場所へと父上が探しにきてくれた。


 私は事情を話して、中で眠っている三人を父上へと引き渡した。


「疲れているなら、寝てしまいなさい」

「ありがとうございます」


 気丈に振る舞っていた燿子は、危険な目にあった疲労と、私へ妖力を渡した反動で眠りについてしまった。

 その顔はとても美しく、見ているだけで顔が熱くなる思いがする。


「ふむ。とうとう縁を結んだか」

「はい。父上。燿子が私を受け入れてくれました」

「めでたいのぅ。多分だが、帝から都に来るように命があるだろう」

「それは」

「まぁ今は良い。私は私で斎藤家と藤原家に少しばかり用事ができたのでな。今しばらくは二人で休めよ」

「はっ!」


 私は燿子を連れて家へと帰り着いた。

 幸次郎と真冬さんに出迎えられたが、燿子が眠っていることを理由に事情は後日話すことにした。

 二人は、燿子の様子に安堵してくれて、良き弟夫婦だと笑ってしまう。


 家に入ると、私はもう一度燿子の美しい口元に接吻をして、手を繋いで眠りについた。


 起きた時に狐になっていようと、私たちは本当の夫婦になったことを喜びあいたい。


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あとがき


どうも作者のイコです。


プロットで書いた中編コンテスト用の内容は以上になります。

ですが、もう一、二話だけエピローグを追加して終了にしたいと思います。


中編コンテストに通れたら、ざまぁ要素とか、もっと夫婦のイチャイチャ話とか、時代背景の深みなども出したいなぁ〜と思っております。


応援いただければ幸いです。


それではエピローグまでどうかお付き合いくださいませ。

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