第十話 義理の妹

 幸次郎さんと真冬さんが、霊力と妖力を纏って激突されます。

 真冬さんの吹雪を受けながら、進んでいく幸次郎さん。

 互いに無表情で、どちらが優先なのか全くわかりません。


「ガハハハ、夫婦になった途端に夫婦喧嘩とは、幸次郎も仲が良いのぅ〜」

「え〜と、あれはそういうものなのですか?」

「うむ。燿子殿はお淑やかで良い嫁じゃ。じゃが、本来の妖憑は、力に振り回されておるか意思を奪われることが多い。あの真冬も強い力を持っているが故に自分の意思とは関係なく力が暴走するのであろうな」


 力の暴走。


 そう言われて、私は自分の中にある九尾の力が暴走しないのか不安になってしまいました。


「朝守家は、燿子殿を大切に育てたのであろうな。心が穏やかで安定しておる。初めて見た時は驚いたほどじゃ。燿子殿。どうか誠一郎とゆっくり成長なされよ。間違っても力を求めるようなことはないことを祈っておるぞ」

「はい! 私には誠一郎様がおられますので」

「くくく、惚気が言えるのであれば問題あるまい」

「あっ!」


 私は、自分で発した言葉で顔が熱くなるのを感じました。


「燿子、父上。そろそろ終わりが近いようです」

「うむ。私も燿子殿とゆっくり話すことができた」

「燿子、大丈夫か? 父上に変なことは言われていないか?」

「おい! それはどういう意味だ!」

「そのままの意味です。父上はたまに余計なことを言うので」

「お前なぁ〜」


 私は初めて誠一郎様と義父様が話をされている姿を初めて見ました。

 意外ではありましたが、お二人はこんなにも気軽に物を言い合える関係だったのですね。


「どうかしたのか? 燿子?」

「あっいえ。いつもお優しい誠一郎様が、義父様には辛辣なお姿を見て、少し可笑しくて」

「うん? そうか?」

「そうだそうだ。誠一郎は自分にも厳しいが、ワシにも厳しいのだ。もっと父を敬え」

「何をおっしゃられているのですか? 私はきちんと父上のことを尊敬して敬っております」


 真顔で話す誠一郎様が可笑しくて、私はまた笑ってしまう。


 そんな私たちの緊張感のない会話をしている間も、幸次郎さん真冬さんの動きが佳境に入っております。

 真冬さんが放つ吹雪が勢いを増していく中で、幸次郎さんが刀も構えないで、吹雪を真っ直ぐに進んで行かれます。


「わっ、私は!」

「もう良い」


 二人の会話はそれで終わりでした。

 幸次郎さんは、真冬さんの前にたどり着くとキスをしました。


 寡黙で何を考えているのかわからない幸次郎さんでしたが、意外に大胆で私は顔を手で隠してしまいます。


「おうおう、若い者はいいのう」


 義父様がヤジを飛ばされている中で、私はつい誠一郎様を見ました。

 誠一郎様は、私のことを見て、義父様に隠れて頬にキスをしてくださいました。


「まぁ」

「私たちの方が仲が良い」


 誠一郎様の子供みたいな対抗意識が微笑ましくて、私はなんだか気恥ずかしさと嬉しさが込み上げてきます。


 真冬さんと幸次郎さんの間に何があったのかはわかりません。

 ですが、抱きしめられてキスをした真冬さんは大人しくなり、祝言は滞りなく終わりを迎えました。



 あの祝言から数日が経って、真冬さんが私の元へ挨拶に来てくださいました。


「燿子義姉様、叢雲家に嫁いで参りました。真冬にございます」

「姉上、ご挨拶が遅くなってすまない」


 幸次郎さんとお二人でやってきて挨拶をしてくれますが、二人とも寡黙で無表情なところがあるので、私としてはどうすれば良いのか戸惑います。


「ご丁寧なご挨拶ありがとうございます。お二人は上手くやれていますか?」


 私はこんな二人で大丈夫なのか心配になって問いかけます。

 もしも困っていることがあれば、少しでも力になってあげたい。

 お二人とも私と同い年ということなので、仲良くできれば嬉しいです。


「うむ。真冬の作る料理は美味い」


 意外にも幸次郎さんは、ちゃんと真冬さんに美味しいと言ってあげられる人でした。


「よくして頂いております。あれ以降は暴走も抑えられておりますので、あのようなことは二度とないと誓います」

「わっ、私は迷惑はかかっていませんから大丈夫ですよ。それよりもこれからは同じ叢雲の嫁として、お家を盛り立てていきましょう」

「はい! 燿子義姉様」


 なんでしょうか、意外に真冬様は可愛らしいお人です。

 幸次郎さんが褒めた時と、少しだけ顔を赤くして。

 私に挨拶する時も、恭しい方です。


「ふふ、何か困ったことがあれば助け合いましょう。幸次郎様も、真冬さんを大切にするのですよ」

「うむ。約束しよう」


 幸次郎さんは寡黙で無表情ですが、誠一郎様がいうようにお優しい方のですよです。二人の行く末が私たちと同じく幸せであれば良いのですが。


「それで? 姉上の子供はいつ生まれる?」

「はっ?」

「すでに嫁いで三月が経つ、そろそろ兆候が現れるものかと今後のために学んでおこうと思ってない」

「旦那様。失礼です」


 私が唖然としていると、幸次郎さんが氷漬けになりました。

 ですが、しばらくして中かから氷が砕かれる。


「こら、真冬。いきなり氷漬けにされたら寒いだろ」

「今のは、旦那様が悪いです。女性にそのようなことを聞く物ではありません」

「そういうものか? うむ。姉上すまなかった。私は家族が好きだ。だから、家族が増えることを喜びたいと思っただけなのだ。すまない。兄が姉上を溺愛しておられるのでてっきり」

「旦那様!」

 

 またも幸次郎さんが氷漬けになりました。


 私は唖然としておりましたが、どうやらお二人は上手くやれているようです。

 幸次郎さんは少しだけ口が過ぎるところがありますが、真冬さんが上手く手綱を握ってくれそうです。


  それに誠一郎様に溺愛されていることは自覚しております。

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