第十一話 様々な思惑

《side???》


「叢雲家が、また妖憑を嫁にもらったというのは本当か?」

「どうやらそうらしい」

「なぜ、あの田舎侍ばかりが、優遇される。本来であれば、我々藤原家が婚姻を結ぶ順番であろう?」

「そんなものは帝のお心次第だ。今回も叢雲家の次男が成人した祝いに、同年代の妖憑が出たのだ」

「そんなもの! 年齢など関係あるまい。どうせ妖憑は長寿なのだ。長く生きれば生きるほど強くなる」


 帝がここ数百年変わっていない。

 それは、帝の妻として妃に君臨する人物が妖憑だからだ。


 世間的には妖憑は、忌み嫌われる存在であるが、異能を持つものたちにとっては別の意味を持つ。

 それは己が能力を高めてくれる存在であり、また縁結ぶを成功させたなら、それが永き時と素晴らしき力が手に入ることを意味しているのだ。


 だが、この事実を知っているのは限られた人間だけであり、叢雲家は異能の家ではあるが、その事実を知らない下級異能家であると認識されている。


「我が一族はますますの繁栄を望んでいるのだ。妖憑は貴重な存在。それを帝はわかっておられるのか?」

「ならば、どうする? 我々が奪い取るのか?」

「そんなことをすれば帝の反感を買うかもしれないではないか?」

「それが怖いか?」

「何!? 貴様は怖くないのか?」

「ふん、そろそろ帝も数百年が経って、お力も弱まり始めているのかもしれぬ。だからこそ、田舎侍に力を持たせて、力が強まっている我々の抑止力にしようとしているのではないか?」

「なるほど」


 齢五十を超え、異能の力が最高潮に高まった陰陽術師の家系である藤原は、自らの力に誇りを持っていた。

 そして、同じく異能侍として、力を発揮し始めた斉藤家は藤原家と共に力を欲していたのだ。


「何、我々が動けばことは大きくなる。我が家の者から刺客を送り、妖憑だけを奪えば問題ない。最悪、叢雲家の一族郎党が死のうとそれは我々とは何の関係もなく。また、たまたま保護した娘が妖憑だったというだけだ。二人もおるなら、我が家とそちらで分ければ問題あるまい?」

「くくく、斉藤。貴様は悪いのう。ワシにはそのようなことは思いもつかんんだ」


 そう言いながらも発案否定することなく、手元に置かれたお猪口に入った酒を一気飲み干した。


「よかろう。その案に乗ってやる。ただし、手下は我が一族からも出そう。抜かられてはことが大きくなった際に困るからのう」

「信用がないものだ」

「これは互いの家の命運をかけたことだ。抜かるわけにもいくまい」

「くくく、まぁ良い。失敗すれば尻尾を切るだけ、成功すれば、我々には莫大な力が手に入る。あのような何も知らぬ。田舎侍のどいなくなったところでどうでも良い」


 二人の間でよらめく蝋燭の灯りが消え去り、互いの影は消えていく。



 会合を終えた斎藤は廊下を歩きながら、護衛をしている忍びに声をかけた。


「手筈はどのように進んでおる?」

「すでに叢雲の一族がいる街には潜伏が成功しております」

「相手の力量を見誤るなよ。叢雲は強い。無能と呼ばれる誠一郎ですら、中位の魔物を軽くあしらえる力を持つのだ。決して侮るな」

「我々はどう動かれるのですか?」

「何、藤原の老害を上手く乗せることができた。あとは、藤原が力任せに暴れてくれれば、我々は利を得る」

「なるほど! さすがはご当主様」

「だが、決して油断はするな。我々も正面から戦って叢雲に勝てるとは言いづらい。精々が相打ち。下手をすれば、現当主の叢雲源一郎には、勝てぬかもしれぬ」


 忌々しい御前試合を思い出す。


 我は、叢雲源一郎に帝の前で敗北を期した。


 帝都に住む御三家と言われた我々斎藤家が、叢雲家よりも下に言われるようになったのは、だが、我が一族には天才と言われる息子が生まれ。


 叢雲家には無能と呼ばれる息子が生まれた。


 時代は次の世代に移った。

 

 それなのに帝は天才と言われた我が息子にではなく、無能と言われた叢雲源一郎の息子に妖憑を嫁がせたのだ。許せるはずがない。


 いくら、御三家筆頭の朝守家の願いであっても聞いておいことと悪いことがある。


「父上おかえりになられたのですか?」

「うむ。ことが成就した。あとは機を待つのみだ」

「それはおめでとうございます」

「うむ。もうすぐお前の元に妖憑の娘が嫁にするのだ。心して落とせよ」

「委細承知しております。所詮は田舎娘にすぎません。都の煌びやかな物買い与えておけば問題ないでしょう」

「ふん。女子遊びもほどほどにいたせよ。縁結ぶは女性が認めた男にしかせぬ。しかも一度きりだ。貴様が失敗すれば、力は手に入らぬと思え」

「その時は私の刀で、妖憑を殺しましょう」


 息子ながらに天才の刀は恐ろしい。

 だが、我が斎藤家が筆頭御三家になり、ゆくゆくは帝に牙を向けるためには必要なことなのだ。


「決して抜かるな」

「はっ!」


 ワシは、戯ける息子に威圧を飛ばして黙らせた。


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