第三話 二人の生活
祝言を終えた私は長い旅のせいで疲れてしまい宴が終わってお部屋案内して寝巻きへ着替えると、すぐに寝てしまいました。
本来は初夜を迎えるはずだったのに、そんな私を誠一郎様は何も言わずに寝かせてくださいました。
「もっ、申し訳ありません」
朝、目覚めた私は誠一郎様よりも遅くに目を覚ましたことを謝罪しました。
「何を謝ることがある? 長旅で疲れていたのだ。ゆっくりと休まれよ」
誠一郎様は私よりも二つ上の十七歳。
体躯は立派で、その手に握る木刀は普通の物よりも太い。
「しっ、しかし、妻が旦那様よりも遅くに起きるなど」
「気にすることはない。ここは我々二人が暮らす離れだ。本邸からは距離があり、私付きの女中も一人しかおらん。燿子には不便をかけるかもしれぬが、二人で力を合わせて頑張っていこう」
お優しい誠一郎様に、それ以上の謝罪は不要であると言われてしまった。
最初から上手くいかない。
朝食は女中さんが作ってくれた物を二人で食べた。
味付けは違うが、タエさんが作ってくれた物に似ていて、美味しかったです。
タエさんに家事全般を教えて頂いてよかった。
片付けは私がしました。
「誠一郎様は、朝から何をなされていたのですか?」
「訓練だ」
朝食を終えてお茶を注ぎます
ふと、朝に見た光景を思い出して、問いかけてみました。
誠一郎様は私の狐顔を見ても、嫌そうな顔をすることなく普通に話をしてくださいます
「聞いていると思うが、私には異能がない。叢雲家は異能侍の家系だ。妖狩りをして生計を立てている。だが、私は霊力はあるが異能を持たないので、領地の経営を主の仕事だと父上に言われているんだ」
自分は異能がないから侍ではない。
そう言っているようにも聞こえて、私にはわからない誠一郎様の苦悩があるように思えました。
「だが、何も悲観しているわけではない。私は侍の子として恥じぬように剣術の鍛錬を怠るつもりはない。それに領主の仕事として机の前でそろばんを弾くのも存外悪くはないのだ」
誠一郎様は、苦悩を隠すように豪快な笑みを浮かべられて、私の心配を払い除けられました。
汗を流すと言って着物前を肌けられた誠一郎様は、手拭いで体を拭かれました。私はそれが恥ずかしくて目を背けてしまいます。
「男の裸は苦手か?」
「いえ、見慣れぬため、恥ずかしいだけでございます」
「ふふ、そうか。燿子はほんに可愛い女子じゃな」
「なっ! そっそんなことはありません。私は成人した大人の女性です」
「そうであったな」
「あっ、妖憑ではありますが」
自分で言っていて、気持ちが沈んでしまう。
「そう、自分を蔑む物ではない。妖憑であろうと人の子だ。人が持つ異能とは違う力を持つだけに過ぎない。狐の顔をしているのも、異能を発言しているのと同じだと言われている」
「そうなのですか?」
十年前に見てもらった時とは違うのだろうか? それに妖憑は昔から居たと言われている。
「ああ、妖憑は妖を体内に同化させ、妖の力が取り込めんだ者だ。完全には取り込めない者も、妖の力の一端を表しているのが身体的な特徴だと言われているんだ。そうだ、燿子は異能を使ったことはあるか?」
「あっ、ありません」
「うむ。私も異能は使えないので、訓練しか知らぬが、私の手を取ってくれ」
「はっ、はい!」
初めて握る誠一郎様の手は、剣タコが固くなっている男性的なゴツゴツした手でした。
「燿子の手は小さくて可愛いな」
「そっ、そんなことはありません! 水仕事をして、爛れています」
「働き者の良い手だ」
恥ずかしくて、顔が熱くなってしまう。
「九尾の狐がついていると言うことであった。狐と言えば炎であろうか?」
「そうなのですか?」
「私も人伝にしか聞いたことがないが、九尾の狐は尾の数だけ、能力があると言われている。その一つに火を生み出している九尾がいたと聞いたことがある」
博識な誠一郎様に感心してしまう。
私は妖憑になっているのに、自分についた九尾について何も知らないままでした。
「誠一郎様は博識なのですね!」
「私も異能侍の家に生まれた物だからな、妖の勉強はするのだ」
苦笑いを浮かべられた誠一郎様に、私は失礼なことを言ってしまったのだと思いました。
「もっ、申し訳」
「謝らなくていい。私に取っては常識でも、燿子が知らぬのは恥ではない。互いに話し合うことで知り合えば良い」
「ありがとうございます」
「うむ。とにかく炎を出すならば、家の中では危ないだろう。こちらへ」
手を引かれて一本の木がある場所へと案内して頂きました。
「あっ、あの、この手は?」
未だに握られた手を見て恥ずかしさを感じる。
「うん? ああ、霊力を流して見たが反応はない。逆に燿子の力を感じられるかも知れぬ。このままでいいだろう」
恥ずかしく思ってしまいますが、誠一郎様が良いのであれば。
「燿子。まずは火を見たことはあるか?」
「もちろんです。家では料理をしていましたので」
「そうか、いつか燿子の手料理を食べさせてくれ」
「夫婦なのです。いつでもお作りします」
「楽しみだ。それでは料理で使う火を思い浮かべてくれ」
私は誠一郎様と握っている手とは反対の手に火を浮かせるイメージを持って見れば、綺麗な青色の炎がメラメラと揺れています。
私の手から炎が生まれるなど不思議な光景で、じっと見つめてしまいます。
「綺麗だな」
「えっ?」
声をかけられて驚いた私は炎を手放してしまって、目の前にある木へと炎が飛んでいきます。
木が燃え始めました。
「あっ! 木が」
「いいのだ。そのためにここに来たのだから。それにしても強い妖力だな」
「妖力?」
「ああ、人が生み出す異能は霊力と呼ぶ。だが、妖憑が使う力は妖怪の力なので、妖力と呼ぶのだ」
妖力? 私は自分の中にあった不思議な力を知りました。
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